(宮様の暗殺……時哉さまの身が危ない……)

 凛は心の中で一条家当主であり、朔の父親である時哉を思い浮かべた。
 心の中がざわめき、焦りを覚えた。

 一方、凛が朔の様子をうかがうと、朔は冷静だった。


「朔様……荷車から脱出して宮廷に戻りましょう」

「ああ」


 だが、凛が布を少しめくり、外の様子を見ると、そこは森の中でありまわりに人は見当たらない。
 当然この荷車まわりには何もなく、降りてここから脱出しようとすれば、おそらく二人の男に見つかるだろう。

「朔様、ここは私が……」

 『囮になります』という凛の言葉が出る前に、もはやその場に朔はいなかった。

「朔様?!」


「呑気なものだな、暗殺の話をこんな堂々と大声でするとは」

「誰だ!」

 朔は荷車の後ろから、二人の男の視界に入る位置に向かった。