それは季節外れの雪が降り積もった日だった──


「はぁっ……はぁっ…………」


 10歳の少女は薄い寝間着姿のまま屋敷から勢いよく飛び出し、裸足のまま雪をかき分けてひたすらに進み続ける。
 少女が走る呼吸に合わせて、彼女の赤く長い髪が揺れ動く。
 その両手には双剣が大事に抱きかかえられていた。
 
 突如、少女の後ろから凄まじい轟音が鳴り響く。
 思わず、少女は音の鳴るほうへ顔を向けた。

「お父様っ……お母様っ……」

 振り返った先には、彼女が10年の月日を過ごした屋敷があり、その屋敷は脆くも炎に包まれ崩れ落ちようとしていた。
 少女は唇をかみしめ、止めていた足をもう一度屋敷とは反対の方向へと動かす。

 森の中を駆ける少女。
 次第にその勢いも弱まってくる。
 10歳の少女に体力の限界が近づいてきていた。
 
 やがて、彼女は足がもつれ雪の中に全身を投げうつように転んだ。
 
 
 「……う……はぁ…………」
 
 少女は起き上がろうとするも、もはやその余力はなかった。
 
 「――っ!」
 
 少女は大事に抱えていた双剣の感触がないことに気づいた。
 焦った少女は赤い髪を振り乱しながら、何度も辺りを見渡す。
 ようやく少女は、少し離れた先に刀が二振り雪に埋もれかけているのを見つけた。
 少女は必死に双剣のもとへたどり着こうと、這って進もうとする。
 しかし、雪が深く積もっている上に、少女の弱り切った体力ではうまく進めない。