「とにかく、黒藤様に知られて動かれる前に古人様を頼れ。俺から言っていいのは、たぶんこれだけだ」
本当は、兄貴に総てを話してしまいたい。でも、それでは混乱させるだけだともわかる。
立場上、俺には何の解決策も講じられないから。
……話せば、最悪の方法をとってしまう可能性もある。
「真紅ちゃんと、欠片の時でも一緒にいたいんだったら、家のことを知れ」
それだけ言い置いて、踵を返した。
兄貴は、血を与える主に真紅ちゃんを望んだのかもしれない。でも、昨日病院で逢うまで、二人は寄り添ってはいなかった。
……何があったのかは知らないが、どうやって出逢ったのかは知らないが、明らかに真紅ちゃんは兄貴を、兄貴は真紅ちゃんを、想っている。
鬼人の一族でありながら、人間と妖異の調停を主とする桜城一族。その家に生まれた、異国の血を持った半分だけの吸血鬼。
そして、真紅ちゃんの桜木家は――退鬼師(たいきし)の末裔だ。