「お前、薬草に詳しくないか?」

 ある日の昼下がり、蓮人は結月のもとを訪れてそう尋ねた。

「森の奥に住んでいたので、ある程度のことはわかりますが……」

「よし! ならついてこい」


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 結月が蓮人に連れてこられたのは街のはずれにある民家だった。

「戻ったぞ」

「蓮人様! お忙しいのに申し訳ございません」

 70歳頃の老女がお辞儀をしながら言う。

「いいんだよ。それより連れてきたぞ。お前、この中で腹痛に効く薬はあるか?」

「え…?」

 古びた畳の上に置かれた籠の中に、いくつかの野草と思われる草が入っていた。
 結月は突然の展開に困惑しながらも、野草をくまなく見ていく。
 その中で思い当たる薬草を見つけた。

「これが腹痛に効きます」

 と、籠から取り出したのは、「大花延齢草(おおばなえんれいそう)」だった。

「今煎じて飲めるようにしますので、すり鉢はありますか?」

「それならこちらに…」


 結月はすり鉢で薬草をすりつぶすと、飲めるように白湯に溶かした。

「よし。これをどうぞ。ただし、この1杯だけにしてください。多く摂取すると逆によくないので」

「ありがとうございます」

 そういうと結月から湯呑を受け取り、ゆっくりと飲んでいった。


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「本当に助かりました。なんと御礼を申してよいか」

「いいんだよ。薬屋が今日は仕入れのために店閉めるって言ってたからな。逆に俺が倒れてるところ見つけられてよかったよ」

(そうだったんだ……わざわざそれで私のところまできて……)

 深いお辞儀で見送る老女に手を振る蓮人。

「助かった。俺じゃあどうしようもなかったからな」

「いえ。蓮人さんは意外と優しいんですね」

「別に優しくない。俺は民部省(みんぶしょう)を朔様から預かって管轄してる。街の民を助けるのは当たりまえだ」

 それが普通はできないものなのですよ、と心の中で結月は思った。


 その後、勝手に結月を街に連れ出したことがばれて凛にお説教を食らった蓮人であった──