〇第1話シナリオ

 ───十年前、
 ……僻地の村にて────。


「「逃げろッ、逃げろぉぉお!」」

 ──────わーわーわー!
 きゃぁっぁああああああ!!

「モンスターだ! モンスターが溢れたぞぉぉぉお!」
「じ、自警団は何をしてるんだ?! 冒険者はどこにいった?!」

 ───やめろぉぉぉおおおお!!

 喊声と悲鳴が轟いていた……。
 耳を覆いたくなるようなすさまじい絶叫がそこかしこで───。

「「ぎゃぁあああああああああッ……!」」

 そして、断末魔と鬨の声の協奏曲のなか、カールの村は燃えていた……。
 そこに交じる人ならざるモンスターの咆哮。

『ごるぁっぁあああああああ!!』
『ぐるぉぉぉおおおおおおお!!』

 ……空を覆いつくすのは魔物の群れ。
 ───大地を埋め尽くすのも怪物の群れ。

 (いろどり)は赤と黒のみ。

 木々は燃え落ち、
 畑は踏み荒らされた。

 わずかばかりの自警団は蹴散らされ、ダンジョンを攻略していた冒険者は姿形もない。
 後に残るのは、周囲はうめき声と断末魔の悲鳴だけが響いていた……。

「…………ここももうダメか」
 粗末な剣と、農機具を護身具に立てこもっていた数人の男女が悲壮な声を上げる。
「だ、ダンジョンブレイク? それとも、魔王軍……? あぁ、いや……! もう、そんなことはどうでもいい!」

 半ば投げやりな態度で男は宣い、つらい顔を隠しもせずに少年───カールに向き合った。

「聞け、カール。すまないな……。せっかく村で一番にスキルを授かったお前を祝ってやるべき日にこんなことになってしまって」

 もちろん彼のせいではない。
 だが、謝らずにはいられなかったのだろう。

「カール……。私たちの可愛いカール……」

 煤と血でボロボロになのに、なお美しい女性が家の地下貯蔵庫に少年───カールを匿った。

 ……そこは狭く、汚く、暗い場所。
 酷い悪臭が立ち込めてはいたが、作りだけは頑丈だった。

『『グルァッァアアアアアアアアア!』』

 しかし、魔物たちの魔の手は、すぐそばに迫る。

「───ごめんな……。君の幼馴染は入れてあげられないんだ……。だってそこは一人しか入れないから」

 そういって男はもう一人の少女を抱きしめ、カールだけを地下に匿った。
 頭を押しつぶさんばかりの巨大な蓋が、ゴリ、ゴゴゴ……と動き、カールの頭を押えつける。
 たまらずカールは息苦しさでその蓋を叩くも、誰も彼も聞いてくれない。

 それどころか、
「カール。いいかい? 絶対に……絶対に声を出してはいけないよ? 全てが終わって(・・・・・・・)、静かになるまで、ジッと息を殺しているんだ───いいね?」

 そういって農具を手にし悲壮な表情を浮かべる精悍な男性……。

 今思えば彼らは誰だったのだろうか?
 父と母? それとも、村の誰か───?

 あの時のショックのせいか、面影すら思い出せない……。
 だけど、彼らが最後に言った言葉だけは鮮明に覚えている──────。


「「カール」」
「「私たちのカール」」


 その言葉を、
 鮮明に───……。

  「困ったこと、つらいこと───そして、」
  「……助けが欲しい時には、『お星様』に祈るんだよ。いいね?」

 ゴリゴリ、
 ゴゴゴゴゴゴ…………!

 地下の蓋が閉ざされる瞬間、最後の光がまるで一番星のように輝いていた───……。

 ───ゴォン……!

 そして、二人の言葉を最後に、地下室の蓋は閉じられカールの意識と視界は闇に閉ざされる。

 あとはもう、外でどれだけおぞましい音が響いても、
 彼等に言われた通り、カールはジッと膝を抱えて一言もしゃべらなかった。

 ……例え、むせかえるような血と肉の焼ける匂いが地下室を覆いつくしても、ジッと動かず、話さず、息を殺して、ただひたすらに耐えた───…………待った。

 すべてが終わるその瞬間を───。


 そして、


※ 10年後─── ※



   「殲滅してやる……!」


 地下室で見た最後の光のごとく、
 ダンジョンの空に一番星が輝いたとき、あの時の光景を思い出したカール。

 そう。
 ダンジョンの空に誓うカールには、幼少の頃より秘めたる思いがあった。

 カールの願いは、

 人々を苦しめる魔王を討ち、
 世界に平和をもたらすこと───。

 それは、誰もが夢想する英雄の物語そのものだ。
 しかし、それが無理なことは、カールが10才のとき、すでに分かってしまっていた。

 村が滅ぼされて数日後……。

 救助隊に発見されたカールは天涯孤独の身になった。
 そのかわりに孤児院に引き取られることになったのだが、孤児院で再判定してもらって判明したスキルが【通信】という、『念話』や『通信魔道具』の代わりにしかならないゴミスキル(・・・・・)だったのだ。

 その時以来、胸に魔物に対する憎しみを秘めたまま、カールはただひたすらに自分を鍛えて生きて来た。
 魔王を討つ勇者になれずとも、勇者を支援する冒険者になら慣れると信じて……。


 それから、10年の月日がたち───。


 念願の冒険者になっていたカール。
 今、カールは勇者と呼ばれる存在に最も近い、Sランクパーティ『雷の弾丸(ブリッツクーゲル)』のサポーターとして活動していた。

 そして、本日のクエストはといえば、
 ギルドから科せられた超難関クエストに挑んでいる最中であった。

 その名も、【勇者】クエスト───。

 伝説の英雄【勇者】の称号を得るためのクエストで、
 その条件として挙げられる、『伝説の装備』を入手という高難易度の任務に挑んでいたのだ。

 ちなみに、その伝説の装備は世界各地に安置されており、現在は難易度SSクラスのダンジョン『悪鬼の牙城』にトライ中だ。
 というのも、ここにはその伝説装備の一つ『聖剣』があるといわれているのだ。

 そして、そのダンジョンの中庭に差し掛かった時、空にキラリ! と、光る一番星を見つけたカールがボソリと、ちょっとカッコつけてつぶやいたものだから───さぁ大変。


「あ゛ぁ゛!? おいおい、カールぅぅ? 『殲滅してやる』だぁ?……なぁにカッコつけて悦に入ってんだよ、カスが!」

 ごんッ! と背後から殴られ、カールは思わずしゃがみ込む。
「いっづ……!」

 下手人は長剣を携えた吊り目のの青年だ。

「ぷっ……! だっさ~い! 『殲滅してやる』キリッ……ぶぷぷ! 言われた直後に仲間にツッコまれてちゃ(さま)になんなんわよ!」

 そして、イアンに釣られるようにカールを揶揄するのは、パーティの紅一点、エミリーだ。

「まったく、ただのサポーターの雑用係が一丁前にモンスター退治の夢でも見てるんですか?……世も末ですね」
 厭味ったらしく言うのは、パーティ一の遠距離大火力の大賢者(グランセイジ)、グルジア。

「っていうかよぉ、イアン。そんな雑魚、おちょくってる場合じゃないぞ? ここまで来りゃいいんじゃないのか?」

 クイっと顎でシャクり、なにやら意味深に合図を送るのは、パーティ一の重装備肉壁担当───バラム。

「……あぁ、そうだな。そろそろ頃合いだな」

 バラムに促されそう呟いたのは、
 我らがSランクパーティ『雷の弾丸(ブリッツクーゲル)』のリーダーで、さきほどカールをぶん殴った青年、イアン・バナッシだ。

 彼は、仲間たちに軽く頷づき返すと、カールの背後に回し腕を締め上げる。

 ギリリリリ!!
「い、いだだだ! な、何すんだイアン?! こ、頃合い(・・・)って? え? ちょ───……」

 意味が分からなかったカールは顔中に「?」マークを浮かべてイアンを見つめる。

 しかし、
「……よーし! じゃあ、そろそろ始めるか、……おい」
 コクリ。
「え? な、なんだよ?!」

 イアンが頷くと、それを合図に、カールの周囲をグルリと取り囲む仲間たち。

「へへ。待ってました~!」
「あー。まじめな顔してるの疲れたー。途中で何度も吹き出しそうになっちゃった。ウププププ!!」

 そういってニヤニヤ、ニチャニチャと笑いながら武器を手にカールの退路を断ったのは、
 やはりグルジアとエミリーだ。

 ちなみにエミリーは露出の高い服をきているけど、こーみえて回復担当の女神官(プリースト)だったりする。

「え? ぐ……グルジア? エミリー?! ど、どういうこと?!」

 事前に打ち合わせをしていたのか彼らの動きには全くの迷いがない。
 拘束されているカールに疑問すらもっていないようだ。

「い、痛い! イアン、放してよ?! な、なんなんだよ? 急にどうしたの? これから『悪鬼の牙城』をクリアするんだろ?」

 急に不穏な空気になったことを敏感に感じ取ったカールはジリっと後退できる態勢をとるも身動き一つとれない。
 それどころか、ついには前後左右全てを4人の仲間たちに囲まれてしまった。

「い、イアン……?」

 状況が分からず、不安な顔でリーダーのイアンに確認しようと窺うも、イアンはじつに朗らかな顔で笑う。

「あぁ、もちろん攻略するぞ? そのための準備なんだ、これは───。で、さぁ。……カールよぉ、お前、先日Lv上がったよな?……これで100レベル達成だろ? おめでとう、おめでとう! おーめでとう!」

 ぱちぱちぱち

「え? あ、うん………………え?」

 突然、Lvが上がったことを褒められるカールであったが、意味が分からず間抜けにも礼を言ってしまう。
 だが、急に何なんだ……??
 レベルが上がったのは昨日今日の話じゃないぞ?

「いやー……。じっさいお前みたいな雑魚のLvを挙げるのも一苦労だったぜ。だけど、お前が馬鹿で助かったよ。ここまで、騙して連れ出すのは結構苦労したんだぜ?」

 …………いや、

「な、何の……はなし、だ? だ、騙す??」

 イアンは同じ故郷出身の裕福な青年だ。
 あの日、村が魔物に滅ぼされた時、彼はたまたま町に買い出し付き合っていたおかげで難を逃れたという。

 そんなこともあって……。
 同じ村出身者同士ということもあって気心は知れている中のはずだった───……のだか。

「ぶはっっ! おい、イアン。コイツ、まだ(・・)何にもわかってないぜ?!」

 バラムが耐えきれないとばかりに身体を曲げて大笑い。

「はは! 本当にカスですね、こいつは───。カススキル持ちで万年Cランクなだけはありますよ」
「そ~そ~。ほんっと、鈍いわね~。いい加減自分で気づくと思ったんだけど、やっぱ馬鹿は最後まで馬鹿ねー」

 ゲラゲラ、ケラケラとおかしげに笑うグルジアとエミリー。
 一方、カールは混乱の極致にあった。

「ちょ?! え? え? え?」

「……まぁだ理解できないか? お前──────……。なぁんでCランクの屑のくせに、俺たちSランクパーティに居られると思ってんだよ? マジで馬鹿か?」

 呆れたようにせせら笑うイアン。

「そ、それは……イアンと俺は同じ村で───……仲が」
 仲が……。
 あれ? 仲、よかったっけ───?

「おいおいおい! お~~~~い?? バカ言うなよ! 俺は生まれがあの村ってだけで、貧乏人のお前とはろくに口もきいたことなかったじゃないか? まさか、そんなことで俺にシンパシー感じちゃってたのか? おい、マジか、お前?!」

「な、なぁ。イアン? ちょ、ちょっと……。な、何の話か見えないんだけど?」

 カールはいまだに理解できない。
 ついさっきまで背中を預けて、仲間を思いやりながらダンジョンを攻略しようとしていたばかりだというのに……。

「あ゛?!…………ほんと、まだわかんねぇのか? お前がLv100になるまで面倒見てやってさ、わざわざこのダンジョンに来た、この意味を?」

 え?

「い、意味? そんな急に、意味って言われたって……。俺のスキル、【通信】をあてにしてるんだろ? 遠距離通信は便利だって言ってじゃないか?!」

 そう言ったところで、

「「「「ぎゃーははははははは!」」」」
 途端に馬鹿笑いするイアン達。

 明らかに侮蔑の混じったそれは、

「ご、ゴミスキルが何言ってんだよ?!」
「ほんっと、自分が役になってるとか思ってたんですか~?」
「ぶぷ、ぷぷぷ~……! い、いま時、遠距離会話難んて道具で十分よ。それに、アタシも、グルジアも、そっち系の魔法使えるしー」

 全員が懐から、通信魔道具を軽く振る。
 確かにあれ(・・)があれば近~中距離なら連絡可能だ。

「なになに? お前が特別な気がしちゃってる勘違い君だったのか? ばっかで~」

「「「「ぶはははははははははは!」」」」

「ほんっと、お前は馬鹿だよ。俺はよぉ、伝説の武器───『聖剣』を手に入れるため、ずっとこの機会を待っていたんだ。お前みたいなお人好しの間抜けを仲間にしてレベリングしたのも今日のこの日のため」

「ど、どういう……意味だ? 仲間にしてくれたのは、昔馴染みだからじゃ───」
「なわけねーだろ? お前をLv100にして連れてきてのはよ、ここのボスが100レベル以上の冒険者じゃなきゃ釣られ(・・・)てくれないんだよ」

「…………は?」

「は? じゃねーよ。バーーーーーカ。つまりよー、お前を囮にするって意味だよ。ここのボスを外に誘い出して、その隙に伝説の武器を回収する。それが筋書きさ」

 悪鬼の牙城のボス『オーガロード』は、数多の冒険者を食らってきた無敵の魔物で、いまだ討伐事例はない───。
 そんな魔物に挑むくらいだからイアンには何か秘策があるのだと思っていたけど……?

 え?………………カールを囮にするのが、秘策?!

「そ、そんな……!」
「……わっかんねー奴だな。ふさわしくねーんだよ、俺たちのパーティにお前みたいなカススキル持ちの雑魚はよぉ!」

 カススキルの雑魚……。

 たしかに、
 リーダーのイアンは、その中でも特に有用な攻撃スキルの『電撃』を扱う最強の男。それに比べれば【通信】なんでカスだろうさ……。

 だけど───。

「そんな理由で、俺を囮にするってのか?!」
「そーさ? それくらいがお前みたいなカスの存在価値だろ?」

 こ、コイツ……!
 だが、すでにカール以外のメンバーは承知しているのかニヤニヤと笑うばかり。退路を断ち、逃がさないつもりなのだ。

「……ほんっと鈍いよなぁ、お前? 昔からそうだったけど、ここまで来ればこれも才能だな───なぁ、みんな知ってるか?」

 鈍い、鈍いとカールを小ばかにしたイアンは、包囲を崩さないまま、カールの背中をバシバシと叩き言った。

「こいつよぉ、昔、魔物に家族を殺されて以来、ずっ~~~と言ってやがるのよ───」

「お、なになに?」
「へへ、聞かせろよ」
「面白そうじゃないですか!」

 ニヤニヤと笑うイアンは、カール以外に仲間に向けて楽し気な雰囲気を秘めたまま言う。

「───くくく、コイツのガキの頃からの夢はよぉ……うくくく! 【通信】のスキルしかないくせに、なんとまぁ、魔王を倒すんだってよーーー!!」

 ───ぶはっ!!

「「「「ぎゃはははははははははははは!」」」」

 途端に笑い転げるパーティ。
 それを見て、唇を噛んで俯くカール。

「ぶひゃははははは! つ、つ、【通信】でどーやって魔王を倒すんだよ! ぶひゃひゃひゃ!」
「『もしもしー、魔王さんですかー? チン()でくちゃい~。もちもちぃ~?』って、感じで通信するんじゃな~い? うふふふふ!」
「ぎゃははははは! そりゃいい! 無言通信とかよー、毎日しまくったら魔王も心労で倒せるかもなー! ぎゃーははははは!」

 散々にカールのスキルを馬鹿にして大笑いする仲間たち。
 イアンはそれを見て、不敵に笑っているだけ───……。

 今思えば、イアンはいつもこんな調子だった。

 天涯孤独となったカールであったが、近傍都市の孤児院でイアンに出会ったのだ。
 もちろん彼は孤児ではなく───……孤児院に出資する側の裕福な家族の御曹司として。

 村唯一の生存者であるカールを見て、貧乏人と蔑んできたものだ。

(そんな奴でも、パーティに入れてくれたから…………信じていたのに!)

「イアンてめぇぇええええええええ!!」
「イアン『さん』だろうがよ、クソ雑魚カスがぁぁぁああ!」


 ザクッ!!


 いッッ……?!

「───ぐぁあああああああああああああああ!!」

 激高して掴みかかったカールの足を貫くイアン。
 その激痛に膝まづくカールが絶叫をあげた。

「おーおー、いい声で鳴くぅ♪」
「ひゃははははは! これでボスが動き出しますよー。まぁ、もう少し細工しましょうか」

 そういうと、風魔法を起こしてカールの血が巻き上がるように調整するグルジア。

「あ、じゃあ、アタシは縛っとくねー。あ、痛くても我慢してね、カールぅ」

 ギリリリリと、わざわざ切られた足をキツク縛り上げるエミリー。
 その激痛に再び叫ぶ。

「うがぁぁあああああ! お、お前らぁぁああ!」

 ごんッ!!

 その鼻っ面に重厚なタワーシールドを叩きつけるバラム。

「うるっせぇ! 俺たちが離れてから叫びやがれ───」

 さらに腹にもう一発!

「ぐふ……。おぇぇぇえ」

「ったく、見苦しいぜ。最後の最後くらい役に立てよ───貧乏人のクソ雑魚が」

 ペッ! と唾を吐きかけ悠々と去っていくイアン。
 最後にニヤリと笑うといった。

「あ、そうそう。安心しろよ」
「な、なにを……?!」
 
 今日一番のいい笑顔をしたイアンは自信たっぷりに言う。

「───お前の尊い犠牲で手に入れた『聖剣』でよ、俺は見事に【勇者】の称号を手に入れてやるぜ?」
「い、イアン! おまっ」

 そんでもってよぉ……!

「──ちゃ~~~~~~んと、いつか(・・・)は魔王も倒してやるから安心して死ねよ。じゃーなー♪」

 ぎゃははははははははははははは!

 大笑いして去っていくイアン。
 その後に続き、好き勝手に言い残して去っていく仲間たち。

「ではでは~。次に会うときは、オーガ色のウ〇コになってますかね? ぶひゃひゃひゃ!」
 汚く笑う大賢者グルジア。

「アタシさぁ、アンタのこと嫌いじゃないよ? 可愛い顔してるしぃ。だけど、ね。なんかほらぁ、孤児とか雑魚スキル持ちってなんか臭いじゃん。あ~臭い臭い。じゃーね、アタシらの出世の肥やしさ~ん」

 言いたいことだけ言って去っていくくそビッチの女神官エミリー。

「よ。そんじゃまぁ──盛大に叫んでくれよ、囮ちゃん!」

 グッサァァァアアアア!!


   「──────ッッ?!?!」


 最後にクソ野郎の重騎士バラムが、棘だらけの棍棒を振り上げると、思いっきりカールの足に突き刺した。
 その痛み──────……!!



「ぎ、」
 ぎぃやぁっぁあああああああああああああああああああああああああ!!




 その瞬間、
 ダンジョン中にカールの絶叫が響き渡った。すると、

 ───ズズン……!

 小揺るぎする牙城。
 どうやら、ダンジョンのボス、『オーガロード』がLv100を超えた()の存在に勘づいたらしい。


「う、うぐわぁぁ……」

 い、いッてぇぇ……。畜生ぉぉぉおお!

「い、イアン、てめぇ……」

 痛くて痛くて、
 悔しくて悔しくて……。

 あんな奴を信用してついていった自分の愚かさに腹が立って──────。


「ははっ! あ~~~ばよ~~~~~~~♪」


 ……なにより、
 あっさりと人を見捨てて平然としているあのクソ野郎に本気で腹が立ってぇぇっぇ……。

 イアン。
 ……イアン。
 ────イアン……!



「──イぃぃぃっぃぃぃーーーーーーーーアーーーーーーーーーーーン!!」


 びりびり……!

 ダンジョン中に響かんばかりの絶叫。

 ボスに勘づかれようが知ったことかとばかりにカールは叫んだ。
 ……逃げていくアイツの背中に突き刺すように叫んだ!

 そうとも、言葉だけで串刺しにしたやるとばかりに……叫んだッッ!!


「イアン、イアン……イアンっっ!」

 今度……。
 今度───

 もしも、今度見かけたら絶対に、ぶっ殺してやるっ! と心に決めて…………!!


 ───イアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああン!!

「畜生ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおッ」



 もっとも、
 そんな機会は永遠に訪れそうにない……。

 危険度SSクラスのダンジョンに放置され、
 走り去っていくイアン達の背中を見ながらカールは慟哭した……。



〇第2話シナリオ

 
 ズシン、ズシンズシン……!

 牙城そのものがぶっ壊れそうなくらいの振動が鳴り響く。
 さらに足音に被せるようにして、

『グルァァァァッァアアアアアアアアアアアアアアアアア!』

 ビリビリビリッッ!!

 カールの絶叫など兎の鳴き声程度に霞ませるほど、すさまじく凶悪な咆哮を上げるモンスターがいる。

「う……く。お、オーガロード……!」

 ズンズンズン!…………ズゥン!!

 くそ!
 畜生!!

 あいつらぁぁあ!!

 イアン達は、どうやらよほど手際よく誘い込んだのだろう。
 ほとんど迷う様子もなく、オーガロードの足音が迫りくる!

「やられてたまるか! こんなとこでやられるもんかッ!」

 幸いにも雑用係のカールは結構な物持ちだ。
 もちろん、その荷物はほとんどが消耗品ばかりで高価なものは持ち合わせていないが、手持ちの荷物の中には回復アイテムもある。

 それを使って、なんとか応急処置を済ませたが、イアンとグルジアに負わされた傷では立って歩くことすらままならない。這って進むのがせいぜいといった程度。

 当然だ……それを狙っての切り傷だ。
 ポーションくらいで完治すれば世話はない。

「く、なんとか動けるけど───いってぇ……!」

 せめてどこかに身を隠せれば何とかなったかもしれないが、
 イアン達はそれすら見越して、このだだっ広い牙城の中庭を『餌場』と決めていたようだ。

 隠れる場所もなければ、
 這って進んでも、中庭の出口が気が遠くなるほど遠い───。

「あいつら、マジでクソだな!!」

 ……バカだった。
 あんな奴を、あんな連中を信用したカールが愚かだったのだ。

 今思えば、パーティにいた頃からロクな扱いを受けていなかったのに、同じ村の出身ということで心を許していた自分が恨めしい。

 ほんと理不尽なことだらけだ……。

 給料はピンハネされるし、
 大荷物をもつのはカールただ一人。

 しかも、宿だって安い部屋しか割り当ててもらえないし、
 ……そもそも、
「アイツら、いっつも俺を馬鹿にしていやがった……」

 本当は知っていた。
 気づいてもいた……。

 心の底では、イアンがカールを嫌っており、(さげす)んでいたことを。
 ……夜、彼等が仲間内で酒を飲むときは、絶対にカールは呼ばれなかったし、
 恥ずかしいけど、こっそり様子を窺った酒宴の席はカールの悪口で溢れていた。

 悔しかったよ……。

 でも、
 ……それでも、最後の最後まで信用してしまった。
 まさか、同じ冒険者同士、こんな非道なことをする奴だなんて信じられなかったからだ──────!

   「カール。俺が勇者になって魔王を倒してやるぜ」

 そういって、勧誘してくれたイアンを思い出した。
 だけど、アイツは魔王はおろか、
 オーガロードにすら戦おうとせず、あまつさえ仲間を囮にして目的を達成しようとするような奴だった!

『グルゥゥゥゥゥゥゥウ……』

 ふしゅー。
 ふしゅー。

 後悔に苛まれていると、白い湯気を吐きながら巨大なオーガが奥からのそりと出現する。
 中庭の先から姿をみせたソイツの顔の凶悪なこと……!

(ううう!! あ、あれ、がオーガロード───……?!)

 現時点の冒険者たちでは、討伐不可能とすら言われた最強最悪の魔物。
 Sランクが束になっても敵わないと言われているくらいだ。

『グルル………………グルゥ?』
 やばい目と目が合った……!

 こ、このままじゃ……。

『ゴルルゥ♪』
 ベロりとした嘗めずりするオーガロード。Lv100超えのカール。餌には十分だとみなしたらしいけど───……。

「い、いやだ……。いやだ……!」

 し、死にたくない!
 死にたくない!!

 ズシンッ! ズシン……!

 この振動、
  この悪寒、
   この恐怖───……。

「あ、ああああああ……!!」

 フラッシュバックするのは、10年前の光景───。
 誰かに庇われて、助けられたあの地下室だ……。

 その外で鳴り響く、肉を引き裂き、骨をかみ砕き、血を啜る醜悪な音──────……!

 い、嫌だ!!
「いやだぁぁぁああああああああ!!」

 全力で否定するカール。

 諦めも、達観もない!
 ただただ、怖い……食われたくない! だいたい、なんで俺が食われなきゃならないんだ!!

「ち、」
 畜生ぉぉぉっぁっぁああああああああああ!

 助けて……!
 誰か助けて──────!

(……ッ! そ、そうだ!!)
「───す、ステータスオープン!」

 ブゥン!

 カールは起死回生をねらい、ステータス画面を呼び出す。
 そして、迷わずスキルを起動!

 ※ ※ ※

レ ベ ル:100
名   前:カール・オルドビス

固有スキル:【通信】Lv2

● 能力値

体 力: 312
筋 力: 201
防御力: 123
魔 力:  45
敏 捷: 288
抵抗力:  75

残ステータスポイント「+8」

スロット1:剣技Lv2
スロット2:解体Lv1
スロット3:通信Lv2
スロット4:運搬Lv3

● 称号「電話屋」
⇒ 通信魔道具や念話を使いまくる電話好き。

 ≪恩恵≫通信時の音声が少しクリアになる

 ※ ※ ※

「こ、これだ……!!」


スキル【通信】Lv2 ← ピコン♪

能力:SPを使用し、離れた相手と通信が可能。
   あらゆる言語および技術体系に対し通信ができる。


 ステータス画面に触れ、
 ピコ~ン♪ と、通信のスキルを選択すると、

 軽やかな音共に、小ウィンドウが展開される。

 ※ ※ ※

スキル【通信】Lv2

 ↓ ピコン♪

 ●拡張機能:固定通信ポイントの追加

  〇通信ポイント1【雷の弾丸】
  〇通信ポイント2【冒険者ギルド辺境支部】


 ……あった!!

 イアンの野郎が、定時連絡のために無理やり入れてさせたギルド支部───!

「あったぞ……畜生!!」

 ざまぁみろ!!
(俺の【通信】をバカにしやがって……! ギルドを登録したことを忘れてやがったな、馬鹿め!)

「──見てろよ、イアン! 目にもの見せてやる……! お前らの悪事をばらしてやるからな!」

 ブゥン……!

 ステータス画面を再び呼び出すと、

 迷わずギルド支部を呼び出す。
(届くか……? 頼むぞ……!)

 恐ろしく長大な距離をつなぐことができる【通信】スキルにも欠点は多い。
 扉やちょっとした壁程度ならともかく、山や丘、巨大な建造物などの障害物が間に入るとたちまち通信が不可能になるのだ。

 ……その代わり、通信可能距離にあるものであれば、
 【念話】や『通信魔道具』を問わず「全てに通信が可能」という、ちょっと飛び抜けた性能を持ったスキル。

 ──しかも、スキルレベルが上がれば通信相手の固定(・・・・・・・)が設定可能という便利機能付き!

(……大丈夫。フィールド型ダンジョンで良かった。ここなら障害物が多いが、多分……つながるはず───!)

 ザザザ───ザッ!

「頼む……! 頼む───……!」

 ザザ、ザーーーーーーー……!

「頼む───」

 ザ───ビュィン♪

 しばらく、呼び出すようなリードタイムが空いたかと思うと、
 ついにステータス画面が呼び出しに応じた!

 なんと、小ウィンドウに一人の女性が映し出されたのだ。

『あら? 通信魔道具が反応───珍しいわ、ね……って、カールさん?!』

 そこに顔を出したのは眼鏡の美人。
 たしか、辺境のギルドの受付嬢だ。今回のダンジョントライに際して、拠点としたギルドの職員に違いない。

「ッ! あああ! や、やった!!」

 通信成功に思わず小躍りするカール。
 すぐそこまでオーガロードが迫っているのに、救われた気分だ。

『ど、どうしたんですか? 酷いケガをしているようですけど……』
「き、緊急事態です! お願いです───助けて」

『え? き、緊急事態? ほ、他の人はどうしたんですか? イアンさんや、エミリーさん……。それに、今は悪鬼の牙城のはずじゃ───』

「そうです!! 今まさにそこにいます───ですが、イアンに……イアン達に裏切られたんです!」

 救助と同時に、必死でイアンの裏切りを訴えるカール。
 間に合わなかったとしても、せめてイアン達の悪事だけでも訴えておかなければ死んでも死にきれない───。

『えええ?! い、イアンさんが? そ、そんなバカな? と、とにかく落ち着いてください! すぐに救援をさし向けますから、まずは一体なにが───あ、ちょ』

 通信の向こうで、ガタガタ! と音がする。

 おいおい!
 落ち着いていられるか!!

 今すぐ救援が必要なんだよ! オーガロードに追われて数秒も余裕はねぇんだよぉぉおお!!

『(……ま、マスター?! な、なんですか? ちょっと、やめ……!)』
『(どけ、ごら!)』

「な、なにやってるんですか? 受付さん?! ちょ、ちょっと! 聞いているんですか?! ちょっとぉぉお!」

 通信魔道具の不調?!
 いや……それはないか。ギルドの通信魔道具は大型で簡単に壊れるような代物ではない。

 そう思っていた矢先、ぬぅ、っと姿を見せたのは美人受付嬢に代わり、ガチムチのハゲ男。

『おい、お前───カールだろ? 『雷の弾丸(ブリッツクーゲル)』に寄生している』
「は、はぁ?」

 開口一番「寄生」とは……あんまりな言葉!
 いや、待て。コイツは確か───……。

「あ、アンタは、辺境支部のギルドマスター?! ちょ、ちょうどよかった!! 聞いてくれッ!」

 いや、でも、これはこれでありがたい。
 ギルドマスターが相手なら、これほどイアンの悪事を訴えるのに適した人はいない。

 イアンの悪事を聞き届け、
 きっとカールこの後が死んだとしても、必ず奴を罰してくれるに違いない───!

『……ちッ、困るなぁ。スキルを悪用しての誹謗中傷は、よ。……お前のことはイアン氏からよ~く聞いているぜ。なんでも、陰でイアン達を脅して寄生しているとんでもない悪人だとな───』



「…………………………は?」



 か、陰で脅して……寄生?
 イアンをカールがぁ??

「あ、アンタ、何を訳の分からないことを……!」

 カールは一瞬───痛む足のことも、オーガロードに追われていることも忘れて、呆然とする。
 それほど、ギルドマスターの口から出た言葉は衝撃的であった。

『ふん!……大方、普段もこうしてスキルを悪用して、遠方にイアン達の悪評をバラまいているんだろう? そうだな───イアン氏の言う通りだったな。……仮にお前から連絡があってもまともに相手をするなと聞かされていたんだよ! というわけで、残念だが、お前の目論見はバレているんだ。わかったら二度と連絡してくるなよ。いいな!』

「ちょ?! なに言ってん───」

 イアンが何か言う前に無理やり通信が閉ざされる。

『(ま、マスター! なに言ってんですか。救援要請を無視するなんて───)』
『黙れ! 余計なことをしないで通常業務に戻れ! いいな!』

 通信の向こうでさっきの受付嬢の声がする。
 だが、それを最後にギルド側の通信も一方的に切られてしまった。

『二度と連絡するなよ! このカススキルの脅迫野郎が』
「───な?!」


    ブツン───……。


「お、おい?!」

 どうやら向こうで魔力の供給を切ったらしく、
 何度呼び出しても、今度は全く応答がなくなってしまった。

「おい、アンタ?! おぉぉい!! ふざけんなよっ! おい!! ハゲぇぇぇえ!!」

 そこから先は何度【通信】を試みても応答なし───。

「おい! おい!! おおおおおおおおおい!!………………畜生ぉぉぉぉおおおおお!!」

 くそ!!
 くそ!!
 くそぉぉお!! あのハゲぇぇえ!!

 ガンガンガン!!

 ステータス画面五指にぶん殴る!!
 ぶん殴る!!

 ───ブゥン……。

 ●拡張機能:固定通信ポイント

  〇通信ポイント1【雷の弾丸】
  〇通信ポイント2【冒険者ギルド辺境支部】←削除!!

 バァン! と勢いよくステータス画面を殴りつけるようにして、忌々しいギルドの通信欄を削除する。

「死ね! 腐れハゲが!」

 ───くそぉぉおお!!

 心の中にあったのは「ふざけんなよ!」と言った気持ちだ。
 それもこれも、ぜーーーーーんぶ、

「イアンーーーーーーーーーーーーーー!! クソやろぉぉぉぉおおおおおお!」

 そして、先回りして手を打っていたイアンに対する怒り───……!
 アイツは是が非でも、カールをオーガロードの餌にするつもりなのだ!

 今頃はダンジョンの奥に向かっているに違いないが……。
 そうはさせるかッ!!

「ぜ、絶対に許せねぇ……!」

 おそらく、イアンは相当前から準備していたのだろう。
 そして、カールがギルドに連絡することも予期していた……。

 だけどよぉ、
「───まだだ……! まだ終わんねぇよ!! イアンッ!」
『グルァァァアアアアアアア!』

 オーガロードに捕捉されたのか、かなりの近距離から咆哮が響く。

 だが、
「やかましいッ! 今それどころじゃねぇぇえ!」

 イアンをぶん殴る勢いでカールは叫ぶ!

 まだ、残ってるんんだよ……。
 そうとも、まだ一発ぶん殴れる余地はある!!
 ……忘れると思うなよ、イアン達への【通信】直通ポイント!!


「────逃がすものか、イアン!!」
 俺のスキル…………舐めんなよッ!


 スキル!
 【通信】起動──────……!!

 ブゥン……!

 ※ ※ ※

 ●拡張機能:固定通信ポイント

  〇通信ポイント1【雷の弾丸】←ピコン♪
  〇通信ポイント2【なし】

 ●通信ポイント固定候補
 ⇒冒険者ギルド辺境支部(候補消滅まで09:35)

 ※ ※ ※

 ……ザザザッ、ビュィン♪

 ステータス画面に小ウインドウが現れ、砂嵐が奔る。

『……ん? なんだ? 通信魔道具が反応して───』

 そこにほどなくして、あのくそ野郎の顔が……!
 あの、腐れSランクのリーダーイアン・バナッシの顔が映ったッ!!


 すぅぅぅ……。
「イアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!」


〇第3話シナリオ

 
「イアぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁあああああンン!!」

 ───ビリビリビリビリビリ!!!

 ダンジョン中に響き渡る声。
 はたから見れば、ステータス画面に怒鳴りつけるやべー奴だ。

『……うぉ?! び、びっくりしたーーーー?! な、なんだ、なんだぁ?!』

 ステータス画面に表示された小ウィンドウの先で、イアンの野郎がキョロキョロしていやがる。
 どうやら、カールが通信をかけてくるとは思っていなかったらしい。

 あまりの剣幕に、
 オーガロードも驚いた顔をしているくらいだ。
 ……ちなみに、さっきからガン無視している状態だが知ったことか!

 ───今は、イアンのくそ野郎に恨み節をぶつけるときだ!!

「イアン! イアン! イアーーーーーン! てめぇぇえええ!!」

 画面越しに奴を鷲掴み。
 ステータス画面にがなり立てるカールであったが、イアンの奴はようやく気付いた。

『テメェって?……お、おぉー! お前かカール。まだ生きてたのか? なかなか、しぶといなぁ。はッはぁ♪』
「うるッせぇ、この野郎! ぶっ殺してやるから戻ってこい!! この卑怯者ぉぉお!!」

『はぁぁ~? 誰が戻るか、バーカ! はは♪ それにしても、怒り心頭って面だな───……。で、どうすんだ? まさか本当に、そのカススキルの【通信】で俺に勝てるとでも?…………やってみろよ、ぎゃは~はははは!』

 うるッせぇぇえ!

「あぁ、そっちがそのつもりなら好きにしやがれ!……このあとギルドに連絡して、お前の悪事を全部ぶちまけてやるぁぁあ!」

 もちろん、ハッタリだ。
 イアンがビビってくれれば儲けものだが……。

『おーおーやれやれ! やってみろ。無駄だろうがなー、ぐひゃははは!……それより朗報だぜぇ。みろよ、お前のおかげで無事に『聖剣』GETだぜぇ♪』
 ステータス画面越しに入手したばかりの大剣をこれ見よがしに自慢するイアン。
 あれのせいで殺されるのだ。朗報もクソもあるか!! 

『ま、これで、お前も心置きなくオーガロードのウ〇コになれるなぁ。……気が向いたらクソの横に線香でも立てに行ってやるからよ~♪』

「ざけんな、ボケッ!!」

『ハハ! 威勢がいいねー。でもよぉ、俺のことなんかより、後ろのお友達のこと───気にしたほうがいいんじゃないのか? んじゃぁな~♪』

 ぶつッ!!

「あ、待ちやがれ!! クソ野郎イアン!!」

 あの野郎……一方的に切りやがった!!

「クソ! さっさと出ろッ!」
 ───バァン!!

 怒りのまま、何度もイアン達の固定番号を叩き続ける!

 ※ ※ ※

●拡張機能:固定通信相手追加

〇通信ポイント1【雷の弾丸】← ピコンッ
〇通信ポイント2【な し】

 ※ ※ ※

「おい! おぉい! イアン!!」

 ───イアン、イアン、イアン!!

(……アイツ。通信魔道具を壊しやがったな!)

 それっきり反応しなくなったステータス画面。
 おそらく、カールが固定指定した通信魔道具を物理的に破壊したのだろう。

 いくら通信ポイントを設定していても、元の通信機が破壊されてるんじゃどうしようもない。

 だけど、まだ機会はある。
 パーティの魔法使いたち──グルジアやエミリーあたりは【念話】の魔法も使えるので、場所さえわかれば……!

「───って、こんな広いダンジョンで探せるかよ! 位置が分からないと繋げられねぇよ!!」

 【通信】とて、万能ではない。
 居場所が分かって、そこからSPを使って、スキルを起動し、リソースに割り込むのだ。

 …………もちろん、360度、四六時中空も後ろもスキルを飛ばせば、理論上は繋がることもあるだろう。
 だがそれは、霧の中で弓矢を当てるようなもの。

「……くそ! くそ!! あの野郎ッ。あの野郎ッ! 勝手に切ってんじゃねぇよ!」 

〇通信ポイント1【雷の弾丸】← ピコンッ ピコッ!
〇通信ポイント2【な し】


「あの野郎!! あの野郎ぅぅう!!」


〇通信ポイント1【雷の弾丸】← ピコッ……ピコンッ、ピコンッ!
〇通信ポイント2【な し】

「イアンのクソボ……ケ───?」

 ───ぽた……ぽた……。

 空に向かって咆哮するカールであったが、
「ぶぁッ?! な、なんだ?! あ、雨??」

 何の前触れもなしに、雨のようなものが顔にかかり、思わず空を仰ぐと───。




「…………あ」




 ふしゅー……!
 ふしゅー……!

 それは雨にあらず。
 それは見下ろしていたオーガロードの涎で……!

『グルルルルルル……』
「ひぃ!」

 ……それに気づいてしまって、数秒。
 恐る恐る振り返ったがカールがもう遅い……!

『──グルァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
 ──そ、そりゃ、こーなるわなぁ!?

 ビリビリビリビリビリ! と空気が震えるほどの戦咆哮(ウォークライ)
 悠長にスキル使ってる場合じゃねーわなぁぁああ!!

「うわぁぁっぁあああ!!」
 あまりの恐怖に、ズルゥ! と腰を抜かしたカール。
 そこに、奴の振りかぶった腕がカールに(かす)る!

 ───ゴキィィイイ!!

「ぎゃあああ!!!」
 たったそれだけで、ボキボキボキと全身の骨が悲鳴を上げる。
 だが、不幸中の幸い、腰を抜かしたおかげでクリーンヒットだけは避けられた。

『──ゴルァッァアアアアアア!』

 避けんじゃねぇ! とばかりに吠え、オーガロードは怒り心頭だ!
 ズシン、ズシン……と、
 頭から丸かじりしてやるとばかりにカールに迫る!

「うぐぐ……来るな──お、おお、俺なんて食っても旨くないぞ! イアン達の方がもっと高Lvだぞ……!!」

『───ゴァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
「って、聞く耳持つわけなーわな!」

 畜生!……どうせ食うなら、イアン達にしろよ!

「……あ、アイツラのために、やられてたまるかぁぁ!」

 カールの必死の抵抗。無様に這って逃げつつも反撃開始!
 武器を振り回し、生活魔法や下級魔法を放つ。
 どれもこれも、パーティに何かの役に立つと思って覚えたのに───。


  「聞いたぜ? お前のあの村の出身なんだって? 俺と同じだな」
  「へー。【通信】か、変わったスキルだな」

(イアン……)

  「はは。ゴミスキルなんていう連中のことは気にするなよ。
   ……【通信】便利じゃねぇかよ」

(エミリー、グルジア、バラム……!)

 脳裏に蘇るイアン達の言葉の数々。
 だが、今となってはそれらが全てわざとらしく思える。

   「───ふさわしくねーんだよ、」

  イアン、
   イアン、
    イアン!!

   「──俺達にお前みたいなカススキル持ちの雑魚はよ」

 …………………………ブチッ!

「それが、人様を囮にする言い訳か、あのくそ野郎!!───お前だけは絶対に許さねぇぇええ!」

 うがぁぁぁあ!
 ───ブンっ!!

 半ばヤケクソ、カールは荷物から短剣を引き抜くと、オーガに向かって思いっきり投擲。
 たまたまそれが目に掠ったのか、奴が小さくのけ反らせることに成功!

『……ぐるぁ?!』
「今だ!!」

 その瞬間を逃さず、痛む体に鞭を打って、
 残るポーションをがぶ飲みしながらカールは駆けだす!

「…………はぁ、はぁ、死ぬもんか! 死ぬもんか! 死んでたまるか──────イアンの……あんな奴ら(・・・・・)の出世の肥やしになるために、あの村で一人生き残ったんじゃない!!」

 何としても生き抜いてやると、固く決意したカール。

 逃げれば数秒だけでも時間が稼げる。
 ……数秒あれば、きっとどこかに【通信】を繋げる!!

 そして、事の一部始終を報告してやるのだ。
 それでイアン達を断罪してやる!! 何でもかんでもうまくいくと思うなよ!!

 運が良ければ近くで活動中の冒険者パーティに繋がるかもしれない!

 どこでもいい、
 誰でもいい!!

 イアンどものような、クソどもでなければどこでも───……!

「ステータスオープン!」

 ブゥン……!!

 スキル【通信】起動……──────!!


 ※ ※ ※

スキル【通信】Lv2
※能力:SPを使用し、離れた相手と通信が可能。
    あらゆる言語および技術体系に対し通信ができる。

●拡張機能:固定通信相手追加

 〇通信ポイント1【雷の弾丸】
 〇通信ポイント2【な し】

 ※ ※ ※


 カールは注げるだけのSPを注いでスキルを起動した。

「メーデー、メーデー! 頼む! こちら、元『雷の弾丸(ブリッツクーゲル)』のカール・オルドビス! 現在『悪鬼の牙城』の奥で遭難中!! 頼む! 誰か」

 誰か……!
 ……誰かッ!!

 メーデー!
 メーデー!

「誰でもいい、聞いてくれ! この通信が、届いてくれ……!」

 届け……!
 ……誰かに届け!!

 メーデー!
 メーデー!!

「誰かぁぁぁ! 応答してくれ」
 ───頼む!!


 メーデー!!
 メーデー!!


「……助けてくれ!! いや、もう誰でもいい、聞いてくれ!!」

 辺境の町ギルド支部を削除し、『固定の通信ポイント』のひとつ空になった今、
 通信可能な距離(・・・・・・・)にいるものに、対してなら通信が届くはず…………。

 誰でもいいから─────────……。

『───ゴルァァァッァァアアアアアアアアア!!』

 スキルを起動した瞬間、
 カールにも大きな隙ができた。

 それはホンの僅かな好きであったが、SSクラスのモンスターであるオーガロードが見逃すはずがなかった!

 ───ズンズンズン!!

 ステータス画面を割るように、真正面から突っ込んできたオーガロードが巨体に似合わないスピードでカールを補足する!

(し、しまっ───!)

 ……ぐしゃ!!「げふぁぁッ?!」

 ミシ……!
 ミシミシ───……!

 何とか逃げ回っていたカールであったが、ついにオーガロードに捕らえられる。

「がふっ……!」

 その巨体に見合った巨大な腕がカールを捕まえ、ひと思いに握りつぶすッ!

「う、ぐ……。がはっ!」

 全身の骨が軋む。
 パタタッ……! と、血の華が咲く───。

 べき、バキバキ!

 すさまじい力で握りしめられ、
 ついに内臓が破損し、「カハぁッ……」と、声もなく黒い血を吐くカール。

 もう、ろくに息もできない……。

「は、放せ……ご、ごふぅ……!」

 言葉を発するだけで肺が押しつぶされていく。
 溢れる血に溺れそうになる。

 く、そ……。
(……こ、ここまでか──────)

 失血と窒息により、意識がもうろうとする。

(く、悔しいなぁ……)

 ぼんやりとした頭の中、
 見上げた空には星がキラキラと輝いていた───。


(こんな、とこで───。たった一人で死ぬなんて……)

『ゴルルルゥゥゥウ……!』

 ゆっくりとオーガロードの大口に放り込まれようとするカール。
 ガパァ! と開いた口が地獄の入口のようだった。

 あの大口に噛みつかれれば一口で上半身が消え、
 二口目にはこの世からカールの痕跡はすべて消えるだろう。

 せめてもの救いは、おそらく一撃で即死だ。

 ……だけど、
「畜、生…………ぐぁぁ、げふ」

(イアン達の出世の肥やしのために死ぬのなんて、……絶対にゴメンだってのに!)

 せめて、戦って死にたい。

 自分のために……。
 いや、いっそ、10年前のあの村で皆と一緒に───……。


  「カール」
  「カール……」


 メリメリと自分の骨のきしむ音に、
 再びフラッシュバック───。

 ───10年前のあの日……。

 すべてを失ったカールに残された、誰かの言葉…………。
 ……地下室に隠されるカールに向かって、


  「「カール」」


  「困ったこと、つらいこと───
   そして、助けが欲しい時には『お星様』に祈るんだよ。いいね?」



「……は、はは、」


 い、祈る───……?
 『お星様(・・・)』に??


「あははは……」
 何を馬鹿なことを思い出しているんだろう。


  困ったこと。
  つらいこと───。

 そして、

  助けが欲しい時………………。

「ふざけろ、よ」

 ……………………それは、まさに今。

「そうさ、今……だーっつーの。カハっ……!」

 血を吐いたカールは空を見上げる。
 おそらく、この世最後の光景──────……空に瞬く満天の星───。


   ……助けが欲しい時には、
   『お星様』に祈るんだよ。
   ────────いいね?」


 ……わかってるよ。
 ……わかってるっつ---の!

「だから、」

 お、『お星様』よぉ……。



 ──た、
「たす、けて……くれ」


 祈ってるぞ?
 困ってるぞ?
 つらくて死にそうだ。


 ……助けが欲しい──────?


「欲しいに決まってんだろ……!」

 ……なぁ。
 だからさ、
 祈るからさ───……。

 困ってるからさぁぁあ!

 今すぐ……
 今すぐ──────!

「今すぐ助けてくれよ……!」

 頼む、助けて───。

「誰か、
 誰か───………。
 た…………………助けて」


    「げふッ……」


 ついに意識を失いかけるカール。
 ガキの頃に聞いたくだらないおまじないを信じて、『お星様』に手を伸ばし、祈る。

 【通信】は起動したままで、ステータス画面はオープン。
 ……そして注ぐSPは最大。【通信】スキルは最大出力───……。



 その祈り、「助けて」というカールの【通信】は…………届く。



   「助けて」


 ………………───ピっ!




 地表から約百キロメートル。
 ……大気圏に達し、


 そして、さらに。


   「助けて!」


  ………………───ピッ!



 地表から数百キロメートル。
 ……外気圏にまで達し、



 そして、その先に───さらにさらに、



   「助けて!!」

  
   ピッ──────……。




 地表から約数千キロメートル(・・・・・・・・・)
 宇宙空間(・・・・)低軌道上にまで(・・・・・・・)───。




     「……助けて」



 ピ─────────…………!!






  …………ビュィン♪


   『───DISTRESS(SOS:救難) SIGNAL(信号)......受信』


   ……届いた。


 ブゥン……。

 ※ ※ ※

●拡張機能:固定通信相手追加

 〇通信ポイント1【雷の弾丸】
 〇通信ポイント2【なし】

●通信ポイント固定候補
 ⇒冒険者ギルド辺境支部(候補消滅まで04:21)

 チカッ♪ チカッ♪

 ⇒軍事衛星No.335(・・・・・・・・・・)(候補消滅まで09:59)(NEW!)


 ※ ※ ※




  そう───────────……届いた(・・・)のだ。






〇今後の展開
 宇宙艦隊を再起動し、通話可能な人物としてそのまま、継承することになる。
 地上におけるありとあらゆる勢力を超えて最強となった主人公は、まずは復讐を果たし、そして、こんな世界になった理由を宇宙艦隊の『装備達』と解き明かしていくことになる。
 その謎を担っていたのは、魔族と呼ばれるかつて人類に敵対していた宇宙生物なのであるが……。