どれだけの時間が二人の間に流れただろう。
 朔がおもむろに口を開いた。

「お前は弱くない。それに一人でもないだろう」

 結月は初めての朔の様子に戸惑いながらも、黙って身をゆだねていた。

「お前はお前でいろ。暴走したら俺が止めてやる」

 結月を気遣い、朔は一度暴走を止めたこともそれで自身が傷ついたことも伏せていた。
 少し結月を自分から離すと結月の目を見る。
 結月の涙を親指で軽くなぞるように拭うと、朔はもう一度口を開いた。

「治癒の力を発揮することができれば、お前はおそらく力の暴走を止められる」

「治癒の……力……?」

 それは結月が涼風家の蔵で見た書物に書いてあった力である。

「治癒は抑制の効果がおそらくある。強すぎる攻撃性と対になるはずだ」

 結月は黙って聞いていた。
 つまり二つで一つの力だというのが朔の考えであった。

「私、治癒の力を発現できるようにします」

「ああ、お前ならできる」

 わずかだが朔が結月に初めて笑顔を見せた。
 その笑顔に結月の胸は高鳴っていた。
 二人の様子はまるで本当の婚約者のようだった──