俺は、ものすごく勝手でおせっかいなこととは分かっているが、引き出しから一枚の便箋と、ボールペンを取り出した。
『拝啓 瑞季様。春眠が心地よい季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか?
なんてね。巡です。二年ぶりだね、漢字間違えてたよ(笑)。周じゃなくて、正しくは”巡”です。
瑞季は元気にしてる?俺はまぁなんとかやってる。最近忙しくて返事できなくてごめん、そのうち会いに行く。それまで待ってて。あ、写真ありがとね、すごい綺麗だった。俺は写真とかさっぱりだから、どうしたらあんなに綺麗に撮れるのか、今度教えて。
敬具 千門巡』
すらすらとなめらかにボールペンを便箋の上で走らせる。出来上がった手紙を俺はもう一度読み返す。うん、おかしなところはなさそうだ。
俺はその手紙を封筒に入れて、届いた封筒に書いてあった送り先をそこに写す。
なんでこんなことをしようと思ったのかはさっぱりだ。どんなに待っても返事が来ないのであろう彼女に同情したのかもしれないし、あるいはただの好奇心かもしれない。俺は。
千門巡として、本物の”周”を便箋の上で演じることにした―——。

それから俺は、当初の目的をようやく思い出し、封筒と財布、スマホを持って家を出た。それから少し町を散策し、近所にあった郵便局で切手を買い、封筒をポストの中に入れた。