「こんにちは、理沙来てたの? こんにちは。豊の彼女のマイです」
「こんにちは。実は理沙さんの家庭教師をすることになって、難関大をめざしているという豊君に大学の話をしに来たんだ。入院中の彼を励まそうっていう理沙さんの提案だよ」
ここは適当な嘘を入れておく。スマホの話を秘密にしつつ、自然に俺がいることを受け入れさせるにはそういった話のほうがいい。
「それは、よかったじゃない、豊」
「ちょっと色々話があるから、理沙さん、マイさんと少し時間潰してきて」
俺の目配せに気づいたのか理沙はすんなり廊下の方にマイを誘う。自然な流れで二人になった。これで、事故を未然に防ぐことができるはずだ。
「スマホのことはあまりたくさんの人には話さないほうがいいから、適当なことをいってすまん。とにかく今は、過去の自分に事故に遭わないように伝えるんだ」
「時間は、どれくらい前にすればいいですかね?」
「こういった内容は通話よりメッセージのほうがいいと思うんだ。時間は事故に遭う3日前くらいでいい」
「でも、過去の自分がメッセージを無視したり信じなければ結果は変わらないですよね?」
「でも、何度でもこのスマホは使うことができる。ダメな時はもっと過去の自分に伝えるとか、違う言葉にするか」
「でも、事故に遭うからっていわれても、俺は信じない主義だと思うんですよね」
「じゃあ、嘘を書いてみたら」
「嘘?」
「例えば、好きな子に告白されるから、ここの道を通れとか、あえて違う道を指定するとか」
「たしかに、それは妙案だ」
「彼女と付き合ったのっていつからなんだ?」
「実は事故に遭ってお見舞いに来た時に告白されて……」
少し照れた顔をする草野。クールな彼にしては珍しい。
「いや、実は以前マイに会ったことがあって、一目惚れだったんです。まさか告白されるなんて思ってもみなくて」
理沙、完全失恋じゃないか。この事実を理沙には気づかないようにさせないとな。
「じゃあ、メッセージにマイさんを装って、メッセージ入れておけ。事故があった通りを通らないで行ける公園を指定するのがベストだ。そして、過去のマイさんのスマホにも大事な話がある、草野よりと書いて、日時をメッセージしておくんだな」
「じゃあ、事故のことは一切書かないということですか?」
「両想いなんだろ。疑り深い性格ならば事故の話より、恋愛ネタで誘導したほうがすんなりいきそうじゃないか」
「俺、5分前行動なんで、早めに北公園に来ていると思います」
「じゃあ、そこから移動しないように念のため5分前にメッセージを送ろう」
『1月20日放課後5時に北公園で待ってます 理沙の友人マイより』
『1月20日放課後5時に北公園で待ってます 草野豊より』
「これをそれぞれの過去の携帯に1月19日の夜に送ろう。そして、5分前に送る文章には、この公園にいると、5分後にあなたの想いは通じますとでも送っておこうか」
******
その少し後、草野の体はケガのない状態になり、マイと付き合ったというきっかけが変わった。そして、交通事故の事実はないものとなった。入院していて突然事実が変わるというのは変な話だが、あるとき、過去が変わった時に目の前が急に変わる。しかし、まわりの人はそれを当たり前のものとして、受け入れる。それがこのスマホの威力らしい。しかし、スマホの所有者の記憶だけは以前の記憶が残っている。これも不思議だ。俺と理沙だけが知る事実となった。
「どうやって彼を救ってくれたの? 事故って言っても信じてくれないでしょ?」
「だから、一工夫したんだ」
「どうやって?」
「秘密」
まさか、恋の力で両想いの二人を引き合わせて、事故を防いだなんて言えないだろ。失恋を自覚している理沙に二重の失恋はさせたくないからな。
「じゃあ、またこのスマホで人助けしようか。そうだ、うんとお金持ちを助けて、いっぱいバイト料もらおうか」
「基本、俺は悪人は助けない。スマホのことは、なるべくたくさんの人に知られてはいけない。スマホを狙って犯罪を犯すものがでてくるかもしれないし、国の研究機関に没収されちまうかもしれない。幸い草野みたいに使用した人間は忘れるようだ。しかし、これは本当に困った人や死んだ人と話したいという純粋な気持ちを持った人に使ってもらいたい」
「本当は、これで一儲けしたかったんだけどなぁ」
「欲張ると自分に災いがふりかかるぞ」
「そうだね。ありがとう、豊のこと助けてくれて」
理沙ははじめて一粒の涙を流す。
「うれしいけれど、さびしい感情ってはじめてだ」
彼女自身も戸惑っている感情。それは、彼が事故に遭わないで済んだ喜びと、好きな人から失恋したという感情なのかもしれない。
「ほら、今日は俺が何かおごってやるから、元気出せ」
「やっぱり優しい! ライトさんが相棒でよかった!」
「影野光って影の中にある光みたいで本当はあるのに見えない、みたいな不思議な名前だね」
「名字と名前が合わさると変な名前なんだよ。小さいころに、よくからかわれた。でも、光があるから影ができるんだよな。そういう元となる存在になれっていう意味で光《ライト》って名付けたみたいだけどな」
「なろうよ、光に」
俺たちはいかに頭脳とコミュニケーション力を駆使して人助けをするのか、慎重な判断力が求められる。そして、人々の最後の光になるべく動き出そうとしている。
不思議なスマホを使いこなすには、頭脳力や判断力を最大限に使わないと希望通りにはいかないかもしれない。過去の誰かに文字や言葉で伝えるのは、案外難しいものだから。
「こんにちは。実は理沙さんの家庭教師をすることになって、難関大をめざしているという豊君に大学の話をしに来たんだ。入院中の彼を励まそうっていう理沙さんの提案だよ」
ここは適当な嘘を入れておく。スマホの話を秘密にしつつ、自然に俺がいることを受け入れさせるにはそういった話のほうがいい。
「それは、よかったじゃない、豊」
「ちょっと色々話があるから、理沙さん、マイさんと少し時間潰してきて」
俺の目配せに気づいたのか理沙はすんなり廊下の方にマイを誘う。自然な流れで二人になった。これで、事故を未然に防ぐことができるはずだ。
「スマホのことはあまりたくさんの人には話さないほうがいいから、適当なことをいってすまん。とにかく今は、過去の自分に事故に遭わないように伝えるんだ」
「時間は、どれくらい前にすればいいですかね?」
「こういった内容は通話よりメッセージのほうがいいと思うんだ。時間は事故に遭う3日前くらいでいい」
「でも、過去の自分がメッセージを無視したり信じなければ結果は変わらないですよね?」
「でも、何度でもこのスマホは使うことができる。ダメな時はもっと過去の自分に伝えるとか、違う言葉にするか」
「でも、事故に遭うからっていわれても、俺は信じない主義だと思うんですよね」
「じゃあ、嘘を書いてみたら」
「嘘?」
「例えば、好きな子に告白されるから、ここの道を通れとか、あえて違う道を指定するとか」
「たしかに、それは妙案だ」
「彼女と付き合ったのっていつからなんだ?」
「実は事故に遭ってお見舞いに来た時に告白されて……」
少し照れた顔をする草野。クールな彼にしては珍しい。
「いや、実は以前マイに会ったことがあって、一目惚れだったんです。まさか告白されるなんて思ってもみなくて」
理沙、完全失恋じゃないか。この事実を理沙には気づかないようにさせないとな。
「じゃあ、メッセージにマイさんを装って、メッセージ入れておけ。事故があった通りを通らないで行ける公園を指定するのがベストだ。そして、過去のマイさんのスマホにも大事な話がある、草野よりと書いて、日時をメッセージしておくんだな」
「じゃあ、事故のことは一切書かないということですか?」
「両想いなんだろ。疑り深い性格ならば事故の話より、恋愛ネタで誘導したほうがすんなりいきそうじゃないか」
「俺、5分前行動なんで、早めに北公園に来ていると思います」
「じゃあ、そこから移動しないように念のため5分前にメッセージを送ろう」
『1月20日放課後5時に北公園で待ってます 理沙の友人マイより』
『1月20日放課後5時に北公園で待ってます 草野豊より』
「これをそれぞれの過去の携帯に1月19日の夜に送ろう。そして、5分前に送る文章には、この公園にいると、5分後にあなたの想いは通じますとでも送っておこうか」
******
その少し後、草野の体はケガのない状態になり、マイと付き合ったというきっかけが変わった。そして、交通事故の事実はないものとなった。入院していて突然事実が変わるというのは変な話だが、あるとき、過去が変わった時に目の前が急に変わる。しかし、まわりの人はそれを当たり前のものとして、受け入れる。それがこのスマホの威力らしい。しかし、スマホの所有者の記憶だけは以前の記憶が残っている。これも不思議だ。俺と理沙だけが知る事実となった。
「どうやって彼を救ってくれたの? 事故って言っても信じてくれないでしょ?」
「だから、一工夫したんだ」
「どうやって?」
「秘密」
まさか、恋の力で両想いの二人を引き合わせて、事故を防いだなんて言えないだろ。失恋を自覚している理沙に二重の失恋はさせたくないからな。
「じゃあ、またこのスマホで人助けしようか。そうだ、うんとお金持ちを助けて、いっぱいバイト料もらおうか」
「基本、俺は悪人は助けない。スマホのことは、なるべくたくさんの人に知られてはいけない。スマホを狙って犯罪を犯すものがでてくるかもしれないし、国の研究機関に没収されちまうかもしれない。幸い草野みたいに使用した人間は忘れるようだ。しかし、これは本当に困った人や死んだ人と話したいという純粋な気持ちを持った人に使ってもらいたい」
「本当は、これで一儲けしたかったんだけどなぁ」
「欲張ると自分に災いがふりかかるぞ」
「そうだね。ありがとう、豊のこと助けてくれて」
理沙ははじめて一粒の涙を流す。
「うれしいけれど、さびしい感情ってはじめてだ」
彼女自身も戸惑っている感情。それは、彼が事故に遭わないで済んだ喜びと、好きな人から失恋したという感情なのかもしれない。
「ほら、今日は俺が何かおごってやるから、元気出せ」
「やっぱり優しい! ライトさんが相棒でよかった!」
「影野光って影の中にある光みたいで本当はあるのに見えない、みたいな不思議な名前だね」
「名字と名前が合わさると変な名前なんだよ。小さいころに、よくからかわれた。でも、光があるから影ができるんだよな。そういう元となる存在になれっていう意味で光《ライト》って名付けたみたいだけどな」
「なろうよ、光に」
俺たちはいかに頭脳とコミュニケーション力を駆使して人助けをするのか、慎重な判断力が求められる。そして、人々の最後の光になるべく動き出そうとしている。
不思議なスマホを使いこなすには、頭脳力や判断力を最大限に使わないと希望通りにはいかないかもしれない。過去の誰かに文字や言葉で伝えるのは、案外難しいものだから。