「でも私はやっぱり画家になりたいと思うんです」
迷っている私とは裏腹に、彼女はその真っ直ぐな瞳のまま、きっぱりと言い切った。
「一之瀬さんだってそう思いますよね」
私の方に顔を向け、それはひどく当たり前だと言わんばかりの勢いだった。同意を求められた私は、少し沈黙せざるを得なかった。
三年前の私だったら、彼女と同じく言い切っただろう。画家になることに迷いなど何もなかったあの頃、受験用のデッサンに明け暮れていたけど、気持ち的にはクリアだった。どう答えたらよいか、熟慮したけど、私に言えるのはこれだけだった。
「それを決めるのは美大に入ってからでも遅くはないと思います」
一瞬美香さんの顔に、期待した言葉ではなかったことに戸惑いが見えた。
「親御さんには学芸員や教師も視野に入れるから、とりあえず美大に行かせて欲しいと言ったらどうですか」
「親に嘘をつくんですか」
美香さんは、顔をゆがめてそう言った。彼女のその真っ直ぐな気持ちは、私の肌に突き刺さってくるような気がした。私はその刺さってきたものを抜いていくような気持ちで、美香さんを諭した。
「噓かもしれないけれど、美大に入るといろんな人がいるんです。そうしたら美香さんの考え方も何か変わるかもしれないじゃないですか」
私は自分自身のことを振り返りながらそう答えていた。
「私の気持ちは変わりません!」
突如、美香さんは急に荒々しい声を出した。私は居間のテーブルを叩きつけそうな勢いの声に唖然とした。健太君もあちゃといった表情をすると、美香さんのスカートを強く引っ張った。すると美香さんは、我を忘れた自分の態度に気づき、とたんに顔を赤らめ、私に頭を下げてきた。
「す、すいません。つい興奮してしまって」
「いえいえ、気にしないでください」
ちょっとびっくりしたけど、私は微笑ましい気持ちとともに寂しい気持ちを感じていた。私だって、絵を描くのが好きでその道を極めたいとは思っていた。きっと私は挫折を知らなかったのだ。
美香さんの絵は先ほどのスケッチしか見ていないけど、挫折など飛び越え、もっと高い頂点を目指しそうな気がした。それを考えると、彼女へのアドバイスは的確とは言えなかったかもしれない。紅茶をすすりながら、もう一度言葉を選ぼうと思っていると、美香さんが私に話しかけてきた。
迷っている私とは裏腹に、彼女はその真っ直ぐな瞳のまま、きっぱりと言い切った。
「一之瀬さんだってそう思いますよね」
私の方に顔を向け、それはひどく当たり前だと言わんばかりの勢いだった。同意を求められた私は、少し沈黙せざるを得なかった。
三年前の私だったら、彼女と同じく言い切っただろう。画家になることに迷いなど何もなかったあの頃、受験用のデッサンに明け暮れていたけど、気持ち的にはクリアだった。どう答えたらよいか、熟慮したけど、私に言えるのはこれだけだった。
「それを決めるのは美大に入ってからでも遅くはないと思います」
一瞬美香さんの顔に、期待した言葉ではなかったことに戸惑いが見えた。
「親御さんには学芸員や教師も視野に入れるから、とりあえず美大に行かせて欲しいと言ったらどうですか」
「親に嘘をつくんですか」
美香さんは、顔をゆがめてそう言った。彼女のその真っ直ぐな気持ちは、私の肌に突き刺さってくるような気がした。私はその刺さってきたものを抜いていくような気持ちで、美香さんを諭した。
「噓かもしれないけれど、美大に入るといろんな人がいるんです。そうしたら美香さんの考え方も何か変わるかもしれないじゃないですか」
私は自分自身のことを振り返りながらそう答えていた。
「私の気持ちは変わりません!」
突如、美香さんは急に荒々しい声を出した。私は居間のテーブルを叩きつけそうな勢いの声に唖然とした。健太君もあちゃといった表情をすると、美香さんのスカートを強く引っ張った。すると美香さんは、我を忘れた自分の態度に気づき、とたんに顔を赤らめ、私に頭を下げてきた。
「す、すいません。つい興奮してしまって」
「いえいえ、気にしないでください」
ちょっとびっくりしたけど、私は微笑ましい気持ちとともに寂しい気持ちを感じていた。私だって、絵を描くのが好きでその道を極めたいとは思っていた。きっと私は挫折を知らなかったのだ。
美香さんの絵は先ほどのスケッチしか見ていないけど、挫折など飛び越え、もっと高い頂点を目指しそうな気がした。それを考えると、彼女へのアドバイスは的確とは言えなかったかもしれない。紅茶をすすりながら、もう一度言葉を選ぼうと思っていると、美香さんが私に話しかけてきた。