朔は目の前の状況を瞬時に理解した。

 自分を貫いた敵はこの場にはいない。
 残る危険因子は『結月』だった。

 結月の藍色の瞳は朔を捉えると床を蹴り、刃を向けてきた。

 すかさず、朔は太刀を変化させ、刃で応戦する。
 二人の視線が刃越しに交わる。

(正気を失ったか)

 朔は大太刀から結月を傷つけない程度のわずかな波動を出す。
 結月はその波動で一瞬ひるんだ。
 その隙を狙い大太刀で結月の双剣を打ち払う。
 だが、結月はその勢いのまま宙を舞うと双剣を拾いあげ、再び朔へと刃を向けた。

 朔の足がじりじりと後ろへ後退する。
 結月は能面のような顔で朔の大太刀に双剣を押し込む。
 きりきりと鳴り響く刃と刃はやがて弾き飛び、両者ともに後ろに跳ね飛ばされる。

 大太刀ですばやく斬撃を打ち放つとその斬撃は結月の右腕をかすめる。
 しかし、その傷を無視し、結月は再び朔のもとへ飛び掛かると双剣の片方で大太刀を防ぎ、もう片方で朔の左肩を貫く。

「──っ!」

 左肩を貫いた刃を引き抜くと、結月は朔の顔をめがけて振りかざす。

(仕方あるまい)

 朔はその攻撃を避けることなく素手で受けると、右手の大太刀で双剣を打ち払い、素手で持った双剣ごと結月を引き寄せ大太刀の頭(かしら)で結月の上腹部を打った。

「──っ!」

 結月は上腹部の打ちに耐えきれず、そのままゆっくりと朔に身体を預けて気を失った。

 長らく騒がしかったこの空間に静寂が訪れた。


(まったく……世話の焼けるやつだ……)


 朔の左肩と左手は自らの血で真紅に染まっていた──