男は森の中を必死に逃げていた。
 しかし、木の根につまずき、転んだ。
 その間に野盗に詰め寄られる。

「ひいいいいいーーーー!!!!」

「ほらっ! 金目のもの全部出しなっ! 死にたくなかったらなー!」

 野盗は男に向かって刀を振り上げる。


 しかし、野盗が男を斬りつける寸前──短めの刀がそれを弾き返した。

「なんだ……?」

 野盗は弾いてきた刀の先を見る。
 そこには20歳程の赤い髪の女がいた。淡い青色と紫の着物に動きやすそうな深い靴を履いている。
 腰には二本の鞘がぶら下がっており、片方の刀は納められたままだ。
 
「しまいなさい。そんなことのために刀はあるんじゃない」

 女は刀を野盗に向けると忠告した。
 しかし、その言葉も虚しく、野盗は彼女に斬りかかろうとした。

「いい度胸じゃねぇか、この俺にたてつくなんてなっ!」

 野盗の持つ刀が女の顔面目掛けて振り下ろされる。
 刃が女に触れる寸前、しまっていたもう片方の刀を抜き、受け止めた。

 女はそのまま野盗の持つ刀の勢いを殺して、弾き飛ばした。
 
「なっ!」
 
 女は双剣使いだった。
 刀を胸の前で交差させ、野盗に向かって問う。

「まだやりますか?」

「──っ! その構え……まさか、【二刀使いの結月】か……?!」

 【二刀使いの結月】と呼ばれたその女は、野盗の言葉に返答する。

「痛い目をみたくなかったら、おとなしくここを去りなさい」

「くそっ!」

 野盗は弾かれた刀を急いで拾い上げ、逃げるように去っていった。


「ふぅ……」

 女は双剣を鞘にしまうと、襲われていた男に向き直った。

「大丈夫ですか……?」

「は、はい。助けていただき、ありがとうございます」

「ここは野盗が多くでますし、よかったら近くの茶屋まで護衛します」

「本当ですか?! ありがとうございます……!」