凛と実桜は泉水の間に向かっていた。


「実桜、傷の具合はもう大丈夫なのですか?」

「はい、任務にも支障はございません」

 凛と実桜が泉水の間へ続く薄暗い廊下を渡る。
 廊下の脇には行灯が一定の間隔で並べられている。

「申し訳ありませんね、日頃の兵部省(ひょうぶしょう)の勤めに加えて妖魔のほうも任せきりになってしまい」

「自分は凛さんのほうが心配です。しばらくまともに寝ていないと伺いましたが」

「生命維持に必要な睡眠はとっていますよ。それにしても実桜に心配される日がくるとは……昔はあんなに小さくて私の後ろをちょこちょこついてきていたのに……」

「……昔の話です」

 凛は昔を思い出すかのようにわずかに斜め上を眺めて微笑んだ。
 それに対し、少々不満げに言う実桜。

 やがて二人は泉水の間に到着した。
 そこにはすでに朔がいた。

「「──っ!」」

「お待たせして申し訳ございませんっ!!」

 凛と実桜はお辞儀をしながら、謝罪する。

「いい、ここで作業をしていただけだ」

 凛と実桜は定位置に急ぎ、腰を掛けた。

「瀬那と蓮人の様子は」

 朔が問う。

「はい、二人は徐々に回復傾向にあります。あと一週間もすれば自室に戻れるかと」

「そうか……あいつは」

 朔は続けて少し小声でいった。

「結月さんはいまだ目覚めません。永遠(とわ)と美羽が交代で見守っておりますので、ご心配なさらぬよう」

「心配はしていない」

 軽く目をそらすと、自分の作業していた書類に目を通し始めた。

(……心配なんだな)

 凛は心の中で幼なじみの気持ちを慮った―