結月はその異質さに息を殺して構えた。
 先程まで和気あいあいと話していた男たちが、静かに壇上に身体を向けて跪いている。
 やがて壇上に姿を現した様子を見て、結月は納得した。
 異質さが桁違いだった。神々しささえ感じる雰囲気を漂わせるその存在に、思わず結月も捕らわれた。
 結月は雰囲気に飲まれ、数十秒時が止まったかのように錯覚した。
 ようやくその男の姿をよく見れたのは、男が話し始めてからだった。

「その女か」

 口を開いた壇上の男を見ると、白い髪に整った顔立ち。
 着物のような服の上には重そうな羽織がかけられている。
 いたるところに金剛石のような輝きを放つ装飾が目立ち、照明に照らされよく光っている。

「はい、彼女が涼風結月でございます」

 凛がそう答えた。

「ずいぶんと千十郎の報告と違い、ひ弱なものだ」

「──っ!?」

 結月は驚いた。自分がまたひ弱と言われたことにではない。
 育ての親である千十郎の名が口にされたことにだ。

「どうしてじいちゃんの名前が……」

「千十郎と清子は一条家の分家筋の人間だ。つまり、一条家に仕えるものだ」

「一条家に仕える……そんなの聞いたことない……」

「秘匿情報だからな。千十郎たちはお前を育てながら、お前を監視していた。一条家の命でな」

「かん……し……?」

 膨大な情報に結月は混乱していた。
 自分の育ての親が宮廷に仕える人間だった。いやそれよりも自分を監視していたということに驚きを隠せない。

「じゃあ、私が10歳の頃に神社の前で拾ったって話してたのは……」

「事実ではある。が、偶然ではない」

 偶然ではない。という響きに違和感を覚えながらも、自分の処理能力が悲鳴をあげ、それ以上の情報を聞けずにいた。
 その間に白い髪の男は言葉を紡ぐ。

「そろそろ本題を話す。俺には時間がない」

 話をそらしたのか、本当に時間がないのか、結月には図る術はなかった。

「俺の婚約者になれ」

 結月は声を荒らげた。

「…………はあ?!」