夢見る気持ち

「でもさあ、桃子の場合、就職というか、作品が売れなきゃ駄目ってことでしょ。ちょっと大変よね」
横から成美がその話題に触れてくると、私は、ため息をつきたくなった。成美はまた私の痛いところをついてきたなあと、もうむっとする気も起きなくなった。結局のところ、私がいけないだけの話なのだし。
「そうね。画家っていったらその他大勢の一人というわけにもいかないもんね。そう考えると私はただのOLでよかったかもしれない」
うっすらと笑顔を浮かべながら答える理恵の顔を見ていると、高校時代の頃の理恵のことが思い出される。
「私、大学行けないんだって」
突然高校の帰り道に、ぽつんと言った理恵の言葉に、一緒に帰っていた私達は驚愕した。
「行けないって、どういうこと」
「そうだよ、理恵はいつも学年トップの成績だし。理恵が行けないなら誰も大学行けないよ」
私達がそう言うと理恵は、悲しそうな笑みを浮かべながらこう答えた。
「親がね、仕事で失敗しちゃったの。借金がいっぱいで私の大学の費用どころじゃないんだって」
「でもでも、奨学金っていう手もあるし」
私が慌ててそう言うと、理恵は首をゆっくり振った。
「家にお金を入れて欲しいって言われたの。大学行くぐらいならって」
私達二人はその後、何も言えなくなって、黙って三人で歩いて駅まで行ったのが思い出された。
あの時の理恵と今の理恵じゃあ、全然違うのだ。考え方も、生き方も何もかも違う。違わないのは、私だけなのだろうか。一番自分が変わってないのかもしれない。
そう思うと、自分は何をやっているのだろうという気になってきた。私は自分の希望の大学に行って、思い切り自分の絵を描ける境遇にいるのに、何をしているのだろう。自分の情けなさとは別に、理恵はほんとに強くなったなあと思った。
カクテルを片手に、成美と笑いながらしゃべっている理恵を見ると、別人のように見えた。
人は変わるのだ。そして自分だって変わるはずなのだ。変わった先に何があるのだろう。私は桜の姫を飲みながら、二人の友人が楽しげにしゃべるのを、ぼんやりと聞いていた。