理恵からは電話がかかってきて、開口一番言われたことはこうだった。
「成美とケンカしたの? 成美、桃子を怒らせちゃったみたいでって、しょげてたよ」
「え、別にケンカしたわけじゃないよ。ただちょっとカチンときて帰っちゃっただけだよ。でも別に今は気にしてないし」
「それならいいけど。成美にもそう伝えておくね。ところでゴールデンウィーク暇? よかったら三人で飲まない」
と、そんな話になったのだ。
そういうことで、私は今日中に仕上げるべきだった西洋美術史のレポートを、明日の飲み会前までに仕上げなくてはいけないことに気づいて、慌てて取りかかった。
次の日、薄手のカーディガンとジーンズという出で立ちで私は都内の駅前で二人を待っていた。飲み会といってもそこらへんの居酒屋だろうと思っていたので、おしゃれをする必要もないと思っていたけれど、いざ二人が来てみると、ちょっと恥ずかしくなった。
成美は白地に細いグレーのボーダーの入った薄手のニットに、グレーのフレアスカート、真珠のネックレスをし、理恵は理恵でブルーのストライプシャツにカーキのロングスカートに銀色のネックレスを身につけていた。どちらも私よりかは、よっぽどおしゃれだ。しまったと思ったが、もう遅い。
「待った?」
「ううん、そんな待ってないよ」
理恵に訊かれると、私は首を横に振った。その後ろから成美が気まずそうに私の方をちらちらと見ている。私は気にしてないことをアピールするために、成美に話しかけた。
「それで今日はどこで飲むの」
「ええとねー、理恵の行きつけのバーがあるそうよ。そこで飲もうっていう話になってるの」
成美の顔がぱっと明るくなったのに対して、私の気持ちは沈んだ。
『えーっ。バーだなんて今まで飲んだことないよ……』
戸惑い気味の私とは別に、成美は嬉しそうに語っている。
「そこのバー、カクテルがすごい美味しいのあるそうよ。ちょっと楽しみ」
それにしても真面目一徹だった理恵がバーに通うようになるとは思いもしなかった。高校時代の理恵は眼鏡をかけたガリ勉タイプの優等生だった。成績はいつも学年でトップだったけど、親の経済的な事情から大学には行かず高卒と同時に働くことを余儀なくされたのだ。
私が理恵の立場だったら、大学に行けないことを理由に腐ってしまうと思うのだけれど、真面目な理恵は腐ることなく第一志望の企業に就職を決め、バリバリ働き出した。私と違って理恵は心の中に芯が一本通っているのだ。そんな理恵は私の周りで一番に誇れる友人であったけれど、ここに来て羽目をはずしたくなったのだろうかと、少し心配になった。
「成美とケンカしたの? 成美、桃子を怒らせちゃったみたいでって、しょげてたよ」
「え、別にケンカしたわけじゃないよ。ただちょっとカチンときて帰っちゃっただけだよ。でも別に今は気にしてないし」
「それならいいけど。成美にもそう伝えておくね。ところでゴールデンウィーク暇? よかったら三人で飲まない」
と、そんな話になったのだ。
そういうことで、私は今日中に仕上げるべきだった西洋美術史のレポートを、明日の飲み会前までに仕上げなくてはいけないことに気づいて、慌てて取りかかった。
次の日、薄手のカーディガンとジーンズという出で立ちで私は都内の駅前で二人を待っていた。飲み会といってもそこらへんの居酒屋だろうと思っていたので、おしゃれをする必要もないと思っていたけれど、いざ二人が来てみると、ちょっと恥ずかしくなった。
成美は白地に細いグレーのボーダーの入った薄手のニットに、グレーのフレアスカート、真珠のネックレスをし、理恵は理恵でブルーのストライプシャツにカーキのロングスカートに銀色のネックレスを身につけていた。どちらも私よりかは、よっぽどおしゃれだ。しまったと思ったが、もう遅い。
「待った?」
「ううん、そんな待ってないよ」
理恵に訊かれると、私は首を横に振った。その後ろから成美が気まずそうに私の方をちらちらと見ている。私は気にしてないことをアピールするために、成美に話しかけた。
「それで今日はどこで飲むの」
「ええとねー、理恵の行きつけのバーがあるそうよ。そこで飲もうっていう話になってるの」
成美の顔がぱっと明るくなったのに対して、私の気持ちは沈んだ。
『えーっ。バーだなんて今まで飲んだことないよ……』
戸惑い気味の私とは別に、成美は嬉しそうに語っている。
「そこのバー、カクテルがすごい美味しいのあるそうよ。ちょっと楽しみ」
それにしても真面目一徹だった理恵がバーに通うようになるとは思いもしなかった。高校時代の理恵は眼鏡をかけたガリ勉タイプの優等生だった。成績はいつも学年でトップだったけど、親の経済的な事情から大学には行かず高卒と同時に働くことを余儀なくされたのだ。
私が理恵の立場だったら、大学に行けないことを理由に腐ってしまうと思うのだけれど、真面目な理恵は腐ることなく第一志望の企業に就職を決め、バリバリ働き出した。私と違って理恵は心の中に芯が一本通っているのだ。そんな理恵は私の周りで一番に誇れる友人であったけれど、ここに来て羽目をはずしたくなったのだろうかと、少し心配になった。


