しばらく時が経つが一向に結月を離そうとしない朔。

「朔様……これはいつ離されるのでしょうか」

「知らん」

 不愛想な言葉が返ってきた。

「お前はすぐに逃げようとしなかった。そうしてほしかったんだろう?」

 結月は心あたりがあった。
 嫌な気持ちは結月の中で微塵もなかった。
 それどころか心地よく感じている自分に、結月は最近戸惑いを覚えていた。

「朔様、仮の婚約者でこのようなこと恐れ多いのですが……」

「なんだ」

 結月は一呼吸を置き、朔の胸の中で告げる。

「朔様の腕の中は心地よいです」

「──っ!」

 朔は目を一瞬見開いたが、すぐに平静を保った。

「申し訳ございません、ご迷惑なことを申しました」

 結月は朔の腕から逃れようとするが、朔の腕がそれを許さなかった。

「迷惑ではない」

「え?」

「お前のことは俺が守ると約束した。傍にいるのは婚約者だから当たり前だ。これからももっと傍にいろ」

 結月がゆっくり朔の顔を見上げると、朔を月を眺めていた。

(婚約者だから当たり前……)

 結月はそれが建前であることに気づいていた。
 朔は迷惑だと思っていないということ、心が少し通い合っているということに結月は嬉しさを感じていた。

 結月と朔はそのまま身を預け合い、ゆっくりと月を眺めていた──