「だからどうした?」

「……え?」

 瀬那は言葉を失った。

「私はこれから時哉(ときや)様のところに行かねばならぬ、様子を見に行く暇などない」

 父親は早足で瀬那に近づくと、そのまま何も言わずに通り過ぎていった。

「お父様っ! お母様がっ!」

 みるみるうちに遠ざかる父親の姿。
 瀬那が必死に叫ぶも、その歩みを止めようとはしなかった。



 その数刻後、瀬那の母親はこの世を去った。
 瀬那と生まれたばかりの娘を残して──