父親の思わぬ返答に言葉を失う朔。
 すると、その様子を可愛いなとつぶやきながら、見つめて言う。

「一番になるなんてのはどうでもいい。ただ、後付けするなら、人を一番愛せ。そしていつか見つけるお前の大切な人を一番大切にしろ。それだけは守れ」

 『大切な人』や『愛する』ということは、まだ五歳の朔には到底理解の追いつかない内容だった。

「……申し訳ございません。理解できません」

「まあ、いい。お前はもっと子供らしくいろっ!」

 時哉は朔をくすぐって笑わせようとする。
 朔も意外な父の姿に顔を綻ばせて笑った。



 ──17年前。

 朔は涼風家で初めて結月に会った。
 侍女と一緒に毬で無邪気に遊ぶ姿は、羨ましく、そして可愛らしく思った。

 何度か涼風家に足を運んだ際に、屋敷から遠く離れた蔵で結月と会うことがあった。



『迎えにいったらお前の傍から決して離れない。お前を離さない』



 蔵を離れた朔は我ながら恥ずかしいことを言ったと思った。
 しかし、結月を見た瞬間から『守りたい、守らなければならない』と感じた。