数刻読み漁り、ここにある書物は二種類に分けられることがわかった。
 一つは村の年貢等を記した村長(むらおさ)としての帳簿関連。
 もう一つが涼風家に関わる書物だった。
 凛が手前にある書物が全て前者であることを確認すると、結月の調査している奥へと向かった。

「こちらは年貢等の記録書物のようでした。そちらはいかがですか?」

「はい、こちらは涼風家に関する書物がほとんどですが、妖魔退治や『イグの行使者』に関する書物は出てきていません」

「私も手伝います」

 凛は結月の横に並べられた未読の書物を調べ始めた。


 夕刻に差し掛かった頃、結月が一つの書物を見つけた。

「凛さん!! これ見てください」

 凛が覗き込む。
 そこには涼風家の伝承能力について記されていた。

「伝承されうるは、翠緑の風。治癒を以って民を助ける……」

 そのあとは劣化していて読めなかった。

「翠緑の風。それに治癒って書いてありますね」

「妖魔退治ではなく治癒が主な能力だったのでしょうか……」

「これだけではなんともわかりません。他を見てみましょう」

 二人は再び書物を読み漁った。
 しかし、これ以降わかったのは、涼風家の能力が多岐に渡るということと、その能力は一定の条件のみで習得できるということだった。
 その一定の条件の内容までは書いておらず、その部分は口承されていることが予測された。

「おそらくここにある全ての書物をあらかた見ましたが、これ以上の情報はなさそうですね」

「はい、ただ、治癒の力があることはわかりました」

「朔様であれば何かわかるかもしれません」

「はい」


 二人は一旦その場を後にした。
 月が出ており、もうかなりの深い時間になっていた。

(力の抑制については何も出てこなかった。やっぱり私がまだ力を扱えるところまで到達していない……)

 結月と凛は夜道を歩いていった──