自分では、真紅を殺してしまうんじゃないかと不安になった。――ほしいと思ってしまったから。血の一滴、髪の一筋ですら。
……だから、真紅にはもう、逢わないように。生きていてほしいから、離れた。
最期の時だけ、と心を封じて。
……誰かを、大事に愛する方法を知らない。
父のように、母だけを恋人にして、けれど恋人を亡くした許嫁も護るなんて、俺には考えられもしない。
真紅しかいらないと、正直に心は話す。
父のように器用には、出来そうもない。
「……まさか架に教えられるとはな……」
昨日の架の指摘、実は結構効いていた。
真紅に恋情を持つ前のところで踏みとどまろうとしていた。なのに架はあっさり、それを踏み越えていることを教えて来た。
理由はわからない。ただ、いつの間にか恋情があった。今は、愛情もあるかもしれない。
一目惚れ、とかそういうやつなのだろうか。
――調べたところ、退鬼師桜木は、特殊すぎる力のために滅んだ一族らしい。
その血で妖異を浄化する、他の退鬼師族にはない、異端の能力。
その血さえ生きていれば、退鬼師桜木の人間でなくても扱うことが出来る。
……空恐ろしい話だが、簡単に言ってしまえば、退鬼師桜木の術師は、捕えられ、血をしぼりとるために幽閉され、やがて数を減らしていったようだ。
陰陽師の大家(たいか)、影小路の庇護下(ひごか)に入った頃には、実戦闘に出たことがあるものはないほどに。
そうして、名前だけを残して、望まれながらも忌まれた退鬼師一族は、退鬼師としての名と地位、伴って能力も失くして行った。
命を継ぐために、一族を滅ぼしかねない能力を捨てることを選んだのだろう。
……今代に入り、イレギュラーが起きた。
影小路家より養子に出された娘――その理由まではわからなかった――が産んだ子が、影小路家に重要な存在であった。
……始祖の転生。
その呼称と意味を知って、納得するものがあった。