瀬那は記憶の海に溺れていた。
 やがて、その海の向こうから幼き頃の記憶が襲いかかって来る。



「お母様っ! お母様っ!」

「瀬那様、離れてくださいませ!」

 瀬那の目の前で、母親が顔を歪めて苦しんでいる。
 母親の傍らには先ほど生まれた幼子がいる。

「奥様っ! しっかりなさいませ!」

「奥様っ!!」

 大勢の女中(じょちゅう)たちが、皆瀬那の母親に向かって声をかけている。
 瀬那は気が動転し、同じく母親に呼びかけるしかなかった。

(そうだ……お父様に知らせないと……)

 瀬那は抑え込む女中の腕をすり抜け、瀬那は部屋を飛び出した。

 父親のいる執務室へと向かい、廊下をひた走る──