俺だけ使える【全自動サンクチュアリ】で辺境を極楽領地に作り変えます!~歩くだけで聖域化する最強スキルで自由気ままな辺境ライフ~

「ユチ様、先ほどはお疲れ様でございました。さあ、そこに横になってくださいまし」
「いや、もういいから……」

 その後、俺はあてがわれた家でルージュのマッサージを受けていた。
 というより、俺の体はヌルヌルにされている。
 なんでも、彼女が開発した特製のオイルらしい。
 おまけに、服はほとんどルージュに脱がされてしまった。
 パンツ一枚でなんとか下半身を死守している状況だ。

「さあ、まだまだこれからでございますよ」

 ルージュは半裸の俺をこれでもかと揉みこむ。
 確かに疲れは消えていく。
 だが、絵面がヤバすぎるのだ。

「ああ、なんと嘆かわしや。ユチ様のおみ足がこわばっております」

 ルージュは額に手を当ててクラクラしている。
 まぁ、結構歩きはしたがそこまでじゃないだろ。

「いや、ほんと大丈夫だから」
「ユチ様、まだ終わっておりませぬ」

 一瞬の隙をついて逃げようとするが、すぐに捕まってしまった。
 さすがはSランクの元冒険者だ。

「ただ歩いただけだから、そんなに疲れてないからね」
「何をおっしゃいますか。ユチ様は全世界の宝ですので、常にケアが必要なのですよ」

 ルージュは嬉々として、俺の体を撫でまわす。
 手つきが非常に怪しい。
 かなり際どいところを攻めてくる。
 こんなところを領民に見られたら、変なウワサが立ちそうだった。
 着任早々、悪趣味な領主ってことになっちまう。
 俺はそんなの絶対にイヤだぞ。

「生き神様、収穫した作物を見てくださいな! 畑がとんでもないことになっておりますのじゃ!」

 いきなり、ソロモンさんが家に入ってきた。
 俺たちを見てギョッとしている。
 目がバシャバシャ泳ぎまくっていた。

「あっ! こ、これはただのマッサージでして……」
「いいえ、ユチ様専用のト・ク・ベ・ツ・なマッサージでございます」
「これは失礼いたしました。せっかくのところをお邪魔してしまいましたな。どうぞお楽しみくださいですじゃ。では、お邪魔虫はこれにて失礼……」
「ちょーっと待ってください!」

 さっさと出て行きそうなソロモンさんを慌てて呼び止めた。
 何としてでも誤解を解かねばまずい。

「大丈夫、わかっておりますぞ! こう見えても、ワシは色々経験しておりますのじゃ!」

 ソロモンさんはウインクしながらグッジョブしてきた。
 誇らしいほどのドヤ顔だ。

「ソ、ソロモンさん! わかってないです!」
「さ! そんなことより、生き神様もお早く!」
「あっ、いやっ、ちょっ……! せめて、服を……!」
「ユチ様はそのままでも素敵でございます」
「いや、そうじゃなくてね!」

 結局、俺はほとんど裸でオイルまみれのまま畑に駆り出された。

「え……ウソでしょ……」
「ユチ様……あのクソ畑が楽園のようになっております」

 畑に出たとき、俺たちはとにかく驚いた。
 恐ろしく豊かになっているのだ。
 米はずっしりと実り、トマトは光り輝き、レタスなんかは水も滴るほど瑞々しい。
 中でも特筆すべきは、その成長速度だった。
 どの作物もグングングングン育っている。
 まるで、ちょっとしたジャングルみたいだ。

「ええ、すご……」
「まさか、これほどとは……」

 領民たちが採っても採っても、すぐに新しい作物が育っていく。
 ワンチャン無限に収穫できるんじゃなかろうか。
 そんなことあり得ないのだが、本当にそう思うほどだった。
 やがて、領民たちがこちらに気付いた。

「生き神様、そのオイルも御業の賜物ですか!?」
「おお、ありがたや、ありがたや!」
「私たちにも触らせてくださいませんか?」

 あっという間に囲まれ、四方八方から手が伸びてくる。
 それを避けるのは至難の業だった。
 ソロモンさんも俺の手を握ってブンブンと振り回す。

「あのひなびた畑が、今やこんなに豊かな畑になりました。これも全部、領主様の御業のおかげですじゃ」

 そのうち、領民たちが両手にいっぱいの作物を持ってきた。

「生き神様! 御業のおかげで大豊作でございますよ! こんなことは村の歴史上でも初めてです!」
「紛れもない奇跡でございます!」
「見てください、これが採れた作物ですよ!」

 俺は裸のオイルまみれだが、そんなことはどうでもいいらしい。
 領民たちが差し出した作物を見て、俺たちはさらに驚いた。

「いや、マジか……」
「これほどとは、私めも予想しておりませんでした」

 そこには激レア作物がてんこ盛りだった。


<フレイムトマト>
レア度:★8
燃えたぎる炎のように赤いトマト。食べると少しずつ炎に強くなっていく。耐性力が最高まで上がると、溶岩の中を泳いでも火傷しないほどになる。

<ムーン人参>
レア度:★7
月で栽培されていたと伝わる人参。食べると体が軽くなり、数時間空を飛ぶことも可能。

<フレッシュブルレタス>
レア度:★8
水が滴るほど瑞々しさに溢れているレタス。一枚食べるだけで、一日分の水分を補給できる。

<電々ナス>
レア度:★9
弱い雷をまとったナス。食すとその魔力によって、身体が軽快に動くようになっていく。

<原初の古代米>
レア度:★10
古代世紀に絶滅したとされていた米。今は古代大陸の奥地にわずかに生息しているとされている。体に元々備わる治癒力を増強し、食べるたび不老不死に近づいていく。火を通すと腐らなくなるので、保存食としても優れている。


「この畑だけでどれくらいの価値があるんだ……こんなの王都でも手に入らないぞ。しかも、こんなにたくさんあるなんて」
「もしかしたら、どこからか種が飛んできたのかもしれませんね」

 普通の作物のレア度は1とか2だ。
 6を超えて、ようやく王族に献上されるレベルになる。
 とんでもない高ランクの作物ばかりだった。

「「今日採れたこれらは、全て生き神様への供物でございます!」」
「え!?」

 領民たちは俺に作物を押し付けて来る。
 全部喰え、ということらしい。

「い、いや、せっかくなので、みんなで食べましょうよ」
「なんと、生き神様は私たちにも恵んでくださるのですか!?」
「あなた様はどこまで慈悲深いお方なんですか!?」
「これぞ我らが生き神様です!」

 急遽、収穫した作物を使ってどんちゃん騒ぎが開かれることになった。

「生き神様、ここでは貴重なキレイな水でございますじゃ。どうぞお飲みくださいですじゃ」

 ソロモンさんが透明な水を持ってきてくれた。
 と言っても、何の変哲もない普通の水だ。

「ありがとうございます。貴重なキレイな水って、どういうことですか?」
「この辺りには水源があるんですがな。いつも汚れているのですじゃ」

 マジか、そりゃ大変だわな。

「でしたら、早めにその水源ごと浄化しないとですね」
「是非ともお願いしますじゃ! 水分不足でほとほと困っておりましての!」

 やがて宴も終わり、俺たちは家に帰ってきた。

「じゃあ、そろそろ寝るかな。お休み、ルージュ」
「お休みなさいませ、ユチ様」

 領主として追放されたけど、この調子ならなんとかなりそうだな。
 領民たちもみんな良い人そうだし。
 むしろ、実家から追い出されて良かったぜ。
 俺は心地よい眠りに落ちていく。
 ……ちょっと待て。

「いや、なんで、俺のベッドに入っているの?」
「それはもちろん、護衛のためでございます」

 ルージュは俺にピッタリくっついている。
 彼女の部屋もあるはずなのに……。

「やっぱりさ、別々に寝ようよ。だって、俺たちは別に……」
「お断りいたします。お休みなさいませ」

 しかし、ピシリと断られてしまった。
 すぐさま、ルージュはスヤスヤと寝始める。
 こうなると、もうダメだ。
 彼女の意思でないと、目覚めることはない。
 着任早々、メイドを部屋にたらしこむなんて悪徳領主も甚だしい。
 だが、今日はもうしゃーねえ。
 その辺は明日なんとかしよう。
 そんなことを考えているうちに、いつの間にか俺も寝ていた。


――――――――――――――――
【生き神様の領地のまとめ】
◆“キレイな”死の畑デスガーデン
 村の中にある大きな畑。
 領民が共同で耕している。
 多種多様な作物が育っていたが、瘴気のせいでちっとも収穫できなかった。
 ユチの聖域化により本来の貴重な作物が育つように。
 成長スピードが異常に速く、ジャングルのような畑。
「こんにちはコン~って、何があったコン! えええ!? ここがあのクソ土地で有名な“デサーレチ”!? えええ!?」

 俺とルージュが畑に行こうとしたときだった。
 村の入り口で誰かが叫んでいる。

「ユチ様、来客のようでございます」
「へぇ~、こんなところにも誰か来るんだね」
「うるさいですね。追い返しますか?」
「いやいやいや!」

 俺たちが入り口に行くと、小さな女の子がポツンと立っていた。
 背丈は俺よりだいぶ低くて幼女みたいだ。
 少し大きめのリュックを背負っている。

「もしかして、迷子か? だったら、心配だな。近くに親がいればいいけど……」
「子どもが一人でうろついているのは、それはそれで怪しいでございます」

 女の子は村の様子を見ては、しきりに驚いている。
 頭の上から、狐みたいな耳が生えていた。
 といことは、獣人の狐人族だ。

「こりゃぁ、おったまげたコン! まさか、あのクソ土地がこんなことになるなんてコン! はぁ~、おったまげたコン!」

 俺は少し緊張しながら話しかける。

「あ、あの……何かご用ですかね?」
「え? あんた誰コン? こんなヒョロ男、今までいなかったような……ぐぎぃ!」

 ルージュが女の子を片手でつまみ上げた。

「ユチ様にそのようなことをおっしゃるとは、良い度胸でございますね。子どもとはいえ、容赦はいたしません」

 ルージュはめっちゃ冷たい目をしている。
 視線だけで殺せそうだった。

「あ、あちしはフォキシーというコン! 見ての通り、行商で生計を立てているコンよ! こう見えて、もう大人コン! 離してくれコン!」

 フォキシーはジタバタして暴れる。
 だが、ルージュは知らぬ存ぜぬだった。

「ほ、ほら、ルージュ。この子も悪気があったわけじゃないんだからさ」
「……ユチ様が仰るならば仕方ありませんね」

 ルージュが下ろすとフォキシーはホッとしていた。
 そのまま、とりあえず家に案内する。

「ゲホッコン。あちしは王都にあるフォックス・ル・ナール商会の会長であるコンよ!」

 フォキシーはドンッ! と胸を張った。
 その名前は俺も聞いたことがある。

「フォックス・ル・ナール商会と言えば、王国でも三本の指に入るくらいだよな」
「本当にこのクソガキが商会長なのでしょうか?」
「ル、ルージュ!?」
「ク、クソガキって言われたコン! こう見えても、あちしは王宮入りの行商人でもあるコンよ!」

 フォキシーは短い手足を振り回して怒っていた。

「え!? 王宮入りってマジ!?」
「マジだコン」

 フォキシーは一枚の紙を見せてくれた。
 めちゃくちゃドヤ顔している。

「……ホントだ。王様の印が押してあるじゃん。王宮入りの商人なんて、初めて見たな」
「ありがたくしていると良いコン……ぐぎい!」
「ほ、ほら、ルージュ! 持ち上げないでって!」
「……仕方ありませんね」

 ルージュはフォキシーを下ろす。

「まったく、油断も隙もないコンね」
「あっ、そうだ。ちょうど作物がたくさん採れたんだが。いくつか買い取ってくれないか?」

 しまっておいた作物を出す。
 <フレイムトマト>、<ムーン人参>、<フレッシュブルレタス>、<電々ナス>、<原初の古代米>……。
 まぁ、今はこんなもんしかねえけど、しゃーねえよな。

「コッ……!」

 フォキシーは目を見開いて絶句している。
 目玉が飛び出てきそうだ。
 というか、半分飛び出ていた。
 息も絶え絶えになるくらい興奮している。

「ど、どうした?」
「こ……これは……偉いこっちゃコンね」

 そして、うちの畑で採れた作物がどれくらい凄いのか、めっちゃ早口で教えてくれた。
 身を思いっきり乗り出してくるので、俺の背中がギンギンにのけぞる。
 
「この<フレイムトマト>なんて、Aランクダンジョン“ラーバの溶岩洞窟”の最深部に行かないと手に入らないコンよ!」
「お、おお、そうだったんだ……」

「<ムーン人参>はBランクモンスターのキャロットラビットの住処にしかないから、採りに行くには袋叩きを覚悟しないといけないコン!」
「こ、こえ~」

「<フレッシュブルレタス>もAランクダンジョン“ヒンターランドジャングル”を奥に奥に奥に奥に奥に行って、ようやくゲットできるコン!」
「め、めっちゃ奥地にあるんだね」

「こっちの<電々ナス>は生息地にSランクモンスターの雷電ドレイクが住んでいるせいで、滅多に手に入らないコン! 採取に向かった冒険者だって何人も死んでいるコンよ!」
「そ、そいつはヤバいじゃないか」

「<原初の古代米>にいたっては、古代大陸にしか育っていないコン! どうして、ここにあるんだコン!」

 フォキシーは感動しているようで、目がウルウルしている。
 レアな作物だとは知っていたが、まさかそこまでとはな。

「ど、どうやって、手に入れたコンか? しかも、こんなに状態の良い物を……」
「普通にそこの畑で採れるよ」
「え!? えええええ!? 畑で採れるって、えええええ!?」

 フォキシーはさらに驚きまくる。
 いや、これ以上驚けるってすげえな。

「み、み、み、見せていただいてもよろしいコンか?」
「ああ良いよ」
「ユチ様に失礼なことはしないように」

 俺たちはフォキシーを畑に連れて行った。
 領民たちがせっせと収穫している。
 相変わらずジャングルみたいになっていた。

「まぁ、見ての通りだな。ぶっちゃけ、採っても採っても減らないんだ」

 いきなり、フォキシーはへにゃへにゃと座り込んでしまった。

「お、おい、どうした。大丈夫か?」
「こ、腰が抜けてしまったコン。これは……とんでもない畑でコンよ」

 ふーん、デサーレチは思っていたよりすごかったんだな。
 ということで、余っている作物は買ってもらうことにした。

「<フレイムトマト>は1つ200万エーン、<ムーン人参>は1本80万エーン、<フレッシュブルレタス>は1個150万エーン、<電々ナス>は1つ300万エーン、<原初の古代米>は1ギラム35万エーンで良いコンか……?」

 当然のようにとんでもなく高い金額を言ってきたので、めちゃくちゃビビった。

「たっか! いくら何でも高すぎだろ!?」
「いいえコン! 商売に限っては、あちしはふざけたことはないコンよ! 適正も適正の価格を提示しているコン!」

 フォキシーは真剣なようだ。
 確かに、王宮入りの商人がウソを吐くとも思えない。

「ル、ルージュ、本当にそんな高値で買ってくれるのかな」
「信じてもよろしいかと」
「じゃ、じゃあ売ろうかな」
「ありがとうコン! これであちしは大儲けコンよ!」

 フォキシーは両手を上げて喜んでいる。

「そ、それで、作物はこのまま渡しちゃっていいのか?」

 フォキシーは適度な大きさのリュックしか持っていない。
 どうやって持って帰るのだろう。

「そのまま頂きたいコン! あちしは収納スキルを持ってるコンから簡単に運べるコン。今、お金渡すコンね」

 フォキシーは不思議な空間からお金を出した。
 ドサッと札束を置いて、その代わりに作物をしまっていく。

「それでは、あっしはこれで失礼するコンよ。また来るコン」

 フォキシーは、ほっくほくの顔をしている。
 良い品が手に入って嬉しいようだ。

「ああ、気をつけて帰れよ」
「お帰りなさいませ。次来る時は礼儀をわきまえるように」
「ちょっと待ちたまえ、行商人のお方」

 フォキシーが出て行こうとしたら、ソロモンさんが出てきた。
 一枚の札を彼女に渡す。
 
「この紙は何ですかコン?」
「ワシが開発した魔法札じゃよ。転送の印が刻まれているから、破くとここに転送されるぞよ」
「これはまた、素晴らしいおもてなしをありがとうございますコン。それでは、今度こそ失礼するコン」
「お待ちなさい、行商人のお方」

 またもやソロモンさんが止める。

「ワシが王都まで転送してしんぜようぞ」
「て……転送までしてくれるコンか!? ……こんなに待遇の良い村だったなんて、知らなったコン」

 フォキシーは深く感動しているようだ。
 涙をダラダラ流している。

「これも全部、こちらにいらっしゃるユチ様のおかげでございます。王都へ帰ったら色んな人に言いなさい」
「ル、ルージュ!? そういうのは良いから……!」
「了解したコン! こんなに素晴らしいおもてなしをしてくれたコンから、それくらいはお安い御用だコン!」
「<超魔法・エンシェントテレポート>! この者を王都に送りたまえ!」

 ということで、フォキシーは笑顔で王都に転送された。
 ソロモンさんは満足げな表情だ。
 それどころか爽やかな汗までかいている。

「ありがとうございます、ソロモンさん。魔法札だけじゃなく、超魔法まで使っていただいて」
「いや、お礼を言うのはワシの方ですじゃ」
「え? どういうことですか?」

 別に、感謝されるようなことはしていないのだが……。

「古の超魔法は気分がスカッとするのですじゃ。しかし、やっぱり攻撃魔法の方が良いですな。どれ、モンスターどもはおらんかな。一発ぶっ放したいのですが……」

 ソロモンさんはワクワクした感じで荒れ地の方を見ている。
 あの超魔法をぶっぱされたら、村まで吹っ飛びかねない。

「ま、まぁ、それはまた今度でお願いしますね」


◆◆◆(三人称視点)

「いやぁ、あんなに素晴らしい村だとは思わなかったコン」

 フォキシーは上機嫌で王宮に向かっていた。
 こんなに商売がうまくいったことは、今回が初めてだった。
 道に迷ったときはどうなるかと思っていたが、怪我の功名というヤツだ。

「過去最高の売上になるのは間違いないコンね」

 何と言っても、最高品質のレア作物を大量に確保できた。
 王宮であれば買値の3倍で売れる。
 
「それどころか、王都まで転送してくれるなんて……こんなの初めてだコンよ」

 おまけに、転送費用はタダ。
 魔法札までいただいてしまった。
 未だに、フォキシーはその破格の待遇に震えていた。

――こりゃあもう、宣伝しまくるしかないコンね。

「知ってるかコン? クソ土地と言われてたデサーレチは、とんでもない豊かな土地だったコン。中でも領主のユチ殿は……」

 フォキシーはデサーレチの話を、王宮はおろか王都の商店街まで言いに言いまくった。
 住民たちはその話を興味深く聞いては感嘆する。
 そして、うわさはサンクアリ家にも届くのであった。
「ゲッヘェェェ。ブエェェェ。こ、こんなにしつこい風邪は始めてだぁぁぁ」

 全然体が治らない。
 頭はいつも熱でぼんやりしているし、目はチカチカしていて、少し動いただけでものすごく疲れた。
 良くなるどころか、毎日悪くなっている気がする。
 どうして治らないんだ。
 1日6回のおやつだって5回に減らしているし、苦い薬だって砂糖をたくさん入れて甘くして頑張って飲んでいるのに……。
 でも、僕ちゃまは朝からウキウキしていた。

「今日はエフラルちゃんと初めて会う日だぁぁぁ~。実物はどんなにかわいいのか楽しみだなぁぁぁ~」

 僕ちゃまの婚約者――ポリティカ男爵家のエフラルちゃん。
 14歳になった時、父ちゃまが見つけてきてくれた。
 まだ肖像画しか見たことないけど、僕ちゃまの好みにピッタリだった。
 透き通るような白い肌に、眩しいくらいの金髪。
 くるりとしたブルーの瞳が本当にかわいい。
 気がついたら、デヘヘヘェェェと涎が出ていた。

「クッテネルング様、エフラル様がお着きになりました」

 エフラルちゃんが着いたと聞いて、体の不調が吹っ飛んだように軽くなる。
 ルンルンしながら玄関へ向かった。
 こじんまりとした馬車から、妖精みたいな女の子が降りてくる。
 肖像画で見たよりもずっと儚い雰囲気だった。

「ク、クッテネルング様……お初にお目にかかります……エフラル・ポリティカでございます……」

 うっひょー、なんて可愛い声なんだ。
 小鳥がさえずるような声って、こういうことを言うんだな。
 もっと聞きたくなる。

「僕ちゃまはサンクアリ家のクッテネルングだぁぁぁ。よろしくぅぅぅ」
「は、はい……よろしくお願いいたします……」

 エフラルちゃんの表情は暗い。
 きっと、僕ちゃまに会うのが待ち遠しくて、待ちくたびれてしまったのだろう。
 使用人たちも哀れみの表情でエフラルちゃんを見ている。
 でも、もう大丈夫だ。
 僕ちゃまはここにいるぞ。

「お、お父様、本当に行かなくてはいけませんの……!」
「エフラル。私も悪いと思っている。頼む、ポリティカ男爵家のために頑張ってくれ」

 エフラルちゃんとポリティカ男爵は涙ながらに見つめ合っている。
 まるで、今生の別れみたいな雰囲気だ。
 何も今日結婚するというわけでもないのに大袈裟だな。
 まぁ、僕ちゃまが幸せにするから安心してよ。

「……ぐすっ」

 エフラルちゃんが涙を拭きながらやってくる。
 僕ちゃまに会えて、そんなに嬉しいんだね。

「さあぁぁぁ、外でお茶でも飲もうかぁぁぁ」
「は、はい……ぐすっ」

 僕ちゃまはテラスに案内する。
 屋敷の部屋でお茶会する予定だったけど気分が変わった。
 サンクアリ家の領地を見せびらかそう。
 しかし、テラスには何の用意もされていなかった。

「コラァァァ! どういうことだぁぁぁ! ちゃんとお茶の用意をしておけよぉぉぉ!」

 怒鳴り散らしていると、使用人たちが慌ててやってきた。

「ク、クッテネルング様!? しかし、お茶会はお部屋でやると昨日……!」
「なんだぁぁぁ!? 口答えするのかぁぁぁ!? 貴様をクビにしてやってもいいんだぉぉぉ!」
「も、申し訳ございません! 今すぐ用意いたします!」

 怒鳴りながらもエフラルちゃんに向かって得意げな顔をして見せる。
 使用人に厳しい次期当主。
 カッコイイでしょ?
 そのうち、使用人が大慌てでお茶やら軽食やらを持ってきた。
 相変わらず、エフラルちゃんを憐れんでいるようだ。
 だから、もうその必要はないんだよ。
 僕ちゃまに会えたんだからさ。
 一通り準備は整ったが、キャンディースティックが無い。
 僕ちゃまのお気に入りのお菓子だ。

「おいぃぃぃ! どうして、キャンディースティックがないんだよぉぉぉ!」

 僕ちゃまは使用人たちをめちゃくちゃに怒鳴りつける。
 エフラルちゃんにカッコイイところを見せるのだ。

「し、失礼いたしました、クッテネルング様。持って参りました」

 ようやく、キャンディースティックがやってきた。

「ああぁぁぁ、美味いなぁぁぁ」

 僕ちゃまはキャンディースティックを、上から下まで思いっきり舐めまわす。
 エフラルちゃんが釘付けになっていた。
 食べ方のカッコよさに夢中になっているのだ。

「エフラルちゃんも食べるぅぅぅ?」

 僕ちゃまは食べかけのキャンディースティックを差し出した。
 せっかくだから少し分けてあげる。
 これぞ紳士の振る舞いだ。
 だが、エフラルちゃんは石像のように固まった。

「い、いえっ……! け、結構でございますわっ……! あ、甘い物は控えておりますのでっ……!」

 顔の前で両手をブンブン振って断られた。
 そうか、そんなに甘い物が嫌いなのか。

「クッテネルング様……肖像画を拝見してから、ずっとお伝えできなかったことがありますの……ですが、今その決心がつきました……」
「何かなぁぁぁ? エフラルちゃ~んんん?」

 さりげなく近寄ったけど、さささっと身を引かれた。
 そんなに気を使わなくてもいいのに。

「あ……」
「あぁぁぁ?」

 エフラルちゃんは何かを言いかけたまま動かない。
 何やら、覚悟を決めているような気がする。
 そうだ、わかったぞ。
 あなた様のことが好きで好きでたまらないのです、って言いたいんだな。
 
――やれやれ、モテる男は辛いなぁぁぁ。

 モテる僕ちゃまだが、こんな可愛い娘に面と向かって言われたら、さすがに緊張する。
 深呼吸して告白を受け止める準備をした。
 心なしか体調も良くなってきた気がするぞ。
 さあ、エフラルちゃん。
 思いっきり僕ちゃまの胸に飛び込んでおいで。

「あ……あなた様との婚約を破棄させていただきますわ!」

 …………え? 今なんて言った? 婚約破棄……?
 
「アハハハハァァァ、エフラルちゃんんん。そんな冗談は良くないよぉぉぉ」

 僕ちゃまは紳士だから怒ったりなんかしない。
 大丈夫わかっているよ。
 これは貴族ギャグだよね。
 エフラルちゃんは意外にもこういうギャグが好きらしい。

「じょ、冗談ではありませんわ! あなた様と結婚など……ぜ、絶対にイヤでございます!」

 エフラルちゃんは、さらにキツい声で言ってきた。
 至って真剣な表情だ。
 ま、まさか……本気で言っているの……?
 
「エフラルちゃんんん、どうしてそんなことを言うのぉぉぉ? 僕ちゃまはサンクアリ伯爵家の次期当主で、<ドラゴンテイマー>のスキルだってあるんだよぉぉぉ」
「は、話し方も気持ち悪いですし、瘴気まみれで汚いですし、こんな方と結婚などしたくありません!」
「エ、エフラルちゃんんん? だから、冗談はやめてってぇぇぇ……」

 エフラルちゃんまで瘴気がうんぬんと言ってきた。
 長旅で幻覚を見てしまっているんだ。
 キスして目を覚まさせて上げないと。
 慌てて近づくけど、エフラルちゃんはすごい勢いで逃げる。

「近寄らないでくださいます!? 汚くて仕方ありませんわ!」

 ど、どうしよう……そうだ!
 キャンディースティックを上げて機嫌を直してもらおう。
 ずいっとエフラルちゃんに差し出す。
 もちろん、僕ちゃまの唾でしっかりコーティングしてね。

「ほらぁぁぁ、エフラルちゃんんん。美味しいお菓子だよぉぉぉ」
「もういやーー!」

 エフラルちゃんは猛スピードで玄関へ走って行く。
 だから、どうして逃げるのさ。
 僕ちゃまも痛む身体を引きずるようにして追いかける。

「ま、待ってよぉぉぉ、エフラルちゃんんん、なんで婚約破棄しちゃうのぉぉぉ」
「ついてこないでー! 助けて、お父様ー!」

 そのまま、ポリティカ男爵に抱きつく。
 
「お父様、ごめんなさい! 私もう耐えられません! この方との結婚だけはできません! お願いです、お家に帰らせてください!」
「エフラル! 私も悪かった! 辛い思いをさせてしまったな! さあ、家に帰ろう! クッテネルング殿! この話は無かったことで!」
「ちょ、ちょっとポリティカ男爵ぅぅぅ、エフラルちゃんんん」

 馬車はエフラルちゃんたちを乗せると、あっという間に走り去っていく。
 僕ちゃまはポツンと取り残された。
 ぼんやりした頭では、何が起きているのか全く分からない。
 モテる僕ちゃまがフラれるなんて有り得ない。
 いったい、どうして……?
 そういえば、クソ兄者を追い出してから色々おかしくなってきているような……。
 その瞬間、賢い僕ちゃまは全てを理解した。

「そうだぁぁぁ! クソ兄者だぁぁぁ! 出て行くとき変な魔法をかけたんだぁぁぁ! そうに決まっているぅぅぅ! 父ちゃまも言っていたじゃないかぁぁぁ!」

 今さら謝ってきても絶対に許さない。
 可愛い可愛いエフラルちゃんとの結婚を台無しにされたのだ。
 何があっても復讐してやるぞ!
「とりあえず、食料はなんとかなりそうだけど飲み水がなぁ」
「おっしゃる通りでございます」

 畑から作物は採れるわけだが、水はどうするかな。
 領民たちも喉が渇いたらキレイな水を飲みたいだろうし。

「ソロモンさん、みんなはどうやって飲み水を確保していたんですか?」
「一応、川があることにはあるのですが、ひどく汚れておりましてな。畑に使うくらいしかできなかったのですじゃ。ワシらは雨水を溜めてなんとか生き永らえておりました。ワシも身体が弱って、魔法が全然使えなかったですからな」
「そうだったんですか……それはまた大変でしたね」

 ソロモンさんに案内されて、俺たちは川に着いた。

「うっ……こいつはやべぇな」
「これほど汚いクソ川は、私めも初めてでございます」
「ワシらは死の川デスリバーと呼んでおりますじゃ」

 村近くの川は黒っぽい茶色に汚れていた。
 まるで、大雨が降った後のようだ。
 だが、見ただけでその原因がわかる。
 思った通り、この川も瘴気まみれだ。
 だが、これだけ汚れているとなると……。

「たぶん、上流の水源がそもそも汚れているんじゃないですか?」
「さすがは、生き神様ですじゃ。おっしゃる通り、水源地が汚れているのです。しかし、近寄ろうとすると体が動かなくなってきてどうにもならんのですじゃ。川の水源地は、あの山の中にありますじゃ」

 ソロモンさんは川の上流にある山を指した。
 そこもまた瘴気が漂っていてヤバそうだ。
 さっそく向かうわけだが、今度こそ静かに浄化したい。

「皆さま、お集まりください! ただいまより、ユチ様が御業を披露してくださいますよ!」
「いやっ、ちょっ」

 いきなり、ルージュが叫び出した。
 あっという間に、領民たちが集まってくる。
 そのせいで、“水源地を静かに聖域化計画”が一瞬で破綻した。

「生き神様! 御業を使われるときは教えてくださいよ! 毎日楽しみにしているんですから!」
「生き神様の御業を見るだけで、私たちは元気になるんです!」
「おい、みんな! 作業を中断して、すぐに生き神様のところへ来るんだ!」

 領民たちは勢揃いして並ぶ。
 みんな目がキラキラしていた。
 ここまでされたら、さすがに追い返したりはできない。

「じゃ、じゃあ、俺の後ろについてきてください」

 どうせなら、ここら辺も聖域化しながら向かうか。
 全身に魔力をちょっと込めながら歩き出す。
 俺が歩いたところは、土が潤い、草が生え、花が咲き、どんどん様変わりしていく。

「なんて素晴らしい光景だ……これぞ神の力だな」
「生き神様こそ、神様の中の神様だ」
「同じ時代に生まれて本当に良かった……」

 領民たちの恍惚とした声が聞こえてくる。
 そんなすごいことでもないと思うんだが……。
 村の中はあらかた聖域化できたけど、いずれは外の方も聖域化しないとなぁ。
 デサーレチは結構広いから、意外と大変かもしれんぞ。
 しばらく歩くと水源に着いた。

「うっ……きたねえ」
「これもまたクソ水源地でございますね」

 川の水源は小さな泉だった。
 中心部から、こんこんと水が湧き出ている。
 だが、瘴気が溜まりまくっていてもはや汚水だ。

「さっそくユチ様の御業をお見せくださいませ」
「よし」

 と、なったところで、俺は少し迷った。
 どうやって聖域化しようかな。
 泉を丸ごと浄化しないと意味ない気がする。

「いかがされましたか、ユチ様。何かお悩みでございますか?」
「いや、どうやろうかなと思って」
「それなら良い案がございます。泉の真ん中で御業を使われるのです」

 確かに、それなら効果的だ。
 だが、しかし……。

「じゃ、じゃあ、みんなを向こうの方に追いやってくれるかな。さすがに恥ずかしいし」

 小さいといっても、泉の真ん中は遠くにある。
 服を脱ぐ必要がありそうだ。

「何をおっしゃいますか、ユチ様! ユチ様の御業を見られないなんて、悲しすぎて仕方ありません!」

 ルージュが騒いでいると、領民たちも騒ぎ出した。

「生き神様! 私たちを追い払わないでください!」
「御業をぜひ見せてください!」
「一日一回は見ないと気が済まないんですよ!」

 四方八方から必死に訴えられる。

「い、いや、でも服が……」
「「ユチ様(生き神様)の魅力を感じるには、服などもはや不要でございます!」」

 力強い瞳で言われ断り切れなくなってしまった。
 領民たちが見守る中、俺は上衣を脱ぐ。
 下には何も着ていないので、もちろん裸だ。
 領民たちはうっとりした感じで、俺のことを見ている。

「ああ、なんて美しいのでしょう」
「本当に神様が人間の姿になったようだ」
「いつ見ても素晴らしい肉体だ」

 そのまま、俺は泉の中に入っていく。
 冷たいが凍えるほどではなかった。
 深さは俺の腹くらいまでかな。
 湧き水が出てくるところに、一番瘴気が溜まっていた。
 そこからちぎれるようにして、ヤツらは川へ流れていく。
 魔力を込めていると、黒い塊が苦しみだした。
 苦しそうにプルプル震えている。

『ギギギギギィ……!』

 俺は早く終わらせたかった。
 老若男女に見つめられているので、恥ずかしくて仕方がない。
 まったく、さっさと消えろよな。

『ギギギギ……キャアアア!』

 畑の時と同じように、瘴気はふわぁ……と消えちまった。
 すると、すぐに水にも変化が現れた。
 さっきまでの黒い汚水は消えて、透き通った水になっていく。
 水の吹き出し口を丸ごと聖域化したから、そこから新しく出てくる水も聖域化されているんだろう。
 瘴気に汚染された水を浄化しながら流れていく。

「みんな見ろ! 水がキレイになっていくぞ!」
「やったー! これでいつでもキレイな水が飲めるぞー! こんなことがあり得るのか!?」
「なんという奇跡なんだ!」

 俺は早くこのプレイから解放されたい。
 だが、まだ泉からは上がれない。
 念のため、もう少し聖域化させた方が良いかもしれない。

「皆さん、ご覧いただきましたか!? ユチ様の御業は、水にも効果的なのであります!」

 すかさず、ルージュが演説を始めた。
 相変わらず良く通る声だ。
 今度は倒れた木の上に立っている。
 どうして、そう都合よく台があるのか……。
 俺は半ば諦めていた。

「さあ、皆さん! 今こそユチ様のご功績を讃えるのです! 天に向かって叫びましょう! ユチ様のお名前を!」
「「うおおおお! ユーチ! ユーチ! ユーチ!」」

 自分の名前がコールされる中、俺はただただ泉に浸かっていた。


□□□


「さて……」

 あらかた聖域化が終わり、俺は泉からあがる。
 散々晒されたので、ある意味達観の境地に入っていた。

「お疲れ様でございました、ユチ様。皆さま、大変喜んでらっしゃいます」

 まわりの領民は川の水をがぶがぶ飲んでいる。

「生き神様! こんなに美味しい水を飲んだのは始めてですよ!」
「一生雨水しか飲めないのかと覚悟していました!」
「まるで生き返ったような気分になります! 感謝してもしきれません!」

 ソロモンさんも大喜びで走り回っていた。

「あのデスリバーがここまでキレイになるなんて、ワシも想像できなかったですじゃよ!」

 そして、みんなで嬉しそうに魚やら何やらを採り始めた。
 何だかんだ俺は安心していた。
 これで飲み水問題も大丈夫そうだな。


――――――――――――――――
【生き神様の領地のまとめ】
◆“キレイな”死の川デスリバー
 デサーレチの主要な水源。
 元は非常に透明度の高い川だった。
 だが、瘴気に水源地を汚染され想像を絶する汚水となっていた。
 水量は多いが水深は浅く、全体的に穏やかな流れ。
 何が採れるかはお楽しみ。
「ユチ様、力を抜いてくださいませ。それでは上手くできませぬゆえ」
「う、うん、そうは言ってもね……」

 水源地の聖域化が終わった後、俺はルージュにマッサージされていた。
 なぜか台のように土が盛り上がっている場所があって、俺はそこに連行されていた。
 当然のようにパンツ以外の服も脱がされている。
 まさか、ルージュのマッサージは恒例にならないよな?
 いや、頑張って断れば大丈夫だろう。
 まだ二回目だし定着することはないはずだ。

「生き神様! 早くこっちに来てくだされ! とんでもないことですよ!」

 ルージュに無理矢理マッサージされているときだった。
 ソロモンさんが大声で俺を呼んでいる。
 その顔は驚きで満ち溢れていた。

「何か旨そうな魚でも採れたのかな」
「行ってみましょう、ユチ様」
「ちょっと待ってくれ、とりあえず服を……」
「生き神様! 何をやっているのですか! さっさと来てくだされ!」

 服を取ろうとした瞬間、ソロモンさんに勢い良く引っ張られた。
 すんでのところで俺の手は空振りする。

「ソ、ソロモンさん! ま、待って! 服!」
「そんなのいいから、早く来てくだされ!」
「服をお召しになられていると、ユチ様の魅力が半減いたします」
「そうじゃなくてね!」

 結局、俺はパンツ一枚の格好で駆り出された。
 高身長美人とロリ幼女に手を引かれる半裸の男。
 傍から見るとただの変態だろう。

――それにしても、ソロモンさんはどうしてこんなに慌てているんだ?

 しかし、川の近くまで行ったとき、その理由がわかった。

「マジかよ……すげぇな」
「これは……私めも驚きました」

 川のすぐ近くの地面には、度肝を抜かすようなレア素材がどっさり積まれていた。
 こりゃあ確かに、驚くわな。

<ジュエリンフィッシュ>
レア度:★7
 目と鱗が宝石になっている魚。鉱石を研磨した宝石より、ずっと透明度が高い。乱獲のため数が減っており大変な希少種。肉も美味。

<ガラスクラブ>
レア度:★9
 全身が特殊なガラスのカニ。このガラスを用いて作られた望遠鏡は、何十km先までも見える。肉も美味。

<リフレクティング・マジカルシェル>
レア度:★8
 魔法を反射する力のある貝。この貝殻で作った鎧は対魔法力に優れている。肉は貝柱として食べるのが通。

<バフバフ水草>
レア度:★8
 食べると身体能力が何十倍にも増幅される。水が極めてキレイな川でないと生息しない。

<プラチナ砂金>
レア度:★9
 金の純度が100%の砂金。不純物など一切入っていない。この砂金で作られた装具は、魔法攻撃を吸収し無力化する。宝石としての価値も超一級品。


「どいつもこいつも、レア素材ばかりじゃねえか」
「あのクソ川からこんなにたくさんのレア素材が手に入るとは……私めも驚きました」

 領民たちはせっせと素材を集めている。
 しかも、見たところ川にはまだまだたくさんいそうだった。
 さすがに取り過ぎはまずいが、採り切れないくらいあるんじゃなかろうか。

「見てください、生き神様! 夢のような光景ですよ!」
「俺だって長年生きているが、見たことねぇ物ばかりだ!」
「デスリバーからこんなに素晴らしい物が採れるなんて思ってもみませんでした! これも全部生き神様のおかげね!」

 俺に気づくと、領民たちは跪き祈りを捧げ出した。

「い、いや、お祈りなんかしなくていいですからね」
「皆さま! ユチ様こそ生きた伝説! この村の守り神なのです! さあ、皆でその偉業を称えましょう!」
「「ははー!」」

 ルージュがご満悦な顔で煽りまくる。

「それだけじゃないんですじゃ! 生き神様、この水を見てくだされ!」

 ソロモンさんは大慌てで、小さな器を持ってきた。
 中を見たが、ただの水だ。
 透明でキレイだが、何の変哲もない。

「キレイな水ですねぇ」
「十分飲めそうな水でございます」
「もっとよく見てくだされ!」

 ソロモンさんは、切羽詰まった感じで器を差し出してくる。
 こんな水より、さっきの魚とか砂金の方がよっぽどレアな気がするが……。
 と、そこで、俺たちはぎょっとした。

「お、おい……ルージュ……」
「え、ええ……」

 結論から言うと、この水はただの水ではなかった。


<ライフウォーター>
レア度:★10
 生命を司る水とも言われている。体力や魔力を最大限まで回復する。怪我をしたところに振りかけると全治癒する。コップ一杯飲むだけであらゆる万病を癒す。


「レ・ア・度・10!? こ、これは、あの<ライフウォーター>じゃないですか!? この水はどこから採ってきたんですか!?」
「このコップ一杯で人生を3回は遊んで暮らせますね」

 病気は治ったのに、ソロモンさんはハアハアしている。
 興奮を抑えきれないと言った感じだ。

「そ、それがデスリバーの水なんですじゃ!」
「「ええ!?」」

 俺とルージュはめちゃくちゃに驚いた。
 川の水が全てレア度10なんてありえるのか?

「ソロモンさん、そんなことあるわけないじゃないですか。そんなの伝説の神域レベルですよ」

 大昔に滅びてしまった古代世紀では、“神の領域”と言われる領地ゴルドレムがあったらしい。
 なんでも、“不可能が無い”と言われるほどに栄華を極めていたそうだ。

「生き神様! 川全体をよく見てくだされ!」
「川全体……ですか?」

 ソロモンさんに言われ、ルージュと一緒にデスリバーをジッと見る。 

「あ、あれ……? まさか、本当に……?」

 確かに、よく見るとデスリバー全部が<ライフウォーター>のようだ。
 つまり、この川自体がレア度★10。
 とんでもない川だったようだ。
 に、にわかには信じられん……。

「生き神様のおかげでキレイな水が飲めるぞー! いつも喉が渇いてしょうがなかったんだ!」
「これでもう雨水を溜める必要もないんだな! 俺はもう感慨深いよ!」
「いつでもキレイな水が飲めるなんて素晴らしすぎる!」

 領民たちはしきりに感謝しながら、ガブガブと川の水を飲んでいる。
 本当にこれ全部が命の水だったんだな。
 デスリバーの聖域化は、飲み水の確保どころの話じゃなかったというわけだ。漢字(かんじ)
「ゲホッ……す、すみませーん! どなたかいらっしゃいませんかー?」

 デスリバーを聖域化して数日後。
 村の入り口で誰かが叫んでいた。

「また来客か? デサーレチには意外と人が来るんだな」
「きっと、ユチ様目当てでございます」

 門のところには、全身青い人たちが立っている。
 一目見ただけでわかる、ウンディーネの一行だ。
 全部で5、6人のグループみたいだった。

「ウンディーネかぁ、これまた珍しい来客だ」
「デサーレチに彼女らの好きそうな物はなさそうでございますが」
「それに具合が悪そうだな」

 ウンディーネたちは体が濁っていて苦しそうだ。
 本来なら美しい青色なのに、暗い色合いになっている。

「あの、大丈夫ですか?」
「どうぞ、こちらにいらっしゃいませ」

 俺たちが呼んでいると、みんなしてノロノロ歩いてきた。

「ゲホッ……あなたがリーダーの方ですか……?」
「俺がリーダーというか、一応領主のユチ・サンクアリですけど。あの、どうされましたか? 体調が悪そうですが」
「誠に申し訳ないのですが……新鮮なお水を分けていただけませんか? もう何日もキレイな水を飲んでいないのです……ゲホッ」

 そういえば、ウンディーネはいつもキレイな水を飲んでいないと体調を崩すと聞いたことがある。

「キレイな水なら無限にありますよ! ちょっと待っててくださいね! とりあえず、俺の家で休んでてください!」
「私めも運ぶのをお手伝いいたします。あなた方はこちらへ」
 
 ウンディーネ一行を家に案内し、俺たちは急いで水を持ってきた。
 デスリバーの<ライフウォーター>だ。

「はい、どうぞ!」
「す、すごくキレイなお水ですね! い、いただきます……!」

 ウンディーネたちはゴクゴクゴクッ! と勢い良く飲む。

「ぶはぁっ! なんて美味しいんでしょう! こんなに美味しいお水は今まで飲んだことがありません!」

 飲み終わるや否や、ウンディーネたちの濁った感じも消えた。
 向こう側が見えちゃうくらいに透き通っている。
 さすがは<ライフウォーター>だ。
 一瞬で体力を回復させたようだ。

「元気になったみたいで良かったですね。それで、こちらにはどうして……」
「っていうか、この水は<ライフウォーター>じゃないですか!」

 リーダーらしきウンディーネがハッとしたように叫ぶ。
 それに続くように、みんなきゃあきゃあし始めた。

「こ、これがあの<ライフウォーター>!? ホントだ! <ライフウォーター>って書いてあります!」
「道理で普通の水より美味しいわけですね! 飲んだ瞬間、すごい衝撃を受けました!」
「こんな素晴らしいお水が飲めるなんて、私たちはどこまで運が良いのでしょう!」

 ひとしきり騒いだ後、気を取り直したようにこちらへ向き直った。

「ゴ、ゴホン……申し遅れました。私たちはウンディーネの里からやってきました。私はリーダーのネーデと申します。この度は命を救っていただいて、誠にありがとうございます」

 ネーデさんはとても丁寧にお辞儀する。
 残りのウンディーネたちも一緒に深くお辞儀する。
 非常に礼儀正しい種族のようだ。
 ルージュは満足げな顔をしている。

「どっかのクソ狐とは全く違いますね。全ての来客がこうであれば幸いなのですが」
「ル、ルージュ! 静かに! ……それで、ネーデさんたちはどうしてここへ?」

 ウンディーネのことはよく知らないが、ネーデさんは俺より年上な気がする。
 何となくだが。
 まぁ、物腰も落ち着いているし。
 自然と苦手な敬語になってしまう。

「里長の令で、王様へ謁見に向かう途中だったのであります。ですが、途中で道に迷ってしまいこちらの豊かな領地へとたどり着いた次第です」
「そうだったんですか。そりゃまた大変なことで……」
「お恥ずかしい話、ここがどこかもわかっておらず……ここは何という領地でしょうか?」
「デサーレチです」

 デサーレチと言った瞬間、ネーデさんたちは固まった。
 かと思うと、プルプル震え出す。
 その顔は恐怖でいっぱいだ。

「ま、まさか、ここがデサーレチなんですか!? 近づいただけで体が溶けて無くなるという、あの史上最悪の土地ですか!?」
「「……えっ」」

 俺とルージュはびっくりする。
 ネーデさんが叫んだ瞬間、お仲間のウンディーネたちも騒ぎ出した。

「デ、デサーレチ!? 地獄に最も近いという……あのデサーレチですか!?」
「作物は育たず、水も飲めず、死にたければそこへ行けと言われるデサーレチ!?」
「溶岩の沼があるなんてウワサもありますよね!? 数多の死が蔓延っていると言われるデサーレチですって!?」

 マジか……。
 散々な言われようだ。
 フォキシーも驚いていたし、デサーレチの評判は最悪みたいだな。
 ルージュが怒る前に俺は慌てて説明する。

「と、とりあえず、落ち着いてください! ここは確かにデサーレチです。ですが、俺のスキル<全自動サンクチュアリ>でこんなに豊かな土地になったんです!」
「「そ、それは、どういうことで……」」

 スキルのことを簡単に説明した。
 それを聞いて、ウンディーネの一行はまた驚く。
 ネーデさんが恐る恐る話してきた。

「じゃ、じゃあ、この水も元々は飲めないくらい汚れていたのですか? こんなに美味しいお水がまさか……」

 ウンディーネ一行は顔を見合わせて驚いている。
 まるで信じられないといった様子だった。

「良かったらお土産に持ってってください」

 俺はビン詰めした<ライフウォーター>や、<フレッシュブルレタス>やら<ジュエリンフィッシュ>やらを渡した。

「こ、こんなにいただけるんですか? し、しかも、このレタスやお魚だって途方もなく貴重な物ですよね」
「たくさんありすぎて、どうしようか迷うくらいなんですよ。水なんて無限にあるし、作物も魚も採っても採っても無くならないんです」
「「い、いくら感謝してもしきれません……」」

 ネーデさんたちはひたすらに感動している。
 じゃあ、これで……というところで、ソロモンさんが出てきた。
 きっと、部屋の外で待ち構えていたんだろう。
 転送の超魔法を使いたいのだ。
 言われなくてもすぐにわかった。
 顔に書いてあるからな。

「ユチ殿、こちらはどちら様ですか?」
「ソロモンさんです。大賢者の」
「「うえええええええ!? あの伝説の大賢者、ソ、ソロモン!?」」

 そういえば、ソロモンさんは結構有名だった。
 ネーデさんたちが驚きまくるんで、ソロモンさんも嬉しそうだ。

「そなたたちを王都まで転送して差し上げようぞ」
「て……転送までしていただけるのですか……! なんとお礼を言えば良いのでしょう! どうやって王都まで行こうか途方に暮れていたのです」
「転送用の魔法札をあげますじゃ。またここへ来たくなったら破きなされ」
「「ま、魔法札もいただけるのですか!?」」

 ウンディーネ一行はわいわい喜んでいる。
 何はともあれ、みんなが元気になって良かったな。

「それではユチ殿。本当に本当にお世話になりました。あなた様のおかげでこの命が救われました。この御恩は一生忘れません」

 ネーデさんたちは涙ながらにお辞儀をする。

「俺たちも皆さんに会えて良かったですよ。どうぞお元気で」
「ぜひまたいらしてくださいませ。王都ではユチ様の素晴らしさをお伝えください」
「あ、いや、それは別に……」
「「はい! 喜んで!」」

 俺はすかさず断ろうとしたが、ネーデさんたちの大きな返事でかき消されてしまった。
 ソロモンさんが転送の準備をする。

「《エンシェント・テレポート》! この者たちを王都に転送せよ!」
「「皆さま、本当にありがとうございました!」」

 ソロモンさんが言うと、ネーデさんたちは消えた。
 王都に転送されたのだ。

「ふぅ~、やっぱり超魔法は気持ちいいですな~」
「いつもありがとうございます、ソロモンさん」
「なに、ワシも好きでやっておりますからの」

 ソロモンさんの表情は清々しい。
 チラチラ荒れ地の方を見ているが、あいにくとモンスターはいなかった。

「それにしても、瘴気はどこから来るんだろう。領民はみんな良い人だから、邪な心に引き寄せられたとは考えにくいが」
「ユチ様、あちらに瘴気が溜まっている山がございます」

 ルージュが示す方向に小高い山があった。
 そこもまた瘴気でいっぱいだ。
 ここからあまり離れてはなさそうだな。

「よし、次はあの山に行ってみるか。瘴気があっても良いことなんか一つもないからな。手当たり次第に浄化しないと」
「お供いたします、ユチ様」

 ということで、俺たちは山に向かうこととなった。


◆◆◆(三人称視点)

「何という素晴らしい領地だったのでしょう」

 ネーデたちは上機嫌で王都を歩いていた。
 まさか、デサーレチがあれほど豊かだとは思いもしなかった。
 たくさんの貴重なお土産まで頂いてしまった。

「やっぱり、どんなことも自分の目で確かめないといけませんね」

 ネーデの言うことに、ウンディーネ一行はうんうんと頷く。
 デサーレチはクソ土地と言われるほど、最悪な土地として知られていた。
 ところがどうだ。
 そこには天国が広がっていた。 
 伝説の大賢者であるソロモンさえ定住している。
 それどころか、幻の水と言われていた<ライフウオーター>まであったのだ。
 里長も聞いたら驚くだろう。
 
「王様にもお話された方がよろしいのではないでしょうか?」

 余韻に浸っていると、部下の一人が言った。

「それは良い案ですね。ぜひ、王様方にもユチ殿とデサーレチの魅力を知っていただきましょう」

 ネーデたちウンディーネの一行は、ユチとデサーレチがいかに素晴らしいかを王様や王女様に話しまくった。
 そして、その話はサンクアリ家の耳にも入るのであった。
「ゲホオオオッ! ゴホオオオッ! どうして、咳がこんなに止まらんのだああああ! 早く薬を持ってこいいいい!」

 いくら薬を飲んでも、ポーションを飲んでも全く治らない。
 夜も眠れなくなってきたし、頭がガンガンして倒れそうだ。
 
「かしこまりました! 少々お待ちください……クソッ、それくらい自分でやれよな、デブキノコがよ」
「なんだああああ? 何か言ったかあああ?」
「いえ! なんでもございません、エラブル様! すぐに準備いたしますので!」

 とんでもない悪口を言われた気がするが、体調が悪くてそれどころではない。
 使用人が出て行くと、クッテネルングがやってきた。
 目の下がクマになっていて、脂汗も滴り落ちている。

「父ちゃまぁぁぁ、さっさとクソ兄者に仕返ししてよぉぉぉ」

 どうやら、クッテネルングはポリティカ男爵家から婚約破棄されたらしい。
 
「貴様あああ、どうして婚約破棄などされるのだあああ。相手は男爵だぞおおお。この役立たずがあああ」
「だから、クソ兄者のせいだよぉぉぉ。あいつのせいでエフラルちゃんにフラれちゃったんだぁぁぁ」

 伯爵家との婚約を破棄する男爵家など聞いたことがない。
 何かしら嫌がらせをしたいところだ。
 だが、セリアウス侯爵との商談が失敗したせいで、そんな経済的余裕はなかった。

「それにしてもおおおお! やたらとデサーレチのウワサが耳に入ってくるなああああ!」
 
 クソ土地から姿を変え、天国のような素晴らしい領地になっているらしい。

「そんなのデマに決まっているよぉぉぉ。あのクソ土地が栄えるわけがないじゃないかぁぁぁ」

 クッテネルングの言う通りだが、一概にウソだとは言えなかった。
 フォックス・ル・ナール商会の会長やウンディーネの使者など、恐ろしく地位の高い者たちが言っているのだ。

「おのれええええ。ゴミ愚息を思い出したせいで気分が悪くなったああああ」

 私の天才的な領地計画に口出しするヤツを追い出して、最高の日々がやってくると思ったのに。
 
「ガハアアアッ! ゲフウウウッ! だから、早く薬を持ってこいいい!」

 ゴミ愚息を追い出してから、ますます体の具合が悪くなってきた気がする。
 正直言って、歩くだけで倒れそうになる。
 く、苦しい。
 本当に私の身体はどうしたのだ。

「お待たせいたしました! お薬でございます!」
「さっさと、よこせええええ!」
「僕ちゃまの分は砂糖をたっぷり混ぜろぉぉぉ」
「承知いたしました! ……チッ、なんでこんなクソどもの世話なんかしなきゃいけねえんだよ」
「「何か言ったかあああ(ぁぁぁ)?」」
「いえ! なんでもございません!」

 いくら質の悪い風邪だろうが、高価な薬を飲んでいれば治るだろう。
 サンクアリ家は裕福なので、まだまだ大量に手に入る。
 何も心配いらんのだ。

「まぁ、いいいい。ところで、例の者たちは来たのかあああ? ……ゲホオオオッ、ゴホオオオッ!」

 薬を飲んだところで声を張り上げる。
 すぐにむせるのが腹立たしい。

「は、はい……! いらっしゃったのは、いらっしゃったのですが……」

 使用人どもはビクビクしている。
 まったく、もう少しシャキッとせんか。

「オラ、どけよ!」
「きゃあっ!」

 使用人が乱暴に跳ね飛ばされた。
 私の部屋に汚い男たちが遠慮なく入ってくる。
 全員柄が悪く、貴族とはかけ離れた境遇の者どもだ。

「俺はリーダーのアタマリってんだけどよぉ。アンタがエラブル? 太りすぎじゃね?」

 Aランク盗賊団“アウトローの無法者”。
 この辺りでは名の知れた盗賊グループだ。
 その優秀な鍛冶能力であらゆる鍵を造れるらしい。
 古代遺跡を荒らし、貴族の宝物庫を荒らし、貴重な宝を根こそぎ奪っていた。

「にしても良いとこに住んでんなぁ。どうせ、貧乏人から搾り取ってんだろ?」

 本来ならば、屋敷の門をくぐらすことさえ叶わない。
 しかし、今回限りの特別な仕事のため、やむなく屋敷に招き入れた。
 中でも一番大きな男がずかずか出てきた。

「おっ、いいマットがあるな。ちょうど靴に泥がついていたんだ。拭かせてもらうぜ~」 

 不躾な態度と高い絨毯が汚され怒りそうになる。
 だが、懸命に怒りを抑える。
 今から大事な取引をするのだ。
 余計な争いごとは避けたい。

「……貴様の無礼な態度は見逃そうううう。ところで、デサーレチは知っているかああああ?」
「ああ、もちろん知ってるぜ。あのクソ土地だろ? なんだ? お宝でもあんのか? まぁ、俺たちはこの屋敷のお宝でも我慢できるけどよお。 なぁ、お前ら?」

 アタマリが言うと、部下たちもいっせいにゲラゲラ笑い出した。
 一人も上品な人間がいない。

「さすがは、伯爵家だぜ! 高そうなもんがいっぱいだしよ!」
「お土産にいくつかもらっていくか! 売れば結構な金になりそうだ!」
「ちょっとくらい無くなってもわかんねぇんじゃね?」

 アタマリは部下と一緒に、ゲラゲラ笑っている。
 屋敷に似合わぬ、下品な笑い声が響き渡る。
 それどころか、部屋の高価な調度品をベタベタ触りだした。
 これ以上荒らされてはまずい。
 私は慌てて用件を切り出す。

「仕事の依頼とは、これだああああ」

 私は二枚の紙を渡す。
 一枚はデサーレチに追放したゴミ愚息の似顔絵。
 もう一枚は、クソユチにくっついていったルージュの似顔絵だ。

「なんだよ、このクソガキは? っと、こっちの女は、なかなか美人じゃねえか」

 アタマリは似顔絵をまじまじと見ている。

「その男を殺せええええ。女は好きにして構わんんん」

 私は初めから、あのゴミ愚息を殺すつもりだった。
 だが、屋敷内で殺すのはさすがにまずい。
 下手したら失脚もあり得るからな。
 そのため、辺境に追放したのだ。
 運悪く、盗賊団に襲われたとなれば世論も問題あるまい。
 辺境の地で誰にも助けを求められず、たまたまやってきた盗賊団に襲われて死ぬ。
 こんなに不運なことがあるだろうか。

「頭! 俺たちにも女の顔を見せてくださいよ!」
「ほお! 確かに、これは上玉だ!」
「ケケケケ! 楽しみが増えたぜ!」

 盗賊どもは、ルージュの似顔絵に群がっている。
 あの女もまた、私の誘いを断りおった無礼者だ。
 せっかく屋敷に雇ってやったというのに、その恩を忘れおって。
 だから、盗賊どもに似顔絵を見せたのだ。
 今さらどうなろうと、私の知ったことではないわ。

「んで、報酬は?」

 ひとしきり騒いだ後、アタマリは無遠慮に言ってきた。
 こいつら盗賊には品性の欠片もない。
 だが、金で動く分まだ安心できる。

「前払いで500万エーン。その男の首と引き換えに500万エーン払おう」
「全然足りねえな。その倍払えや。金持ちだろうがよ」

 アタマリが言うと、部下たちはまた賛同しだした。

「1000万エーンで人殺しはできんわなぁ」
「おい、オッサン。俺たちのこと見くびってるんじゃねえの?」
「伯爵家ってそんなに貧乏なん?」

 盗賊団は揃ってギャハハハ! と笑っている。
 ゴミ愚息の殺害依頼などで、2000万エーンも払うのは気が引けた。
 しかし、こいつらは盗賊団だ。
 機嫌を損ねると何をしてくるかわからない。
 仕方がない金を払うか。

「……良いだろう。倍額の2000万エーン払おう。これが前払いの1000万エーンだ」

 私は金をアタマリに渡す。
 アタマリは律義に金を数えると、上機嫌で出口へ向かう。
 
「まいどあり~! じゃあな、また頼むぜ~!」
「待てえええ、わかってるだろうなあああ! ちゃんとその男を殺すんだぞおおお! さもなければ、貴様らをおおお……!」
「な~に、心配すんなよ。これでも俺たちはプロさ。さっさとこの男を殺して女と遊んだら、残りの金もいただきに来るぜ。ちゃんと用意しておいてくれよ~」
 
 盗賊団は下品に笑いながら出ていった。

「チイイイイ、余計な出費になったな……ゲホオオオッ、ゴホオオオッ!」

 まずは、この体調不良をなんとかせんとな。
 と、そこで、カーテンの影からクッテネルングが出てきた。
 盗賊団が来るや否や隠れていたのだ。
 こいつは偉そうなくせに臆病だ。
 まったく、誰に似たんだろうな。

「2000万エーンも払ったのぉぉぉ!? 僕ちゃまの新しい馬車を買うんじゃなかったのぉぉぉ!?」
「黙れえええ! それに、払ったのはまだ1000万エーンだあああ!」

 ともあれ、私は愉快だった。
 これでクソユチを世の中から葬れる。
 見ていろ、ゴミ愚息め。
 貴様はもうおしまいだ。
 今さら謝っても許さないからな。
 せいぜい、残り少ない人生を楽しめ。
 ゲホォォォッ、ゴッホォォォ!
「さて、ここが鉱山か」
「例外なく、ここもクソ鉱山でございますね」

 しばらく歩いて、俺たちは山の麓に着いた。
 ルージュとソロモンさん、領民も一緒だ。
 危ないから来なくていいと言ったんだが、「御業を拝見したい」ということで、みんなついてきてしまった。

「ワシらは”死の鉱山デスマイン”と呼んでおりますじゃ。見ての通り、ここも近寄れないくらい、ひどい有様なんですじゃ」

 デスマインはそれほど高くはなく、小高い丘って感じだな。
 そこかしこに洞窟があるような山だった。
 だがしかし、例のごとく瘴気がぐじゃぐじゃに溜まっている。
 空高く飛んでいる鳥ですら、山に近づけないくらいだ。

「鉱山っていうくらいですから、鉱石とか魔石が採れたりするんですか?」
「昔は採れたらしいんですがの……今はサッパリですじゃ。それどころか、近づくことさえできませんでしたな」
「そうですか。じゃあ、さっそく入ってみますかね」
「お気を付けくださいませ」

 なるほど……こいつはヤバいわ。
 ちょっと入っただけでわかった。
 洞窟の中には目の前が見えないほど、瘴気が溜まりに溜まりまくっている。

「うわぁ……何も見えないじゃん」
「とんでもないクソ洞窟でございますね」

 俺たちだけじゃなく、領民たちもドン引きしていた。

「見ろ! 瘴気があんなにたくさんあるぞ!」
「いつの間に、こんなに溜まっていたんだ!」
「お願いいたします、生き神様! もはや、あなた様じゃないと進むことさえできません!」

 俺は洞窟へ入っていく。
 領民たちは期待に満ち溢れた目で俺を見ていた。
 いや、背中に視線がビシバシ当たって痛いんだわ。
 とりま、さっさと終わらせよう。
 瘴気がテリトリーに入ったところで、魔力を込める。
 <全自動サンクチュアリ>発動!

『ギギギギ……!』

 すぐさま、瘴気の群れがブルブル震え出した。
 俺は魔力を込め続ける。
 頼む、早く消えてくれ。
 領民たちの視線が痛いから。

『キャアアアアア!』

 例のごとく、女の子のような悲鳴を上げて、瘴気はすうう……と消えていった。
 それを見て、領民たちが大喜びする。

「さすがは生き神様だ! あっという間に、浄化してしまわれたぞ!」
「こんな御業が見られるなんて、生きてて良かったよ!」
「ああ、ありがたや! ありがたや!」

 バンザーイ! バンザーイ! と歓喜の声がこだました。

「ユチ様、振り返って足元をご覧くださいませ」
「え、足元?」

 後ろを見ると、洞窟の地面がキラキラ光っていた。
 青や赤、黄色に光っていたりする。

「なんじゃこりゃ?」

 拾ってみると、キレイな石だ。

「こ、これは宝石じゃありませんかの?」

 ソロモンさんが慌てて拾い上げた。
 ギラギラ光っている。
 
「え、宝石……ですか?」
「そうでございますじゃ! まさか、ただの道にこんなにたくさん落ちているなんて!」

 ソロモンさんの言葉を聞いて、領民たちも気づいたようだ。

「おい、これはルビーじゃないのか!?」
「こっちにはサファイヤがあるぞ!」
「ここにはオパールが転がってるじゃないか!」

 領民たちは大喜びで宝石を拾い集める。
 宝石は拾っても拾っても、有り余るほど転がっていた。

「ルージュも少し持って帰ったら?」
「お言葉ですが、私めはそのような物に興味はございません」
「あっ、そうなのね」

 そういえば、ルージュはあまりアクセサリーとか着けていなかった。
 宝石よりキレイなドレスとかの方が良いのかな。

「私めの興味はユチ様のみに向けられております」
「は、はい……そうですか」

 落ちている宝石はどれもこれも、すでに磨き上げられているかのようにギランギランに輝いている。
 しばらく歩くと、水が溜まっている場所に出てきた。
 小さな湖みたいだ。
 たぶん、雨水が溜まっているんだろうな。
 当然の如く、瘴気が溜まりまくっていた。
 領民たちもギョッとしたように眺めている。

「マジかよ、なんつう瘴気の塊だ」
「恐ろしいまでに汚染されています」
「ひでえ……知らないうちにこんなに溜まりやがって」

 湖の瘴気はじわじわと、洞窟の中を這いずり回っていた。
 どうやら、ここが瘴気の源らしい。

「雨水と一緒に瘴気が溜まって、山全体に瘴気が移動しているようだな」
「デスマインを完全に浄化するには、このクソ湖の浄化も必須でございますね」

 ま、まさか……。

「さあ、皆さま! ユチ様の御業のお時間でございます! お集まりくださいませ!」

 ルージュはまた石の上に乗って演説している。
 どうしてそう都合よく台があるのか……俺はもう諦めていた。

「生き神様の御業のお時間だぞー!」
「こうしちゃいられませんわ! みんな、集まって!」
「神聖なる沐浴のお時間だ! 見逃したら一生の損だぞ!」

 瞬く間に領民が集まってくる。

「ル、ルージュ。湖は結構深そうだよ」
「ご心配なく、水深はユチ様の腰くらいまででございます」

 ルージュが近くに落ちていた、木の枝らしい棒を湖に差し込んで教えてくれた。
 確かに、俺の腰くらいまでの深さのようだ。
 というか、なんで木の枝まで落ちているんじゃい。

「水は結構冷たいかも」
「ご心配なく。適度な冷たさでございます」

 俺は水の中に手を入れる。
 冷たくて気持ちよかった。

「皆さまもお待ちかねでございます」
「せ、せめて、領民の前でまた裸を晒すのだけはイヤだよ」
「お脱ぎできないのであれば、私めが脱がさせていただきます」

 有無を言わさず、ルージュが服を脱がしにかかってくる。
 恍惚とした表情だった。

「待て待て待て! 自分で脱ぐ! 自分で脱ぐから!」

 仕方がないので、俺は服を脱ぐ。
 ポチャンと湖に入った。
 よし、<全自動サンクチュアリ>!
 魔力を込めながら湖の中を進んでいく。
 ちょうど中心にでかい瘴気の塊が浮かんでいた。

『ギギギギ……!』

 俺が近寄っただけで苦しみだした。
 やっぱり、どんなに大きくても効き目がバッチリなんだな。
 早く消えようね。

『キャアアアアアア!!』

 やがて、瘴気はあっさり消えてなくなった。
 わあああ! と洞窟が盛り上がる。
 これでこの鉱山も自由に出入りできるな。

「「よーし、さっそく採掘を開始するぞー! 生き神様への供物を捧げるんだー!」」

 領民たちはカンカンと採掘を始めた。
 供物という言い方は気になるが、どんな鉱石が採れるのか俺も楽しみだった。

――――――――――――――――
【生き神様の領地のまとめ】
◆“キレイな”死の鉱山デスマイン
 村から少し離れたところにある小高い山。
 木々は少なく、そこかしこに洞窟があるのが特徴。
 それほど高くはなく、地質的にも登りやすい。
 生き物が近づけないほど、瘴気に汚染されていた。
 ユチのおかげで無事に浄化された。
 何が採れるかはお楽しみ。
「ユチ様、もっと力を抜いてくださいませ」
「いや、ほら、もういいから」

 領民たちがピッケルを振るう中、俺はルージュにマッサージされていた。
 しかも、ただのマッサージではない。
 パンツ以外の服は全て脱がされ、ルージュ特製のオイルによる怪しいあれだ。
 地面にはマットを敷かれ、オイルを塗られ……やりたい放題だ。
 これらのアイテムは全てルージュが持参してきた。

「力を抜いてくださらないとマッサージできませぬ」
「も、もう勘弁してくれ……!」
「ユチ様、いけません!」

 逃げようとしたのだが、あっけなく捕まってしまった。
 こ、これが元Sランク冒険者か。
 有無を言わさぬい勢いだ。
 ルージュはご満悦な表情で俺の体を撫でまわす。
 瞬く間に、俺の全身はヌルヌルのオイルまみれになっていた。
 洞窟内の僅かな明かりでも、ぬらりと艶めかしく光っている。

「お気持ちはいかがでしょうか、ユチ様?」
「は、恥ずかしいですね」

 ここまで来たら、早く終わってくれることを祈るしかない。
 幸いなことに、周りには誰もいない。
 俺は領民たちへ強い念を送る。
 来るなよ、来るなよ……?

「あっ、生き神様が裸でくつろいでいらっしゃる」
「見れば見るほど、本当に神聖な体つきだな」
「おーい、みんな。生き神様がマッサージを受けてらっしゃるぞ。見学させていただこう」

 そのわずか一秒後、ぞろぞろ領民たちが集まってくる。
 あろうことか、その場に座り込みだした。
 採掘に参加していない領民たちは、温かい目で俺たちを見ている。
 そして、石の台(これまた都合よくあった)に寝かされたパンツ一丁の俺。
 だんだん、俺はいたたまれない心境になってきた。

「生き神様! 採取できた鉱石を見てくだされ! こりゃまたすごい鉱石が採れましたぞ」

 洞窟の奥からソロモンさんが、ハイテンションかつ美しいフォームで走ってきた。
 と、思いきや、俺たちの怪しい光景へ釘付けになる。

「……って、お楽しみ中でございましたな。これは失礼いたしましたじゃ。皆の者! 生き神様がお楽しみ中じゃ! さあ、もっと向こうの方で採掘するのじゃ! 邪魔しては悪いぞよ!」

 ソロモンさんは何やら満足気な顔で洞窟の中へ戻っていく。
 領民たちもハッとしたようだ。

「確かに、そうだよな。生き神様もお疲れなんだ。俺たちが近くで騒いでいたら迷惑だ」
「いつも私たちのために頑張ってくださっているのよ。たまには発散しないとね」
「さあ、みんな。生き神様はお楽しみ中なんだ。あっちに行くぞ」

 みんな納得したような表情でその後を追って……。

「ちょーっと、待ってください!」
「あっ、ユチ様! まだマッサージは……!」

 俺は大慌てでソロモンさんたちを引き留める。
 特殊な趣味と思われるのだけはご勘弁だ。

「いかがされましたですじゃ? ワシらのことは気にせず楽しんでいただいて……」
「ど、どんな鉱石採れたんですか!? 見せてくださいよ!」

 誤解を解くのはまた今度にして、とりあえず話題を逸らすのだ。

「ああ、そうじゃった! 皆の者! 生き神様に鉱石をお見せするのじゃ! 生き神様もきっと驚きますぞ!」

 俺たちの目の前に、たくさんの鉱石が運ばれてくる。

「うおおお、すげえ」
「まさか、あのクソ鉱山からこれほど素晴らしい鉱石が採掘できるとは」

 これまたとんでもないレア素材が選び放題だった。


<テンパレギュ石>
レア度:★7
 周囲の温度を一定に保つ。石とは思えないくらい軽い。

<フローフライト鉄鋼石>
レア度:★9
 この石から作られた装備や建造物は、魔力を供給することで浮遊する。加工性にも優れており、とても頑強な鉱石。

<ウィザーオール魔石>
レア度:★8
 虹色に輝く魔石。この石で作られた装備品を持つと、魔力が何十倍にも増幅される。魔術の才が無い者も魔法が使えるようになる。装飾品としても価値が高い。

<ラブラヒールストーン>
レア度:★7
 持っているだけで体力と魔力が少しずつ回復する石。怪我や病気も癒せる。ピンクや緑の淡い色合いが富裕層に人気。

<永原石>
レア度:★9
 魔力を保存できる石。一度魔力を込めると、半永久的に同じ量の魔力を生産し続ける。石の大きさで容量は決まっている。

<ゴーレムダイヤモンド>
レア度:★10
 大人の拳大くらいはある世界最高峰レベルのダイヤモンド。恐ろしく硬い上に、恐ろしく割れにくい。古のドラゴンでさえ傷をつけることはできない。これで作られたゴーレムが古代世紀を滅ぼしたとかなんとか。


「……いや、マジかよ」

 デスリバーの時もそうだったが、さらに上回るほどのレア素材だ。
 こんなの冒険者ギルドの人間とかが見たら、涎が止まらないんじゃないか?
 どいつもこいつも、おいそれとは手に入らんぞ。
 しかも、一つや二つではない。
 <ゴーレムダイヤモンド>はやはり少ないようだが、それでも有り余るほど運ばれてくる。
 思っていたより、デサーレチはすごい場所だったのかもしれない。

「こんな鉱山がこの世に存在するのか?」
「私めの知る限り、全世界でもここだけでございます」

 俺は半裸のまま、ずっと疑問に思っていたことを呟いた。

「どうしてこんなにたくさんレア素材が採れるんだろう? 鉱山だけじゃなくて、畑も川も目が飛び出るほど貴重な素材だらけだったよな」
「きっと、ユチ様の前世の善行が結晶となって大地から出てきているのでしょう」

 ルージュは自信満々な顔でうなずいているが、さすがにそれは違うだろうよ。

「ワシも考えたんですがの。元々、この土地にはたくさんの高級素材があったんだと思いますじゃ。そこに生き神様のスキルによって土地全体が聖域化し、素材の生産スピードが格段に上がっているのですじゃよ」
「へぇ~、そんなことがあるんですかね」

 にわかには信じられなかった。
 だが、ソロモンさんが言うのだからそうなんだろうなぁ。

「いずれ、しっかりとした調査をしてみましょうぞ。もしかしたら、この土地は世界でも特別な場所かもしれませんですじゃ」
「私めは古代世紀と深い関わりがあると考えております」
「ハハハ、そんなまさか」

 二人が突拍子もないことを言い出すので、思わず笑ってしまった。
 古代世紀とは、すでに失われた超文明時代のことだ。
 今よりずっと、動物も植物も魔法も色んな技術も栄えていたと聞く。
 空を飛ぶ城、天にも届くくらい巨大なゴーレム、深海まで行ける馬車……。
 ほとんど伝説上の扱いとされているモンスターたちも、たくさんいたそうだ。

「生き神様、ルージュ殿の言うことは十分可能性がありますぞ」
「古代世紀と関係があれば、この土地は世界的にも重要な土地となります」
「いやいやいや、ありえないって。さすがに都合良すぎでしょうよ。アハハハハ」

 これだけは確実に言えるが、古代世紀とデサーレチは絶対に関係ないはずだ。
 まったく、二人とも冗談が下手だなぁ。