それから一カ月。特になんの音沙汰もなく、俺は平凡に生活していた。新しく編入して通い始めた高校にも慣れたし、なんなら友達もできた。中間テストもつい昨日終わったし、あの”手紙”のことも忘れるくらい、充実した日々だった。

「ねえ巡ー、今日あんた宛てに手紙届いてたけど。友達?」
だから学校から友達と遊んで帰ってきた後、母さんに訊かれたその一言で手紙のことを思い出した。
「ああ、うん。友達友達」
俺は適当にごまかして手紙を受け取る。今度の宛名はちゃんと”周”から”巡”に修正してあった。俺は手紙の封留めを開けて、中の手紙を取り出す。
『拝啓 巡様。青葉が美しい季節となりました。いかがお過ごしですか?
あ、名前、間違えてた?ごめんね、じゃあ二年間ずっとあのまま書いてたかも。ていうか今頃、巡くんも気付いたの?(笑)
返事、書いてくれてありがとう。届いた時はホント、口から心臓が飛び出そうなくらいびっくりしたよ。まぁそんなことになったらせっかくあと一年ある寿命もなくなっちゃうけど。巡くんには話してたと思うけど、あと一年なんだよね。多忙なところごめん、けど、やっぱりもう一回でいいから会いたい。気が向いた時でいいからあと一年以内に来てね。あ、また写真入れときます。写真の撮り方も今度会いに来てくれたらその時教えるね。
敬具 坂井瑞季』

やっぱり、余命宣告されてたんだ。そしてなんと、坂井瑞季、と名乗っていたこの人は相手が俺だということに気付いていないようだった。