行儀が悪いけど、アイスを食べながら歩く夏奈。
中学一年生までは夏奈のほうが身長も高かったけど、今では俺のほうが頭一つ分くらい高い。
夏の爽やかな風が、おいしそうにアイスを食べる夏奈の長い髪を揺らす。小さい頃からずっとショートカットで、それが夏奈という感じだったけど、中学卒業と同時に髪を伸ばす宣言をした。
宣言通り、茶色がかった髪をきれいに伸ばしている。

「日和も早く食べなよ。溶けちゃうよ」
「う、うん」

急に俺のほうを向くからびっくりした。
夏奈から顔ごと逸らして、俺もアイスを食べ始める。アイスの冷たさのおかげで、少し冷静になれた。
それから目的もなく歩くけど、どこに行っても見える景色全部に夏奈との思い出がよみがえってくる。いつもはこんなこと思わない。夏奈のせいだ。こんなことばかり考えるのは。夏奈との思い出をひとつひとつ振り返ってしまうのは。こんなにセンチメンタルな気分になってしまうのは。
夏奈が、俺から離れてしまうせいだ。
気持ちがぐちゃぐちゃだけど、思い出の詰まったこの道は、どれも楽しいことだけを思い出させる。
夏奈と一緒にいて、楽しくなかったことなんてなかったから。
そのままついて歩くと、いつも探検していた裏山に入った。
それだけで、すぐにどこへ向かっているのかはわかってしまう。

「ここ……」
「そうだよ。わたしたちの秘密基地」
「残骸だけど」

小学生の時に、裏山に作った秘密基地。ふたりだけの秘密の場所。俺たちしか知らない。
何か月もかけて毎日コツコツと材料を集めて、一生懸命に作った。だけど所詮、小学生が作ったもの。
さすがに何年も経てば、それは壊れてしまっている。ゆっくりと近づく。
ブルーシートも自転車のハンドルも、クッキーが入ってたカンカンも、もう腐敗している木の枝さえも、どこの部分に使っていたか、何の用途でどこに置いていたかまで覚えている。
このひとつひとつにも、思い出が詰まっていて、あの時のやりとりさえよみがえってきた。
「ここに置いたらよくない?」「じゃあ、これはその隣がいいよね」「なにそれ、天才!」なんて無邪気な子どもらしい会話。
すべて、ふたりで作った。
思い出もすべて、ふたりだけのもの。