「朔様っ! 結月さんっ!」

 凛は宮廷の朔がいる部屋に向かうと、そこには壇上に倒れこんだ朔と結月の姿があった。

「──っ!」

「大丈夫だ」

 凛の慌てた様子を見た朔が自分の無事を告げる。

「はあ……ご無事でなによりです」

 そういうと朔と結月のもとに近づき、跪いた。

「この度は私の不手際で朔様と結月さんを危険にさらし、誠に申し訳ございません」

「構わん、問題ない」

 凛は顔をあげると、朔は左手を床につけるように脱力していた。
 左半身は朔の血で真紅に染まっている。
 一方、結月はわずかに傷を負い、朔の腕の中で抱きかかえられるように気を失っていた。

「朔様、治療いたします」

「問題ない。それよりそっちの報告をしろ」

 朔は自らの治癒の力で傷の悪化を防ぎつつ、凛の報告に耳を傾ける。

「かしこまりました。私たちが向かった時には斎と名乗る少年がいました。その少年の猛攻により、蓮人と瀬那が重傷。実桜も軽傷を負っております」

「三人で戻ってこられる状況なのか?」

「はい、瀬那は自力で、蓮人は実桜に支えられて帰還中になります」

 朔は少しの間考えると、端的に宮廷で起こったことを話し始めた。

「こちらは皐月と名乗る少年が襲ってきた。もう一体敵がいたが消息や詳細は不明だ。こいつが全て対処した」

 『こいつ』と言いながら結月を眺める。

「その結月さんの具合は……?」

「『イグの行使者』の力を発動させて暴走した。今は眠っているだけだ」

「そうでしたか……」

 そっと胸をなでおろした凛は朔に指示を求める。

「朔様、処理のほうはいかがいたしましょうか」

「東の森は一時封鎖で民衆を近づけるな。処理は裏(うら)に指示。あと、お前は蓮人たちのもとへ戻れ」

「……かしこまりました」

 凛は朔の意図を全て理解すると、すぐさまその場をあとにした。


(さて、ひとまずこいつを休ませるか)

 朔は立ち上がると左半身の痛みを抑えながら、歩き始めた。

「永遠(とわ)、美羽」

 朔が呼ぶとすぐさま二人は現れる。

「──っ!朔様……お手当を早く……」

「構わん。こいつを手当して部屋へ連れていけ」

「……かしこまりました。医師をお部屋に手配いたしますゆえ、ご無理をなさらぬようにお戻りくださいませ」

「ああ」

 結月が永遠と美羽に抱きかかえられて部屋に戻るのを見届けると、朔はゆっくりと自室へ戻った──