この町で行われる夏祭りで打ち上げられる二尺玉は、何度体験しても圧巻の一言だ。無限の銀河を昇り、満天の星空に巨大な花を咲かせる。その轟音は全ての音を飲み込み、衝撃は遠く離れた車のセキュリティを作動させるくらい強烈だった。

 その花火大会の話で、教室内は盛り上がっていた。中学三年生の夏。受験を控えた俺たちに夏休みは死語になっていたが、それでも、つかの間の休息になる花火大会にはみんな参加するようだった。

大翔(たいが)、なにぼんやりしてんのよ」

 ホームルームが終わったつかの間の時間、なんとなく曇り空を見ていた俺の頭を、幼なじみの吉川唯奈(よしかわゆいな)がはたいてきた。

「って、いきなりなにするんだよ」

 朝からいきなりの攻撃に怒りをぶつけるも、保育園からの腐れ縁であり、互いに気をつかう間でないからこそ俺の非難に唯奈は涼しい顔をしていた。

「朝から辛気臭い顔をしてんじゃないの。それより、萌咲(もえ)と話ついたの?」

 呆れた顔で仁王立ちしていた唯奈が、真顔に戻して顔を近づけてくる。長身故にスタイルもよく、長い黒髪が自慢の唯奈は、顔のよさもあって男子の間では絶大の人気があった。その大きな瞳で見つめられたせいで、俺の心臓は嫌でも早鐘をうつことになった。

「いや、まだ話してない」

「ちょっと、話してないって、花火大会は来週なんだけどどうするつもりなの?」

 俺の返事に隠すことなく語気を荒くする唯奈に、胸の奥に小さな痛みが走る。唯奈にとって坂本萌咲は一番の親友であり、かつ、俺との仲をもったこともあり、俺の煮えきらない態度が我慢ならないようだった。

「近いうちに話はするから。用件はそれだけか?」

 さらなるツッコミを恐れて会話を無理矢理終わらせる。唯奈はなおもなにか言いたげだったが、俺の態度に折れたように追求してくることはなかった。

「とにかく、たのんだからね」

 納得いかない表情のまま引き下がった唯奈に、声に出さずに「ウザいっつうの」と唇を動かしたところで、再び唯奈に頭をはたかれた。

「いた、っていきなりなんだよ!」

「今、ウザいって言ったでしょ」

 俺の怒りに被せるように、唯奈が睨みをきかせてくる。声を出していなかったはずなのに、なぜか唯奈は俺の心の声を理解していた。

「何年一緒にいると思ってるの? それに、私は口パクでもなにを言ったかわかるんだから」

「なんだよそれ。てか、忍者かよ」

 自慢げに語る唯奈に、今度は声に出して非難する。唯奈は目を釣り上げていたが、そのまま自分の席に戻っていった。

 ――ったく、人の気も知らないでよ

 再び曇り空を見上げながら、小さくため息をつく。とはいえ、唯奈の気持ちはわからなくもなかった。萌咲の告白に応えたのに、煮えきらない態度をとる俺に不満があるのは仕方なかった。

 ――でもな、どうしたらいいんだ?

 今にも泣きそうな曇り空に、再び胸の奥に痛みが蘇る。

 唯奈は、ただの幼なじみだった。

 さらに、もう一人の幼なじみである涼太(りょうた)の彼女だ。二人は誰もが認める仲であり、俺も二人が付き合うことには大賛成だった。

 なのに、今さらになって抱いてしまった感情。

 気づくと俺は、もっとも好きになってはいけないタイミングで唯奈に恋心を抱いてしまっていた。