「今日はどんなものを出しましょうか」
バーテンダーの問いに理恵は背中まである長い髪を揺らしながら、さらりと答えた。
「お花見の時期に飲ませてもらったカクテルがいいんですけど」
「ああ、あれですね。お二方はどうしますか」
訊かれて、私と成美は顔を見合わせたけれども、すぐに理恵が応じた。
「二人にも同じもの出してください。あのカクテルとても美味しかったから、二人に飲ませようと思って今日は来たんです」
「そうですか。それは光栄ですね。それではすぐにお出ししますね」
バーテンダーは何やら後ろの棚からお酒のボトルと怪しげなシロップを出すと手際よく、シェーカーの中に入れ、上下に小気味よく振って、三つ分のカクテルを私達のために作ってくれた。
「お待たせしました桜の姫です」
その飲み物は、上の方は乳白色に輝き、下に行くにつれ、淡いピンクのグラデーションがきれいに浮かびあがり、晴れやかな空の下、美しく咲き誇っている満開の桜が連想された。
「すごい! きれい」
成美は一声叫ぶと、その美しい飲み物をじっくりと見つめている。
私も私で、桜の姫に手を伸ばし、この美しいグラデーションを壊すのは、なんてもったいないんだろうと思った。飲んだらその絶妙なグラデーションが壊れるのは目に見えて分かる。それでも、理恵は、さっとその桜の姫を手にとり、私達二人に向けてグラスを掲げた。
「はい、二人ともお疲れさま」
「お疲れね」
「うん、お疲れさま」
私も渋々グラスを掲げた。成美はすぐに一口飲んで、更に叫んだ。
「うわあ、甘酸っぱくて美味しい! これ最高ね、理恵」
「でしょ、ほら、桃子も飲みなよ」
言われるままに私も一口飲んでみる。口の中に爽やかな甘みが広がっていく。ふんわりとした甘味とたまに柑橘系の酸っぱさが、ぱっと浮かび上がってくる味は絶妙だった。
「美味しい」
素直にそう言うと、理恵は私の顔をのぞき込みながら、
「でしょ!」
と相づちを打った。理恵は、にこにこしながら私達二人に言った。
「さっ、二人ともきちんと仲直りするのよ。その代わり私がおごってあげる」
「やったー、おごってもらえるのね。助かる!」
私がそんなんじゃないよと言う前に、成美は即座に、嬉しそうに答えていた。これだから成美は調子がいい。そこがまた長所と言えば長所なのかもしれないけれど……。
「でもなんか悪いよ」
そうは言っても、おごってもらうのはお門違いのような気がして私が言うと
「いいの、いいの。今日は私のおごりで。その代わり二人がちゃんと仕事に就いたらおごってね」
理恵は、おねえさんっぽく桜の姫を軽く飲みながらそう言ってのけた。
バーテンダーの問いに理恵は背中まである長い髪を揺らしながら、さらりと答えた。
「お花見の時期に飲ませてもらったカクテルがいいんですけど」
「ああ、あれですね。お二方はどうしますか」
訊かれて、私と成美は顔を見合わせたけれども、すぐに理恵が応じた。
「二人にも同じもの出してください。あのカクテルとても美味しかったから、二人に飲ませようと思って今日は来たんです」
「そうですか。それは光栄ですね。それではすぐにお出ししますね」
バーテンダーは何やら後ろの棚からお酒のボトルと怪しげなシロップを出すと手際よく、シェーカーの中に入れ、上下に小気味よく振って、三つ分のカクテルを私達のために作ってくれた。
「お待たせしました桜の姫です」
その飲み物は、上の方は乳白色に輝き、下に行くにつれ、淡いピンクのグラデーションがきれいに浮かびあがり、晴れやかな空の下、美しく咲き誇っている満開の桜が連想された。
「すごい! きれい」
成美は一声叫ぶと、その美しい飲み物をじっくりと見つめている。
私も私で、桜の姫に手を伸ばし、この美しいグラデーションを壊すのは、なんてもったいないんだろうと思った。飲んだらその絶妙なグラデーションが壊れるのは目に見えて分かる。それでも、理恵は、さっとその桜の姫を手にとり、私達二人に向けてグラスを掲げた。
「はい、二人ともお疲れさま」
「お疲れね」
「うん、お疲れさま」
私も渋々グラスを掲げた。成美はすぐに一口飲んで、更に叫んだ。
「うわあ、甘酸っぱくて美味しい! これ最高ね、理恵」
「でしょ、ほら、桃子も飲みなよ」
言われるままに私も一口飲んでみる。口の中に爽やかな甘みが広がっていく。ふんわりとした甘味とたまに柑橘系の酸っぱさが、ぱっと浮かび上がってくる味は絶妙だった。
「美味しい」
素直にそう言うと、理恵は私の顔をのぞき込みながら、
「でしょ!」
と相づちを打った。理恵は、にこにこしながら私達二人に言った。
「さっ、二人ともきちんと仲直りするのよ。その代わり私がおごってあげる」
「やったー、おごってもらえるのね。助かる!」
私がそんなんじゃないよと言う前に、成美は即座に、嬉しそうに答えていた。これだから成美は調子がいい。そこがまた長所と言えば長所なのかもしれないけれど……。
「でもなんか悪いよ」
そうは言っても、おごってもらうのはお門違いのような気がして私が言うと
「いいの、いいの。今日は私のおごりで。その代わり二人がちゃんと仕事に就いたらおごってね」
理恵は、おねえさんっぽく桜の姫を軽く飲みながらそう言ってのけた。


