「知っている。お前がわざわざ向かわせたのだろう? この私と会わせぬために」

 朱羅はゆっくりと目を細めて朔を見る。

「お優しい婚約者様だな──っ!」

 朱羅は言い終わるか否かに右手を上げると、素早く自身の左肩の前で手刀を作り、一気に空を切った。
 刹那、朔へ向かい一直線に臙脂(えんじ)色の三日月のような波動が飛んだ。

 凛は朔の前にすかさず立ち、人差し指と中指を立てて詠唱しながら結界を張る。
 結界に阻まれた朱羅の攻撃は弾け飛ぶように、消失した。

「下がっていろ、凛」

 ゆっくりと立ち上がり、凛に声をかける。

「相変わらず行儀がなっていないな、朱羅」

 朔は太刀を片手に階段を下りて、朱羅に向かって歩き出す。

 やがて、そのまま二人の距離は縮まり、お互いの刀が届くわずか手前にまで迫った。