「凛」

 一言幼なじみの名前を呼ぶと、凛を起き上がらせ、殴りかかった。

「──っ!」

「朔様っ!」

 朔は結月のもとに近寄ると、結月を抱きかかえ、部屋を飛び出した。


 廊下をすたすたと歩く朔。

「朔様っ! おろしてください!」

 結月の声に耳を傾けない。
 やがて、朔の自室に着くと、結月をゆっくりと畳におろした。

「あの……なぜ……」

「なぜ抵抗しなかった」

「え?」

「お前は凛が好きなのか?」

「違います! 私は……」

「私はなんだ」

 結月の脳内に朔と侍女の口づけの場面が思い出される。

(朔様の想い人は、あの侍女の方……ならば……)

「はい、私は凛さんが好きです」

「……そうか、それは邪魔した。出て行っていいぞ」

「…………はい」


 結月は朔の部屋を出て、自室に戻る。

「う……うぅ……」

 自然と涙が出た。

 結月は経験したことがないほどの胸の痛みに襲われる。
 涙を拭うその腕には、抱きかかえられた朔のぬくもりがまだ残っていた──