桜木真紅。
陰陽師の大家の直系長姫である影小路紅亜様の一人娘。
紅亜様は退鬼師である桜木家に養子に出、その先で婚姻。
娘の真紅は退鬼師・桜木の血も引いている、血筋だけで言えば、黒よりも生粋の払魔師(ふつまし)だ。
だが、この世界、生まれ持った才だけではやっていけない。俺も黒も、共に月御門と影小路という名家の跡継ぎとして、物心がつく前から修行を重ねている。
現在俺は、十六歳で月御門――御門流の当主であり、一つ年上の黒は、影小路――小路流の正統後継者だ。
先代当主である黒の母――紅亜様の双児の妹の紅緒様は、十六年前、一つの大きな術をかけることと引き換えに、眠りについた。
永劫(えいごう)の眠りではなく、その間、持ちうる力の総てで、ある一人の少女を守護するためのもの。
それが、姉の娘である真紅だった。
紅亜様に陰陽師としての力はない。だが、その娘である真紅は――影小路を創った、始祖の一人の転生だった。
小路はなんとしても、真紅の命を護らなければならない。
始祖の転生は強大な力を持つ代わりに、その血は至高。妖異が得てしまえば、また大きな力と生命力を与えてしまう。
――ゆえに、小路の始祖の転生は妖異に狙われやすく、ある程度成長するまで存在を秘されているのが常だった。
「だが、今回は少しわけが違う」
黒は普段のおちゃらけた様子はどこへやら、難しい顔で続ける。
「真紅嬢は、純粋な小路の者ではない……」
俺が補うと、黒はそうだと肯いた。
「退鬼師桜木の血が入っている」