「お前が発動した『翠緑の風』は、父親から受け継いだものではないな?」

「はい、これは涼風家でも限られた人しか発動し得ない秘術と呼ばれるものです。実際、200年はこの秘術を使えたものは一族に現れていなかったそうです」

 結月はゆっくりと語り、またその先が口ごもる。

「どうした?」

「いえ、この秘術の存在と共にもう一つ父に教えられたことがありました」

 朔が結月の次の言葉を静かに待つ。

「この『翠緑の風』は一族の子供が先に持って生まれてくるもう一つの”ある秘術”に対抗するべく存在する秘術だと。そしてその”ある秘術”は『凋枯(ちょうこ)の風』。生きとし生けるものの生命力を奪う力です」

「生命力を奪う……」

「一族は本来その子を忌子(いみこ)として、牢に入れて育て、そしてそこでその子は一生を終えるそうです」

「……」

「しかし、今代は特殊なことが起こりました。一族の中に『翠緑の風』を出すものが現れたのに、『凋枯(ちょうこ)の風』が発現した者がいなかったのです」

「──っ! まさか……」

 朔は合点がいったように結月の目を見て言う。
 結月もそれに対し、頷いた。