結月は両親の視線に気づくこともなく、いつもの『隠れ場所』に向かった。
 涼風家にはいくつか蔵があったが、結月は自室から遠く離れた美術品の入った蔵で過ごすことが好きだった。
 次第にそこは前述の侍女と二人きりの『隠れ場所』となり、遊び場となっていた。

 結月のお世話役だったその侍女は、骨董商の娘であったため、美術品には詳しかった。
 特に最近流行りの硝子(ガラス)製品が結月のお気に入りで、それを眺めるのが好きだった。

 『隠れ場所』に着いた結月はいつものように、木箱の埃を払うとそこに座った。
 いつもであれば足をぶらぶらとさせて愉快に侍女の話を聞くが、話してくれる侍女はもういない。
 結月は一人ぼっちだった──