それからも時の流れは早くて。瑞季からの返信には、病棟と病室の番号があった。病院の名前は手紙の封筒にいつも書いてあるけど、迷わないように駅からの簡単な地図を添えてくれていた。
それと、桜の花が見たい、と書いてあった。さすがに桜の木サイズのものは準備できないけど、母さんに訊くと切り花くらいなら花屋に売っている、と教えてくれた。


「ふう……」
俺は気持ちを落ち着かせる。何を着ていいのか分からないのでとりあえず制服のブレザーをカーディガンに変えた格好で行くことにした。
「行ってきまーす」
今日、病院に行くことは一週間ほど前の手紙で瑞季には伝えてある。瑞季からも三日前くらいに帰ってきた手紙で了承を得ていたので、大丈夫そうだ。
俺は電車に乗って最寄り駅まで行く。降りたそこは住んでいる場所よりも少し都会だった。調べたところ、駅前に花屋があるみたいなので、そこで瑞季の希望通りに、桜の切り花を買った。少し高かったけど、そこは今年の全く使っていないお年玉から少し使った。
瑞季、喜ぶかな。それとも…。”周”じゃない俺を見てがっかりするかな。そんなことを考えたけどふるふると首を振る。
俺は花屋から一歩踏み出した。瑞季に、会いに行くために。