(結局朔様の自室前に来てしまった……)

 婚約者なのに知らないのは不自然だからという理由で朔の自室の場所は伝えられていた。

(やっぱり帰ろう……)

 結月は自室に向けて足を進めた。


「いつまでそこにいるつもりだ」

「──っ!!」

 朔の声が部屋の中から聞こえた。
 結月の気配が朔にはわかっていた。
 結月は中をうかがうようにそっとふすまを開ける。

 そこには縁側に一人座って月を眺める朔がいた。

「朔様、夜遅くに申し訳ございません」

「かまわん」

 遠慮しがちにふすまの前で立っていると、朔が縁側に来いと促す。
 結月はその言葉に従い、朔の横に座った。