それからの時間は、瑞季と中庭を散歩しながら他愛のない話をした。ベンチで休憩していた時に瑞季が
「それって…」
と桜の切り花を指さした。
「ああ、うん。瑞季が桜見たいって言ってたから。さすがに木まるごとは準備できないし。あげる」
「え、いいの!?ありがとう…!」
それを受け取った瑞季は嬉しそうに微笑む。それは穏やかで、桜のようだった。
穏やかな春風が吹き、瑞季の髪を優しく揺らす。
「そろそろ、戻ろうか」
「うん」
結局その日は陽が沈むギリギリまで思いっきり話した。

「じゃあね、巡くん」
「うん、また来ていい?」
俺がそう訊くと、瑞季は今日一番の笑みを浮かべ、
「もちろん!」
と言った。その笑顔に俺は釘付けになった。どこまでも優しい彼女の笑顔をいつまでも見ていたくて。そこから視線を出口に向けるのにかなり時間がかかった気がする。
帰ろうとすると、「あ、ちょっと待って!!」と引き留められた。沈みかけた夕日のせいでそう見えたのだろうか。振り返ると、瑞季は少し頬を紅潮させて、こちらを見ていた。