「懐かしいよね。でも思ったより残ってるでしょ」
「そうだね」

どこに作るか下見から始めた。
子どもなりに、雨風にあまり当たらなくて土砂崩れで潰れなさそうなところ、とこだわって場所選びをした。
そのかいあってか、秘密基地があった場所と一目見ればわかるくらいには残っている。

「俺たちすごいね」
「うん、さすがわたしたち」

にこっと微笑んだ夏奈がリュックからレジャーシートを取り出す。準備がいい。元々来る予定だったのかもしれない。
そんなことを考えていると、夏奈はレジャーシートに座って隣をトントンと叩いている。
言葉はなくてもわかりやすい促し。俺はそっと夏奈の隣に腰を下ろした。
肩が触れる。夏奈は今、隣にいる。
今、誰よりもいちばん近くにいる。それなのに、この距離がすごく遠く感じる。
来週になれば、夏奈はもういない。
木漏れ日が照らす空間。ここだけ、現実と切り離されているみたいだ。セミの大合唱だけがこの空間に響く。
無駄に立体音響並みの臨場感まである演出付きで。

「ここに来るまで、たくさん思い出したよ」

やっとセミ以外の音が耳に届く。優しくて、どこか寂しい夏奈の声。
顔を横に向ければ、三角座りをして膝に顎を埋めてまっすぐに前を見ていた。
そんな夏奈の横顔はやっぱりきれいで、目が離せない。

「どこを見ても、なにを見ても、日和との思い出がよみがえってきた」
「うん」

俺も同じだよ。
だけど、言わない。言えない。言いたくない。

「わたしたち、ずっと一緒にいたね」
「そうだね」
「でも、これからも一緒だよ」
「………は?」

それには頷くことができなかった。
何を言ってるんだよ。
『これからも一緒』だって?
夏奈は、何を言っているんだ。嘘つくなよ。一緒じゃないだろ。
夏奈はいなくなるんじゃないか。俺の前から、俺の傍から、いなくなるくせに。生まれる前から一緒で、生まれてからもずっと一緒で、これからも一緒だと思っていた。
だけど、夏奈はいなくなる。
俺を置いて、遠くへ行ってしまうんじゃないか……。
言いたい気持ちをすべて、深い部分に押し込める。