追放されたチート付与師の辺境農園スローライフ ~僕だけ農作物を成長促進できる付与魔法が使えるようなので、不毛の地に農園を作ろうと思います~

 モンスター浄化作戦の準備をはじめて数日が経った。

 ララノやブリジット、それに動物たちの協力もあって畑区画の拡張と畝作りは順調に進んでいる。

 ブリジットが範囲確証の合わせ付与をかけた鍬を使って土を耕し、ララノが肥料を撒いて土作りをして僕が畝を作る。

 そして、手先が器用な小動物たちが種や苗を植えて、他の動物たちが水を撒いていく……という流れだ。

 この数日で、すでに畑区画は以前の倍の広さになり、畝の数も百を越えている。

 すべての畝に魔法を付与して育成促進しているので、昨日植えたものも収穫できるくらいに育っている。

 作る野菜は、動物が食べてくれそうなもので、比較的長持ちするものをチョイスした。

 ニンジンにキャベツ。それにダイコン。

 これらは付与魔法をかけなくても長くて五日ほど持つ。ただし、保存環境が良ければの話なので、持って二、三日と考えていいだろう。

 そんなこんなで野菜作りは順調に進んでいる──のだけれど、野菜を日持ちさせる方法についてはあまり進展がない。

 ブリジットの協力のもと、浄化野菜のポーション化を試しているのだけれど失敗続きだった。

 例えば「コケクイムシの卵」と山菜の「ブルーワール」、「サーベルウルフの爪」を混ぜて作る「治療薬」に野菜を混ぜてみたけれど浄化効果は見られなかった。

 他には僕の付与魔法と似た、スタミナを向上させる「持久力ポーション」と混ぜてみたけれど、こっちも効果は出ず。

「サタ先輩、こういうものがあるのだがどうだろう」

 自宅の二階、錬金術の研究室に使っている部屋。

 ブリジットがとある錬金術にまつわる書物を見せてくれた。

「……免疫強化?」
「そうだ。病の進行を遅らせる高級ポーションなのだが、野菜にこれをかければ腐敗を遅らせることができるんじゃないだろうか?」
「なるほど、逆転の発想か」

 野菜をポーションにして長持ちさせるのではなく、野菜にポーションをかけて長持ちさせる。

 確かに良いアイデアかもしれない。

「でも、高級ポーションってことは素材も高級じゃないの?」
「いくつか王都から取り寄せる必要があるのだが、手に入らないものではない。まぁ、多少値が張るがな」
「費用はパルメ様が出してくれるから気にしなくていいと思うけど、高級ってことは希少な素材ってことだよね?」
「そうでもないぞ? 『ヤドアリクイの目』と『吸血鬼の肝』、『エンシェントドラゴンの目』あたりは確かに希少だが、王都では結構出回っている」
「うん、語感からして一品物レベルの激レアな雰囲気」

 というか、エンシェントドラゴンってなんだ?

 ドラゴンなんて名前、創作物の中でしか聞いたことがないけど。

「それに、仮に王都の錬金ギルドに在庫があったとしても、素材を取り寄せるだけで一ヶ月以上はかかっちゃうから、ちょっと厳しいかもしれないね」
「……そうか、期限まであと半月程度しかないのだったな」

 ううむ、と眉根を寄せるブリジット。

 ついに期限までの折り返し地点を過ぎてしまった。

 時間が無い以上、出来ることも限られてくる。

 多分、ここ数日が正念場。

 ここで何も見つからなければ──文字通り終わってしまう。

 他に何か参考にできる書物はないかと積み上がった本の山に戻ったとき、静かに部屋の扉が開いた。

 現れたのは、農作業着姿のララノ。

 午後から皆で畑の収穫をする予定なのだ。

「お疲れさまです。ちょっと休憩でお昼ご飯にしませんか?」
「ゴメン、ララノ。こっちの見通しが立つまで、お昼は軽食で済ませたいんだよね」
「はい。そう仰ると思って、用意してきましたよ」
「……え? ほんとに?」

 ちょっと有能すぎませんか、ララノさん。

 驚く僕を横目に、ララノは一階からお皿を運んでくる。

「……ん? これは何だ?」

 ブリジットが運ばれてきた乳白色のクリーム状のものが入った器を手に取った。

「見たことがないが、調味料なのか?」
「それは先日、サタ様がお作りになったマヨネーズという調味料ですよ」
「つ、作った!?」

 ギョッとして僕を見るブリジット。

「凄いな! サタ先輩は調味料も作れるのか! しかも、美食家の私が知らない未知の調味料を発明するなんて!」
「いやまぁ、発明っていうか思いつきで作ったっていうか」

 平たく言えば、前世の記憶を元に作っただけだけどね。

 息抜きで曖昧な記憶を頼りに作ってみたけど、ちゃんとマヨネーズになった。

 作り方は至って簡単だ。

 卵の黄身と穀物酢、それに塩を適量入れてかき混ぜて、さらに亜麻の種から作られているアマニ油を入れて完成。

 レモン汁を入れてもいいけれど、そこはお好みで。

 少々粘りっけが強いけれど、味はマヨネーズそのものだった。

 出来上がったマヨネーズをララノに見せたところ、「これで料理を作らせてください!」と興奮してしたっけ。

「私もはじめて見る調味料だったのですが、このマヨネーズというものを使って色々と試してみたんです」

 ララノが机の上に並べてくれたのは、片手で食べられそうな料理の数々だった。

 野菜スティックに、燻製チーズ。

 先日ラングレさんの自宅で食べたサンドイッチもある。

 パンはまだ自宅では作れないので、街で買ってきたのかな? 

 パンの間に農園で作った野菜とマヨネーズが見えている。

 早速、サンドイッチを食べてみる。

 農園で作った野菜特有の甘さとマヨネーズの酸味とコクが合わさって、とても美味しい。

「……おお、はじめて食べるがこれは美味いな」

 どうやらブリジットもマヨネーズが気に入ったようだ。

「このチーズにもよく合う」
「その燻製チーズはプッチさんから頂いたものですけど、マヨネーズとすごく合いますよね」
「うむ。これは食が進むな。燻製の煙臭さが軽減するし、酒のつまみにも使えそうだ。ああそうだ、確か地下の貯蔵庫にまだホエールワインが──」
「……ああっ!」

 とあることに気がついた僕は、反射的に叫んでしまった。

「ど、どうした、サタ先輩?」
「それだよ、ブリジット!」
「それ? ワインならちゃんと先輩の分も持ってくるから──」
「いや、そっちじゃなくて」
「ん? 違うのか?」

 首をかしげるブリジットだったが、ハッと何かに気づいて笑みを浮かべる。

「ははぁ、解ったぞ。美味そうに燻製チーズを食べる私を見てキュンとしてしまったのだな。そういう所に惹かれる男は多いというからな。ふふ、サタ先輩がそういうタイプだったとは知らなかった。意外な一面を垣間見た気がして嬉しいぞ」
「全っ然違うし、勝手に早口で盛り上がらないでくれる?」

 ドヤ顔で明後日の方向に勘違いするんじゃない。

 見てみろ。変な勘違いをするからララノが顔を真っ赤にしてプルプル震えてるじゃないか。

「僕が言ってるのは、ブリジットが食べてるそれだよ」

 僕はブリジットが手にしている燻製チーズを指差す。

「燻製チーズのことか? これがどうした?」
「野菜を燻製にするんだよ。そうすれば日持ちしない野菜でも、長期間の保存が可能になるかもしれない」
 燻製は現代では「風味を出したり独特の食感を楽しむためのもの」として定着しているけれど、元々は食材を長持ちさせるために考案された技術だ。

 アルミターナにおける燻製も、後者の意味合いで広く普及している。

 燻製づくりは生前に何度かやったことがある。

 いくつかある手法のうち、僕がやったのはポピュラーかつ初心者向けの「温燻」という手法だったけれど、保存性を高めるにはこの温燻がベストらしい。

 やり方は至って簡単。

 スモークウッドという木材を細かく粉砕して固形化させたものに火を付けて、出てくる煙で食材を数時間燻すだけ。

 熱で燻す「熱燻」よりも少々時間はかかるけれど、比較的高温の煙で長時間燻すために水分が飛び殺菌もされるために食材が長持ちするらしい。

「燻製は良いアイデアかもしれませんね」

 ララノが嬉しそうに手を叩いた。

「でも、野菜って燻製に出来るんですか?」
「問題なく出来るよ。前にネギとニンジンを燻製にしてオリーブオイルで和えたことがあるんだけど、凄く美味しかった」
「なんだそれは。聞いただけでよだれが出てしまいそうだ」

 食いついてきたのは健啖家ブリジット。

 その口の端には光るものが見えている。

 この食いしん坊め。

「じゃあ、試しにやってみようか。動物たちに協力してもらってもいいかな? 彼らが食べてくれたらモンスターも問題なく口にするだろうし」
「わかりました。では早速、彼らを呼んで準備しますね!」
「私も手伝うぞ!」

 というわけで手分けをして燻製の準備を始めることにした。

 燻製をやる上で一番大切なのが食材の下準備だ。

 ブリジットに家の前で燻製に使う焚き火の準備をしてもらっている間に、野菜の下処理を始める。

 使う野菜はニンジンとタマネギ。

 タマネギは今回の浄化作戦には使わないけれど、美味しそうなので一緒に燻製にすることにした。

 野菜を手頃な大きさにカットして、まずは塩漬けにする。

 風味を楽しむためだけだったら必要ない工程だけれど、長期保存するなら絶対必要になる。後で水につけて塩抜きをするのを忘れずに。

 本当なら一日か二日かけて塩に漬けるんだけれど、塩に俊敏力強化の付与魔法をかければ短時間で塩漬けに出来る。

 本当に付与魔法って便利だ。

 次にやるのが食材の加熱だ。フライパンで軽く火を通せば問題ない。

 そして最後は風乾。

 風乾は一時間ほど外気にさらして乾かす作業のことだ。

 この風乾が一番大切で、これ次第で味がひどく落ちたりする。

 手際よく一通り食材の下準備を終えたところで、燻製作業スタート。

 食材を持って表に出ると、焚き火の周りに動物たちも集まっていた。

 現代みたいに「燻製器」がないこの世界では、小屋を燻製器代わりにするんだけれど、用意がないので焚き火で代用する。

 これがうまく行ったら動物たちにお願いして専用の小屋を建ててもらおう。

 焚き火の薪を少なくして煙を多く出すように調整してから野菜を鉄串に刺して焚き火の周りに並べる。

 手始めなのでニンジンとタマネギを三つづつ。

 さっくりと並べ終わったタイミングでブリジットが尋ねてきた。

「燻す時間はどれくらいなのだ?」
「大体二時間くらいかな」
「では、収穫が終わるくらいで完成だな」
「そうだね。今のうちに収穫を終わらせておこう」
「これは畑作業にも力が入るな!」

 おいしい燻製にありつけると思ったのか、いつもに増してやる気まんまんのブリジットさん。

 気合入れてくれるのはありがたいけど、力を入れすぎて野菜をダメにしないでね?

 というわけで、ララノとブリジットの三人で畑へと向かう。

 作付けは一通り終わっているので、今日やるのは間引きと芽かき、それに水やりと付与魔法かけ。最後に収穫だ。

 力仕事は少ないけれど、相応の時間はかかる。

 一通り作業が終わったころには、少しだけ陽が傾いてきていた。

 収穫した野菜を地下の貯蔵庫に運んでから、焚き火に戻る。

「……おお! これはちゃんと出来てるんじゃないか、サタ先輩!?」
「わぁ! いい感じですね!」

 焚き火の周りに並べた野菜に、綺麗な色がついていた。

 見た目からして凄く美味しそうだ。

 丁度夕食の時間だったのでここで取ってしまおうという話になり、ララノが家からワインとパンを持ってきてくれた。

「では、さっそく……」

 いい感じでパリパリになっているタマネギを食べる。

 ブリジットとララノはニンジンを手に取った。

「……んむ?」

 ガブリと頬張ってみたけれど、妙な味がした。

 いや、これは味というより、匂いか?

「……ん〜、やっぱりちょっと臭いですね」
「うむ。まさに燻製だな」

 ララノとブリジットも同じ感想のようだ。

 たまに食べている他の燻製と同じく、かなり煙臭い。

 試しに隣に居たキツネにニンジンを差し出してみたけれど、キュイッと鳴いて逃げられてしまった。

 多少想定はしていたけれど、単品では食べられたものじゃないな。

 これはもうひと工夫必要だ。

「ララノ、ちょっと動物たちにお願いしたいことがあるんだけど」
「なんでしょう? 燻製小屋の建築ですか?」
「あ、それも後でお願いしたいんだけど、その前に、山からクルミの木かリンゴの木を採ってきてもらえないかな?」
「……リンゴの木?」

 そんなもの何に使うんだろうと言いたげに、ララノは首をかしげた。

+++

 はじめての燻製制作に失敗した翌日──。

 僕たちは昨日と同じく自宅前に集まっていた。

 ひとつだけ昨日と違うのは、焚き火で使えるように小さく割ったとある木材が用意されていること。

「おお! なるほど! 香りが強いリンゴの木を使って燻すとは考えたなサタ先輩! さすサタ!」
「さすサタって何?」

 煙臭いタマネギの燻製を頬張るブリジットに冷めた視線を送った。

 燻製を成功させるために準備した秘密兵器は、動物たちに山で探してもらった「リンゴの木」だった。

 本当なら、リンゴの木にクルミの木やヒッコリーを混ぜて固形化させた「スモークウッド」を作りたいところなんだけど、どうやって作るのかわからない。

 なので少々強引だけど、直接リンゴの木を使って燻そうと考えたのだ。

「リンゴの木を使えば煙臭さが消えて、風味が増すと思うんだよね」
「へぇ、そうなんですね! そんな使い方があるなんて知らなかった……」

 一緒に焚き火を組み立てているララノが、感心したように言う。

 この世界では燻製に風味なんて求められていないから、誰もやらないんだろうけど、商品にしたら売れるかな?

 リンゴの木で焚き火を組み立てて、早速火を付ける。

 その周りに下準備した野菜を並べて、出来上がるまで農作業。

 作業を終えて、お昼時に再び焚き火の前に集合した。

「……ふむ。見た目も香りも良いな。これは昨日の燻製よりおいしそうだ」

 串を手にとったブリジットが、ごくりと涎を飲み込む。

 あれ? 煙臭いやつでも美味そうに食べてなかったっけ? 

 心の中でツッコミながら、タマネギの串をひとつ取ってガブリとかぶりついた。

「……あっ」
「おいしい!」

 僕に続いて、ニンジンの燻製に口を付けたララノが目を丸くした。

「表面がパリッとしているのに、中はジューシーというか……すごい濃厚ですね」
「そうだね。リンゴの木のお陰で味に深みが出ているのかもしれない」

 これはお世辞抜きに凄くおいしい。

 タマネギの濃い甘みとアクセントの塩気が凄くマッチしているし、表面がパリパリなのに中はジュワっとしていて食感もたまらない。

 隣で物欲しそうにしていた狼にニンジンのローストをあげてみたところ、勢いよくガッツイてくれた。

「な、なんだこれは!? うますぎないか、サタ先輩っ!?」 

 こっちの健啖家も大騒ぎだった。

 ブリジットは両手にタマネギとニンジンの串を持って、交互にかぶりついている。ご令嬢なんだからもう少し行儀よく食べたほうが良いと思う。

「これは大成功ですね、サタ様」
「そうだね。リンゴの木を使った燻製ならいけそうだ。早速量産に入ろう。動物たちに燻製小屋の建築と、追加のリンゴの木を持って来てくれるように頼めるかな?」
「はい、もちろんできます……けど」

 ララノが心配そうに眉根を寄せる。

「ここのところ、ずっと働き詰めているので今日くらいはゆっくりしませんか? 野菜づくりは予定通り進んでいますし、残っている作業は収穫ぐらいなので動物たちに任せられます。頑張りすぎは良くないですよ?」
「……あ」

 言われてハッと気づく。

 パルメ様に浄化作戦への協力を依頼されてから、寝る間も惜しんで作業や研究に没頭していた。

 ホエール地方に住む人たちのためとはいえ、生前のブラック企業に勤めていたとき並みに働いている。

 あきらかにスローライフとは程遠い生活だ。

「……またやっちゃったか」
「ふふ、ですね。でも、それがサタ様の良いところでもあるんですけど」

 ララノにつられて、僕も笑ってしまった。

「ララノが言う通り今日はのんびりしようか。燻製の制作は明日からスタートだ。期限までスパートをかけないといけないから、エネルギーの補充といこう」
「よし、それではワインでも飲みながら、この燻製を楽しもうではないか!」
「あ、それ、良い考えですね」

 嬉しそうに手を叩くララノ。

 やるときはしっかりやって、休むときもしっかり休む。

 それがスローライフのルール。

 というわけで、まだお昼だけれど貯蔵庫からホエールワインを持ってきた僕たちは、燻製野菜を片手に乾杯をすることにした。
 部屋の窓から外を見ると、一面がラベンダー畑のように紫色に輝いていた。

 夜の間に降りた瘴気と朝日の共演──。

 僅かな時間だけ見られる、幻想的な世界だ。

 瘴気は人々に害為す存在で、一刻も早く世界からなくなればいいと思っているけれど、この光景だけはいつまでも見ていたいと思う。

 王都の実家にいる妹も、これを見たら喜ぶに違いない。

「……なんて思うのは不謹慎だよなぁ」

 う〜んと背伸びをしたあとで、窓から何も植えられていないまっさらの畑を眺めた。

 畑に何もないのは、全ての燻製野菜の納品が完了したからだ。

 燻製が詰まった樽を載せて最終便の荷馬車がパルメザンへと出発したのは昨日。

 運んだ樽の数はおおよそ三十ほど。

 昨日送り出したのはそれくらいの数だったけど、五日前と十日前に農園を出発した一便と二便の分を合わせると、百樽ほどになっていると思う。

 改めて凄い数を作ったもんだ。

 燻製作りに成功してからすぐに量産体制に入ったけれど、本当に大変だった。

 燻製小屋の建築と同時進行で燻製を作りつつ、さらに収穫と作付け、それに間引きや芽かき、追肥などなどの畑作業をやる。

 第一便が出発する前日にプッチさんが数人の冒険者を連れて手伝いに来てくれたけど、あれがなかったらちょっとやばかったかもしれない。

 ちなみにプッチさんにリンゴの木で作った燻製を食べさせたところ、「これは商品になりますよっ!」と大興奮だった。

 真っ先に「おいしい」じゃなくて「お金になる」と言っちゃうところが実にプッチさんらしい。

 などと考えていると、グゥと腹が鳴った。

「……適当に朝ごはんを食べるか」

 部屋を出て一階に降り、燻製の下処理が終わっている羊肉とチーズ、それにホエールワインを持って外に出た。

 一応、家を出るときに耳を澄ませてみたけれど、二階から物音はしなかった。

 ララノとブリジットはまだ寝ているようだ。

 怒涛の燻製づくりが終わって疲労困憊だろうし、今日はゆっくりさせておこう。

「というのは建前で、ひとりで羊肉の燻製を楽しみたかっただけなんだけどね」

 みんなと一緒に居るのは楽しいけれど、ひとりになる時間も大切だ。

 家の外でくつろいでいた動物たちに挨拶をして、家の裏の鶏舎で卵をいくつか拝借してから燻製小屋に向かう。

 畑区画の奥にある物置小屋のような小さな建物が燻製小屋だ。

 人がひとり入れるかどうかというくらいのサイズだけれど、この大きさで燻製が大量生産できるのだから凄い。

 小さなドアが付いている小屋の中は、一番下に石で囲われた囲炉裏みたいなものがあって、ここにスモークウッドを置けるようになっている。

 その上には網を引っ掛ける出っ張りがいくつかあって、小さな食材はここ置いて、大きい食材は天井にあるフックに吊るす。

 なんとも機能性が高い燻製小屋だろう。

 イメージはララノを通じて動物たちに伝えたけれど、一流の大工さんが作ったと思ってしまうレベルで完成度が高い。

 羊肉と卵を一番下の網に置き、チーズは上の網に。

 温燻は熱燻よりも温度が低いとはいえ、下の網にチーズを置いてしまうと溶けてしまうので上に置くと良いのだ。

 それから、リンゴの木を使った薪に火を付けて囲炉裏部分に置く。

 ドアを閉めてしばらく待っていると、屋根の上にある小さな穴からモクモクと煙が出はじめた。

 これで一時間くらい待てば燻製の完成だ。

 それまで小屋の前に設置してあるハンモックに体を預け、ワインをちびちび飲みながらのんびりと本を読むことにした。

 雲ひとつない空の下で、風の音を聞きながらゆったりとした時間を過ごす。

 ここ最近は燻製づくりに追われていたからか、こうしてのんびりできる時間がすごく贅沢に思える。

「……でも、トリトンが来たらまた引きこもり生活になりそうだな」

 この世界の台風、トリトン。

 例年通りだったらそろそろトリトンがやってくる時期だとプッチさんは言っていた。

 トリトンが来れば大海瘴の危機も去ることになるけれど、その間は農作業ができなくなるのが痛い。

 プッチさんに頼んで物資を溜め込んでおいたほうがよさそうだな。

 いや、近々ラングレさんのブドウ園にも行かないといけないし、その時に街で食材を買っておこうか。

 こうして燻製ができるようになって保存性も高まったわけだし、豚肉や羊肉も大量に買っていいかもしれない。

 などとぼんやり考えていたら、いつの間にかうたた寝していたらしい。

「おはようございます、サタ様」

 ──というララノの声でハッと目が覚めた。

「……あ、おはようララノ」
「あっ、ごめんなさい。お休み中だとは知らず」
「いやいや、大丈夫。燻製を作ってて完成までのんびりしてただけだから」
「あ、やっぱりそうなんですね。部屋の窓からいい香りが流れてきたので、釣られて来ちゃいました」

 ララノが少し恥ずかしそうに笑う。

 どうやら燻製の香りで起こしてしまったらしい。

 ひとりでこっそり楽しみたかったんだけど、まぁ仕方ない。

「出来上がったら一緒に食べようか」
「良いんですか? やった!」

 嬉しそうに尻尾を踊らせるララノ。

 切り株を使った椅子を二つ用意して、とりあえずワインで乾杯することにした。

「浄化作戦、成功するといいですね」

 ワインを飲みながら、しみじみとララノが言う。

「いやいや何を言ってるの。絶対成功するから」
「……ふふ、そうですね。サタ様が作った燻製ですもんね」
「皆で一緒に作った燻製、ね」

 ララノやブリジットが居なかったら期限通りに野菜を納品することはできなかった。

 これは僕ひとりの手柄じゃない。

「でも、燻製野菜を使えば瘴気被害が未然に防げるようになるかもしれないな。そうなったらホエール地方から瘴気がなくなるだろうし……ララノとの約束もすぐに果たせるかもしれないね」
「……っ」

 ハッとしたようにララノが僕を見た。

 大海瘴の混乱で行方不明になっているララノの家族。

 彼らが戻ってこられるようにホエール地方から瘴気を無くすとララノに約束した。この調子だと、夢の実現までそう遠くはなさそうだ。

「……覚えていてくださったんですね」
「そりゃあ約束したからね。ご両親が戻ってきたら紹介してくれないかな?」
「もちろんです。でも、私のお父さんを見たらビックリすると思いますよ?」
「え、どうして?」

 巨大な熊だったんです……とかいうオチはやめてね?

「お父さんはサタ様に似て華奢な見た目なんですけど、『豪腕』の加護を持っているのですごい強いんです」
「華奢なのに力持ち……何ていうか、ギャップが凄いね?」

 まるで付与魔法を使った僕みたいだな。

「そうなんです。でも、そこが良いっていうか」

 ララノがクスクスとくすぐったそうに笑う。

「お母さんと結婚する前は冒険者をやっていたみたいで、依頼で南の砂漠の国に行ったときはカトブレパスをひとりで討伐したらしいんですよ」
「ほんとに? 凄すぎないそれ?」

 カトブレパスって、確かすっごく危険なモンスターだよね。

 黒い水牛のモンスターで、視線を交差させてしまうと死んでしまうとかいう噂を聞いたことがある。

 獣人は身体能力が高い種族とはいえ、そんな恐ろしいモンスターをひとりで討伐するなんて強いどころの話じゃないな。

 ララノのお父さんが農園にいてくれたら、傭兵団が攻めてきても撃退できそうだ。

「それは是非うちの農園にスカウトしないとね」
「はい。きっと喜んで受けてくれると思いますよ」

 ララノの家族だけじゃなくて、他の獣人たちも来てもらおうかな。

 集落の広さがどれくらいだったのかはわからないけれど、この農地も相当広いし、住んでもらうには問題はないはず。

 それに、獣人たちが来てくれればその分畑を拡張できるし、出荷できる野菜の量も増える。

 うん、良いこと尽くめだ。

「……ん?」

 などと話していると、家の方からトコトコと狼がやってきているのが見えた。

 ララノの隣にちょこんと座り、何やら話しはじめる。

「どうしたの?」
「サタ様にお客様のようです」
「……お客? 僕に?」

 一体誰だろう?

 プッチさんは出発したばかりだし、農園に来る人なんて誰もいないはずだけど。

「燻製が出来上がるまでまだ時間がかかりそうだから、一旦家に戻ろうか」
「そうですね」

 そうして僕は、ララノと一緒に家に戻ることにしたのだけれど──自宅で僕を待っていたのは意外すぎる訪問者だった。
 家の前に一台の馬車が停まっているのが見えた。

 パルメザンとの行き来に使ってる乗合馬車とは違う、運び屋ギルドで使っているような荷物を乗せる荷馬車タイプ。

 いくつも木箱や樽が載せられているけれど、もしかしてプッチさんだろうか。

 でも、先日物資を運んできてくれたばっかりだからな。

 不思議に思いながらリビングに行くと、よく知った小柄な少女の姿があった。

「……あれ? やっぱりプッチさんだ」
「あっ、サタさん!」

 ソファーに腰掛けてブリジットと話していたのはプッチさんだった。

 でも、なんで彼女がここに?

 と、首を傾げていた僕の目に、もうひとりのお客さんの姿が映った。

 プッチさんの隣に座っている、実に無骨そうな男性。

 シックなブリオーを着ているところを見ると、商人ではなく高い身分の人のようだ。

 とりあえずプッチさんに事情を尋ねてみる。

「一体どうしたんですか? 昨日出発したばっかりですけど」
「実はパルメザンに向かう途中でこちらの方とばったり会いまして、サタさんの農園までの道案内的なことを」
「……道案内?」

 不思議に思っていると、隣の男性が音もなく立ち上がり、深々と頭を下げた。

「お初にお目にかかりますサタ様。私はパルメ子爵様の使いで参りました、ドノヴァンと申します」
「え? 領主様の?」
「はい。こちらの信書と表の荷をサタ様にお届けに上がりました」

 そういってドノヴァンと名乗った男性は、僕に手紙を手渡してきた。

 領主印で封蝋された手紙には、先日僕が送った燻製に対する感謝の言葉と浄化作業の進捗について書かれていた。

 一週間前に納品した第一便の燻製野菜を使ってホエール各地でモンスターの浄化作戦は進められていて、概ね良い知らせが上がってきているという。

 中でもホエール地方の北部にあるキロットでは瘴気の苗床になっているモンスターが多数確認され、総勢百人での浄化作戦が実行されたらしい。

 浄化作業中にモンスターによって負傷した冒険者は出たものの、全てのモンスターの浄化に成功し、被害は未然に防がれたようだ。

「先輩たちが来る前に話を聞いていたのだが、浄化作業は順調のようだぞ」

 ブリジットが補足するように言う。

 どうやらブリジットもドノヴァンさんたちから話を聞いたみたいだ。

「みたいだね。これだけ成果が出ているのを見ると大成功と見て良いかも」
「良かった……」

 安堵したような声を上げたのはララノだ。

 いやいや、だから成功するって言ったじゃない。

 ──とは思ったものの、実際にパルメ様の手紙を読んでホッとしている僕もいる。ようやく肩の荷が降りた感じだ。

 そんな僕を見て、ドノヴァンさんが続ける。

「このまま浄化作業が進めば、例年通りトリトンの到来を迎えられると子爵様もおっしゃっております。全てサタ様のおかげです。子爵様に代わって改めてお礼を申し上げます」
「いえいえ、僕たちは少しだけお手伝いをしただけですよ。全部パルメ子爵様の手腕によるものです」

 冒険者ギルドをはじめ、各所の調整をやったのはパルメ様だ。

 僕はただの末端の作業員にすぎない。

「…………」

 パルメ様を最大限称える言葉を口にしたつもりだったけど、ドノヴァンさんの表情は晴れやかとはいいづらいものだった。

「……ここからは、子爵様の使者としてではなく私個人の意見として受け取っていただきたいのですが」

 恐々としていると、そう前置きをしてドノヴァンさんが口を開いた。

「実は私はキロット出身でして、以前から街の瘴気被害については家の者から報告を受けておりました。先日パルメザンと同じように高濃度の瘴気に襲われた際も、壊滅的な被害を受けたと聞きました」
「……そうだったんですね」

 そう言えば、パルメザンが瘴気に襲われた同じタイミングでキロットも瘴気に襲われたってパルメ様が言ってたっけ。

「キロットの統治を子爵様より拝命している私の父は『キロットが瘴気に沈むのであれば、街と運命を共にする』と言っていました。サタ様がいらっしゃらなければ街の住人と父の命は瘴気によって奪われていたでしょう。私にとって、サタ様は故郷と家族を救ってくださった恩人です。心より感謝を申し上げます」

 そうしてドノヴァンさんが、再び頭を下げた。

 彼の無骨な雰囲気がそうさせているのか、リビングに重い空気が立ち込める。

「……頭を上げてください、ドノヴァンさん」

 しばしの沈黙ののち、そう切り出した。

「僕はそんな凄い人間じゃないですよ。なにせ、付与魔法がなければ空樽のひとつも運ぶことができないんですから。キロットの街とドノヴァンさんのご両親を助けることになったのは、ただの成り行きです」

 でも──そう付け加えて僕は続ける。

「仲間たちと作った燻製野菜のおかげで多くの人の命が救われたのなら、今回の作戦に協力して良かったと思います」

 燻製づくりは楽じゃない作業だった。

 いくつも障害があったし、できればもう二度とやりたくない。

 だけど、実際にあの燻製野菜に助けられたという人たちがいるんだったら、やって良かったと心の底から思える。

 ドノヴァンさんの表情は全く変わらなかったが、彼が放つ無骨な空気が少しだけ和らいだような気がした。

「最後に今回納品いただいた燻製の代金ですが、表の馬車に載せておりますのでご査収ください」
「わかりました。では早速馬車から降ろして確認を──」
「いえ、子爵様からは『馬車ごとサタ様にお渡しするように』と言われておりますので、その必要はございません」
「……へ?」

 目をパチクリと瞬かせてしまった。

「ば、馬車って……え? あの荷馬車ですか?」
「はい。呪われた地での農園経営は何かと物入りだと思いますし、ご自由にお使いください」
「あ、いや……本当ですか?」
「はい」
「あ、ええっと、それはとてもありがたいですけど、ドノヴァンさんはどうやって街に戻るんです?」
「馬を用意しておりますのでお気遣いなく」
「ボクが連れて来た馬を使ってもらうつもりです」

 プッチさんが補足する。

 なるほど。足があるなら心配する必要もないか。

 しかし、荷馬車まで貰えるなんて至れり尽くせりだ。

 パルメザンやラングレさんのブドウ園には頻繁に行っているし、馬車があればすごく助かる。

 それに、水汲みや物資の運搬も楽になるし。

 お金はラングレさんやプッチさんのお陰で潤沢にあるから、正直、こっちの報酬のほうが嬉しいな。

「それでは私はそろそろ失礼します、サタ様」
「ありがとうございました。道中お気をつけて」

 そう声をかけると、ドノヴァンさんは最後にもう一度僕たちに感謝の言葉を送って、馬に乗って颯爽と帰っていった。

 玄関先で小さくなっていくドノヴァンさんを見送る僕たち。

「サタ先輩!」

 馬車が止まっている方からブリジットの声がした。

 ふと馬車を見ると、荷台に彼女の姿があった。

「何かあった?」
「馬車に乗っている謝礼の件だ! とんでもないものが載っているぞ!」

 どうやら一足先に馬車の荷を確認していたらしい。

 でも、何が積まれているんだろう。

 ブリジットの驚きようを見る限り、そうとう凄いものなんだろうけど。

「馬車に載ってる荷物って何なんです?」

 隣のプッチさんに尋ねると、彼女はニヤリと口角を釣り上げた。

「見ればわかりますよ。ムッフッフ」

 どうやらプッチさんは知っているらしい。

 なんだろう。ちょっと怖いんですけど。
「……えっ!?」

 表に停まっている荷馬車に載せられていた十ほどの樽を見た瞬間、驚嘆の声が出てしまった。

 荷台に並べられていた樽全てに、ホエール地方のワイン醸造所の印が入っていたのだ。

 これって確か、ホエールワインを貴族に納品する際に使う特注の樽だったよね。

 ということは──。

「まさかこれ、全部一番煎じのホエールワインなの!?」
「はいっ! サタさん正解っ!」

 プッチさんがシュバッと僕を指差した。

「どう!? すごいでしょ!? 貴族しか飲めない一番煎じのホエールワインが十樽ですよっ!」
「じ、じゅ……っ」

 頭がクラッとしてしまった。

 一番煎じのワインは貴族御用達の高級品で、一般庶民はどうあがいても口にすることはできない。

 来年のブドウ収穫期にラングレさんから貰える約束になっているけれど、そんなふうに原産者から譲ってもらうしか手に入れる方法はないのだ。

 そんなワインが十樽も。

 末端価格がいくらになるのか、恐ろしすぎて計算できない。

「サタ様見てください。こっちの木箱には金貨が……」

 ララノが蓋を開けている木箱には、金貨がずらりと並べられていた。

 ざっと数えて……五百枚くらいかな。

 もはや驚きの声すら出なかった。

 納品した作物に関しては相応の額で買い取ってくれるという話だったけど、これは市場価格の倍……いや三倍くらいはありそうだ。

 想定以上の代金に一番煎じのホエールワインが十樽。

 さらに、この荷馬車。

 なんだろう。ここまで羽振りが良すぎると逆に怖くなってしまう。

 また何か無茶振りされるとか、無いよね?

「多分、子爵様はサタさんのことが気に入ったんですよ」

 プッチさんがニコニコ顔で言う。

「そう……なんですかね?」
「子爵様は美食家ですからねぇ。ご存知の通り、今年のホエールブドウは不作なのでワインの醸造数も少なく、本当なら手放したくないはずなんです」

 でも、パルメ様はこうして十樽も送ってきてくれた。

 なんだか恐縮してしまう。

 それに、街の司祭様や領主様との繋がりが出来たのも恐れ多すぎる。

 別に求めていたわけじゃないし、スローライフに必要のない繋がりだけど。

 しかしと、荷台に並んでいるワイン樽を見て思う。

 途中で盗賊に襲われないとも限らないのに、こんな高価な荷物をドノヴァンさんひとりに運ばせるなんてパルメ様の決断も凄い。

 それだけドノヴァンさんに厚い信頼を向けているってことなんだろうか。

 見た目から強そうだったし、盗賊が集団で襲ってきても軽く返り討ちしそうな雰囲気だった。

 まぁ、僕の農園の場所を調べずに出発したいたのはご愛嬌だけど。

 パルメ様の依頼なんだから、土地区画管理ギルドにでも聞けばすぐに──。

「……ん? ちょっと待てよ?」

 僕の脳裏にひとつの疑問が浮かんだ。

「プッチさんって、パルメザンに向かってる途中でドノヴァンさんに会ったんですよね?」
「……え? あ、はい、そうですね」
「そのとき、ドノヴァンさんはこの農園の場所を本当に知らなかったんですか?」
「そうみたいですね」
「街の土地区画管理ギルドに聞けば一発でわかるのに?」

 この土地はパルメ様から委託され、土地や居住区を管理している「土地区画管理ギルド」から購入したので、彼らに確認すれば場所は正確に分かるはず。

 無関係者ならダメかもしれないけど、パルメ様の依頼ならギルドの職員も快く協力してくれるだろう。

 なのに、その確認すらせずに出発するなんて、ありえるのだろうか。

「……あ〜、ええっと」

 なんだか微妙な顔で言葉を濁すプッチさん。

 その目はわかりやすく泳いでいる。

 それを見て、確信した。

「プッチさんがここに戻って来たのって、ドノヴァンさんから道案内を頼まれたんじゃなくて、彼が一番煎じのホエールワインを大量に運んでいたからじゃないですか?」
「ぎくっ」

 わざとらしく身をすくめるプッチさん。

 やっぱりか。

 荷馬車に満載だった一番煎じのホエールワインを見て、僕にお願いすれば何樽か譲ってもらえるかもしれないかと考えたのだろう。

 醸造数が通年よりも少ない今年は末端価格が跳ね上がっているだろうし、下手をすれば一樽だけで一財産築けるくらいになってるのかもしれない。

 商人の食指が動くには、十分すぎる商品だ。

「ちなみに市場価格っていくらくらいなんです?」
「……え? 市場価格?」
「この一番煎じのホエールワインですよ。不作の影響で高騰してるんですよね?」
「あ、えっと……一樽で金貨五十枚くらい、ですかね?」
「…………」

 日本円に換算すると大体五百万円くらいか。

 交渉次第ではもっと上がるはず。

 うん、べらぼうに高い。

 そりゃ商人の血が騒ぐわけだ。

「全く。どうせいくつか譲ってもらえないか僕と交渉しようと考えていたんでしょうけれど」
「そ、そんなことは……ええっと」
「良いですよ」
「いや、だから別にボクは……って、今なんて言いました?」

 キョトンとするプッチさん。

「プッチさんにいくつかお譲りしますよ。どうせ十樽あっても僕たちだけじゃ飲みきれないですし」
「ほっ……本当ですかっ!?」
「はい。好きなだけ持っていってください」
「うぎゃああああっ! ありがとうございます、サタさん! あなたは神! 神すぎる! 道案内役を申し出てマジよかったぁあああぁ!」

 プッチさんが嬉しそうにピョンピョンと跳ねまくる。

 燻製野菜がちゃんと納品できたのはプッチさんがかけつけてくれた所が大きいし、これくらいはララノたちも許してくれるはず。

 ──と思って荷台のララノたちをみたら、目を丸くしていた。

「……あ、ごめん。良いよね?」

 一応、尋ねてみる。

 ララノは笑顔で頷いてくれたけど、荷台のブリジットは未練たらたらと言った感じで渋々頷いてくれた。

 やばい。勝手に決めちゃまずかったか。

「よし。ひとりにつき一樽を割り振ることにしよう」
「承知した。それで手を打とうではないか」

 即答だった。ブリジットは本当にわかりやすくて助かる。

 ララノも嬉しかったようで、尻尾をぶんぶんと振っていた。

 いやまぁ、やっぱり一番煎じのホエールワインは楽しみだよね。ラングレさんのブドウ園で飲んだけど、あの味は今でも忘れられない。

「よし。プッチさんもいることだし、瘴気浄化作戦成功を祝って、皆でワインパーティでもしようか?」
「ワインでパーティですと!?」

 即座に反応したのはプッチさんだ。

「それは実に良き考えですね! 盛大に祝勝会と行きましょう!」
「いや、祝勝って」

 誰かと戦って勝ったわけじゃないんだけど。

「……まぁいいや。丁度、燻製小屋で羊肉の燻製を作ってるところだから、燻製を食べながらワインを楽しもう」
「ほほう! 燻製か!」

 ブリジットが颯爽と荷台から降りてくる。

「そういえば燻製小屋の方から何やら良い香りがするなと思っていたのだ! 流石はサタ先輩だ! こうなることを見越して先行して燻製を作っていただなんて、おみそれしたぞ!」
「あ、え……そ、そうかな?」

 抜け駆けしてひとりで羊肉の燻製を食べようとしていたなんて言えなくなった。

 ちょっと気まずいから燻製小屋に逃げようっと。

「ええと、ワインと一緒に食べるとなると量が必要だから、もっと作ってくるね」
「あっ! 私も手伝いますよ、サタ様!」

 元気よくララノが手を挙げる。

 それに続いてブリジットがポンと荷馬車を叩いた。

「では私はこの樽を運んでワインの準備をしよう」
「え? あ、えっと、ボクは……ワインのテイスティングをやっておきます!」
「…………」

 胡乱な目でプッチさんを見る僕。

 それ、ただ抜け駆けしてワインを飲みたいだけなんじゃないですかね。

 いやまぁ、プッチさんはお客さんだし別に良いんだけどさ。

 そうして、手分けをしてワインパーティの準備を始める僕たち。

 そんな僕たちの側を、トリトンの足音を感じさせる一陣の風が、美味しそうな羊肉の香りを乗せて駆けていった。
 本草学研究院──。

 王国を象徴する公共機関、「王宮魔導院」のひとつで、魔法と植物の関係や、薬草を使った錬金術など研究している魔導化学研究機関だ。

 その院長であるマズウェルの部屋に、ひとりの男がいた。

 実に狡猾そうな雰囲気の貴族然とした男。

 彼の名はラインハルト。

 魔導院の騎士学院魔道科を主席で卒業したエリートであり、サタやブリジットの上司にして本草学研究院の上席研究員だ。

「ホーエル地方から『大海瘴の兆しあり』と報告があったそうだな?」
「……っ」

 マズウェルに尋ねられ、ラインハルトの喉から小さい悲鳴のようなものが上がった。

 ラインハルト自身、まさかというのが正直なところだった。

 ホーエル地方を統治するパルメ子爵より信書が届いたのはつい先日だ。

 ──ホエール地方に、再び大海瘴が発生する兆しあり。

 そう書かれていた手紙を受け取ったラインハルトだったが、「過ぎ去るのを待つべし」と返信し、マズウェルには報告しなかった。

 理由は簡単。そんなことに割く時間などなかったからだ。

 学会発表シーズンが近づき、その評価如何で念願の「室長」の座を射止めることができる。

 地方の田舎領主に時間を割くくらいなら、昇格のための根回しに時間を使ったほうがいい。

 ホエール地方の危機など、昇格と天秤にかけるまでもない些細なこと。

 ラインハルトにとってホエール地方の滅亡は「うまいワインが飲めなくなるのは少々残念」程度のことだった。

「どうなのだ? ラインハルト」
「確かにありましたが、ホエールを統治しておりますパルメ子爵より『手出し無用』との続報が入り、静観することにしました」
「静観」

 唸るようにマズウェルが言う。

 その表情は微塵も変わらない。

 怒っているとも呆れているとも、納得しているとも取れる。

「なるほど。ということは瘴気対策の第一人者である我々が辺境領主に遅れを取ったのは、すべて貴様のせいというわけだな」
「……は?」

 予想していなかった返答。

 ラインハルトはポカンとしてしまった。

「本草学研究院から『ただ過ぎ去るのを待つべし』と返答を受けたパルメ子爵は独自に瘴気対策を講じ、招き入れた優秀な瘴気研究者の尽力もあり大海瘴の危機を未然に防いだそうだ」
「……っ!? まさか」

 あり得ない、とラインハルトは思った。

 大海瘴は広範囲に高濃度の瘴気が発生する自然災害。それを未然に防ぐことなど出来るはずがない。

 ──まさか、瘴気の浄化にでも成功したというのだろうか。

 本草学研究院でも瘴気浄化は長年研究されてきたが、きっかけすらつかめないでいる。浄化どころか、発生の原因すら特定できていないのだ。

「あり得ない、か?」
「そっ、そのとおりです! きっと何かの間違いで──」
「間違い、だと!?」

 激昂したマズウェルが飛び上がるように椅子から立ち上がる。

「私の許可なくパルメ子爵に馬鹿げた返答をした貴様の行いが大間違いだっ! このたわけ者めっ!」
「……ひっ!? も、申し訳ありませんっ!」

 ラインハルトの額にブワッと大粒の汗がにじみ出た。

 彼の頭の中は大混乱に陥っていた。

 何故、独断でパルメ子爵に返信したことを知っている。

 まさか近くに内通者がいるのか。

 面倒だが室員の身元を洗い直さなければならない。

 ……いや、そんなことよりもまず行うべきは、失墜してしまった評価の回復か。

 このままだと室長の夢が幻になってしまう。

「瘴気対策の先駆者たる我々が、瘴気対策の分野で専門家でもない地方領主に遅れを取ったと国王様の耳に入ればどうなると思う?」
「そ、それは……」

 間違いなく悪い方向へ進むだろう。

 ただでさえ本草学研究院が行っている瘴気対策には結果が伴っていないのだ。

 院内部からは「予算が削減されるのでは」という噂すら流れはじめている。

 そんな中、本草学研究院でも成し遂げられなかったことを片田舎の領主が成功させたとなれば──どうなるかは火を見るよりも明らか。

 しばし、重苦しい沈黙が院長室に流れる。

「……だが、まだ挽回の余地はある。その瘴気研究者の手で大海瘴は回避されたが、パルメ子爵はその男の懐柔に失敗したらしい」

 マズウェルは大きく息を吐くと、再び椅子に腰掛けて続ける。

「その有能な瘴気研究者の正体を探り、必ず院に招き入れるのだ」
「……承知いたしました」

 承諾はしたものの、またかとラインハルトは思った。

 輝かしい実績を持つ有能な人間は、いかなる手を使っても院に入れる。そうすればその実績は本草学研究院のものになるからだ。

 それが院長マズウェルのやり方。

 だが、そのやり方をラインハルトは快く思っていなかった。

 有能な人間が入ってくることは、自分の昇格を阻む邪魔者が増えることと同義。

 もしその男が院に入ってきたなら、姑息な手を使ってでも追放しなければならない。

 付与魔法などという馬鹿げた加護を持っていた、あの男と同じように。

「……ああ、それと」

 ラインハルトが院長室を出ようとしたとき、マズウェルがふと引き止めた。

「デファンデール家の息女の件はどうなっている?」
「申し訳ありません。未だ、行方がわからず」
「彼女の捜索も急げ。この件が護国院の耳に入れば、私の首が文字通り飛ぶことになるのだからな」
「…………」
「返事はどうした、ラインハルト?」
「承知しました。必ず見つけ出します」

 涼しげな表情で頭を下げ、院長室を後にするラインハルト。

 だが、その胸中は穏やかとは言い難かった。

「……クソ。無理難題を押し付けるだけの無能め。貴様の首など知ったことか」

 ラインハルトは大理石が敷き詰められた廊下を歩きながら静かに罵る。

 デファンデール家の息女、ブリジットが突如として院から姿を消したのは数週間前。

 その事実はラインハルトの手によってもみ消され、ブリジットの父である護国院院長の耳には届いていない。

 だが、それも時間の問題だろう。

 明るみになる前にもみ消しはしたものの、いつ噂になって広まるとも限らない。

 そうなる前にブリジットを保護しろ──というのが、彼女の上司であるラインハルトに課せられた任務だった。

「あんな女など捨てて置けばいいものを」

 若干、十七歳にして王宮魔導院に入ってきた天才。

 あんな娘を捜索するなど、保身のためとは言え虫酸が走る。

「……まぁ、あの生意気な男と比べれば可愛いものか」

 ラインハルトは、ふと思い耽る。

 付与などという詐欺魔法を使っていたあの男の名は、確かサタと言ったか。

 奇妙な加護を持ち、彗星のごとく現れた男。

 サタの生意気な顔と共に想起されるのが、あの男が発表しようとしていた論文だった。

 これまでにないアプローチで瘴気を浄化させる方法。それはまさに「革新的」と言っても過言ではないものだった。

 故に、ラインハルトはその論文を握りつぶすことにした。

 保身と室長への昇進のために。

 革新など必要ない。

 求めるべきは不変。

 何も変わらないからこそ、甘い汁が吸えるのだ。

「ホエール地方に現れたという瘴気研究者も実に生意気そうだが、あの男ほどの腹正しさはあるまい」

 金をちらつかせれば懐柔は容易いはず。

 窓から覗く忌々しいほどに晴れ渡った空を見ながら、ラインハルトは吐き捨てるようにつぶやいた。

 ──ホエール地方を大海瘴の危機から救った瘴気研究者こそが、そのサタ本人であるとも知らずに。
「……いやぁ、暑かったね」
「ですねぇ。ああ、お水が冷たくて美味しい」

 自宅一階のリビングで、僕とララノはこれでもかとキンキンに冷えた水を飲んでいた。

 ちなみにこの水はブリジットの氷の魔法剣を使って冷やした物だ。

 彼女が魔法剣を使えて本当によかった。

 二日前にトリトンが過ぎ去り、天気も良くなったので秋野菜の作付けをやっていたんだけれど、熱中症になるかというくらいに暑かった。

 少し前に「日本の夏よりも涼しいな〜」なんて思っていた自分を呪いたい。

 帰ってきてすぐにララノと交代で水浴びしたけど、一刻も早くプールの建築を進めるべきかもしれないな。

「トリトンが来たら涼しくなるって思ったんだけど、読みが甘かったみたいだね」
「え?」

 ララノがタオルで髪の毛を拭きながら、目を瞬かせた。

「……あっ、サタ様ってトリトンははじめてなんでしたっけ?」
「そうだね。今回が初体験」
「なるほど。では覚悟しておいたほうがいいですよ? 蒸し暑さはこれからが本番なので」
「うげ、ホントに?」

 この暑さが更に酷くなるの?

 これは真剣に熱中症対策をしないとまずそうだな。

 持久力強化の付与魔法をかけたら、いくらかましにならないかな? 

 合わせ付与で「熱耐性」みたいな効果が出ないか調べてみる必要がありそうだ。

 空になったコップをキッチンに運びながらララノが言う。

「この蒸し暑さを吹き飛ばすために、今日はあっさりしたお昼ご飯にしましょうか」
「あ、いいね。こんな日は素麺とか食べたいな」
「……ソーメン?」

 ララノが不思議そうに首をかしげる。

「……あ、ごめん。僕の故郷で食べられる料理なんだ。小麦を使った麺料理で冷やして食べることが多くてさ。暑い日にピッタリなんだよね」
「そんな料理があるんですね。残念ながらそのソーメンはありませんが、パスタで似たようなものをお作りしましょうか。トマトやトレビスをオリーブオイルで和えちゃえば、夏にピッタリのパスタが作れますよ」
「あ、それおいしそう。是非お願いします」
「承知しました。ララノにおまかせあれ」

 力こぶを作って嬉しそうに耳をピコピコと動かすララノ。

 うん、可愛い。

 ララノが料理をしている間に農具のメンテナンスでもしようかと思っていたら、二階から駆け下りてくる足音が聞こえた。

「サタ先輩っ!」

 ブリジットだった。

 今日は錬金術の研究をすると部屋に閉じこもっていたはずけれど、何故かその手には鍋を持っている。

「……どうしたの? てか、その鍋は何?」
「聞いてくれサタ先輩! ここ最近トリトンのせいで外に出られなかったのでカレーを作ってみたのだが」
「カレー」

 いや、錬金術はどこ行った?

「ララノから一晩寝かせたほうが良いとアドバイスを受けてな」
「あ〜、確かに一晩寝かせたカレーはおいしいよね」
「そうらしいな。なのでこうしてじっくり一晩添い寝をしてみたのだ」
「おお、それは実においしそ……え? 添い寝?」

 え、何? リアルに寝ちゃったの? 

 カレーと一緒に?

 ウソでしょ?

「ベッドが多少カレー臭くなってしまったが、毎晩カレーに包まれているような錯覚があってなかなか良かったぞ。サタ先輩もやってみたらどうだろう」
「遠慮しておく」

 変な夢を見そうだし、ララノからは変な目で見られそうだ。

 わかりやすく辟易とした表情を作ったのだけれど、華麗に無視してブリジットが続ける。カレーなだけに。

「というわけでサタ先輩。おいしいカレーが出来たので、お昼は私が作ったカレーにしてはどうだろう?」
「あ〜、ごめん。お昼はララノが冷パスタを作るみたいだし、カレーは夜がいいんじゃないかな」

 真夏日なのにカレーっていうのもアレだけどさ。

 辛さで暑さをふっとばせるのかもしれないけど、汗だくになるのは遠慮したい。

「そうか!」

 ブリジットは爛々と目を輝かせる。

「ならばもう少し添い寝をすることにしよう。ふふ、これでまた一段と美味しいカレーになるな!」

 ブリジットは「お昼の準備ができたら呼んでくれ」と言い残して二階へと駆け上がっていく。

 そんな彼女を呆然と見送る僕。

 突っ込むのも面倒だから、そっとしておこう。

「はい! お昼時にこんにちは!」

 と、今度は玄関から来客の声。

 リュックを背負った小さな女の子が立っていた。

「あ、プッチさん、いらっしゃい」
「どうもです。いつもの物資を持ってきましたよ」

 プッチさんの肩越しに外を見ると、荷が満載の馬車が停まっていた。

「今回は鶏肉に豚肉……あとはこれが入ってますよ」
「おお、麦ですか」

 プッチさんが無限収納リュックの中から取り出したのは黄金色の麦の穂だった。

 もうそんな時期か。

 小麦は粉にしてパンを作るのもいいし、素麺づくりにチャレンジしてみてもいいかもしれないな。

 こっちの世界でも素麺を食べられたら最高だ。

「それと、ビックリするような朗報も一緒に持ってきましたよ」
「え? 朗報?」
「そうです。先日の瘴気浄化の一件で、どうやらサタさんのことが世間に広く知れ渡ったようでして」
「…………」

 思わず閉口してしまった。

 静かにのんびり暮らしたい僕にとって、名前が広く知れ渡るのは全然朗報じゃないんですけど。

「是非サタさんの農園の野菜を卸して欲しいっていう商会や貴族が名乗り出ているみたいなんです。それでボクを仲介して是非サタさんに──」
「プッチさんには悪いけど、遠慮しておきます」
「ええ、そうでしょう、そうでしょう。この機会にパルメ様以外の貴族ともつながりを作っちゃえば、ガッツリ儲けることも──って、なんで拒否!?」

 そのまますっ転んでしまいそうなくらいにのけぞるプッチさん。

「ちょ、ちょっと待ってください! お金ですよ!? 大量のお金が入ってくるんですよ!? 拒否する理由なんてどこにあるんですか!?」
「いやだって、面倒そうじゃないですか」
「め、面倒!?」
「そうです。僕はそういう面倒ごとに関わりたくなくてここに引っ越してきたんです。そんなことに首を突っ込んだらララノに怒られちゃいますよ」

 ちらりとキッチンを見る。

 パスタを茹でているララノとばっちり目が合った。

「その通りです。頑張りすぎはダメですからね?」

 そして、したり顔でそんなことを言う。

 スローライフをするために頑張るなんて、実に本末転倒すぎる。

 これはララノの受け売りなんだけど。

「……ぐぬぬ」

 ララノの声を聞いてプッチさんは渋い顔で何かを言いかけたが、ぐっと飲み込んで「サタさんがそういうのなら、仕方がないです」と渋々納得してくれた。 

「とりあえずプッチさんもお昼ご飯を食べていってくださいよ。今日は暑い日にピッタリな冷パスタですから」
「あ、それでしたらホエールワインもお願いします」

 ちゃっかりワインも要求された。

 ここは居酒屋じゃないんだけどな。

 ──と呆れつつも「いいですよ」と承諾してしまった。

 だって僕もちょっと飲みたかったし。

 というか、昼間っから一番煎じのホエールワインを飲めるなんて、なんて贅沢なんだろう。

「……これぞスローライフの醍醐味だな」

 窓から見える広大な農地を眺めながら、僕はつくづくそう思った。

──────────────────────────────────────

ここまでお読みいただきありがとうございます。
これにて第一部は完結でございます!

毎日更新をやってきましたが、しばらく書き溜め期間を頂ければと思います。
再開時期の目処が立ちましたらTwitter等で告知させていただきます!

それでは、また!

作品を評価しよう!

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:34

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

表紙を見る
役立たず転移者、チート魔剣で異世界を謳歌する

総文字数/32,100

異世界ファンタジー8ページ

本棚に入れる
表紙を見る
表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア