「昔だったら、時哉様に怒られてたな」

「ああ」


「あとの処理は頼んだよ、一条家ご当主」

「都合のいい時だけ使うな」


 凛は起き上がって座ると、朔に頭を下げた。


「俺の負けだ」

「当たり前だ、俺が負けるわけない」

「それもそうか」

 凛は悟ったように笑って月を見上げる。


「結月は君と侍女が口づけしたところを見たと言っている」

「──っ!」

 朔は珍しく目を見開いて凛を見つめる。

「朔のことだから、何か事情なり誤解があるんだろう?」

「……」

「結月はそれで朔には想い人がいるって思いこんだ」

 凛は朔を見つめると、意地悪そうな顔をした。

「俺が言えるのはここまで。あとは二人でなんとかして」

 凛は立ち上がって、朔に背を向けた。