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古都子さんには、高道くんにちゃんと相談したほうがいいと、さも友達のように相談に乗った。多分あのSNSを見ただろう。
私はSNSのアカウントをさっさと削除しておいた。
日頃から彼は女の子との距離が近い。本人は全く悪気がないにしても、ときどきそれで勘違いする女子ができてしまう。高道くんは本気でわかっておらず「なんで?」と言っていたけれど、誰も彼の悪癖を正すことなんてできなかった。
これを彼女に見せただけ。普段和やかにアプリ交換している古都子さんがどう勘違いするのかは、私は知らない。
私は高道くんが嫌いだった。
最初は、ただの普通の友達だった。でもいつからだろう。彼を見ているともやもやとしてくるようになったのは。
なぜか彼はすぐに女の子の正解を叩き出してしまっていた。子供に見えてしまう童顔の子は大人扱いし、身長が高くて可愛くないと嘆く子には可愛い女の子扱いして。そのせいで彼と友達になった女の子は、友達から一転恋に落ちて、結果泥沼になって人間関係壊滅状態で瓦解したグループは、そこそこ見てきた。皆が皆、高道くんを奪い合って、友達同士で罵り合い、足の引っ張り合いになってしまうのだ。
彼は「自分なんにもしてないのに……」と肩を落としていたけれど、私は瓦解したグループの女の子たちを、馬鹿になんてできなかった。
だって、恋なんて馬鹿にならないとできないじゃない。その人しか見えてないって状態じゃないと、口にすることだってできない。
高道くんは、いくらなんでも無神経過ぎるよ。どうにか言葉の棘を抜いて説得しても、本人は本気でわかってない顔だった。
私が先輩を好きになったときも、高道くんは無神経なままだった。
「告白すればいいじゃん」
「ほら、当たって砕けても死にはしないから」
なにいい加減なことを言っているの。
当たって砕けたら死ぬんだよ。私の五体は満足でも、恋は死ぬんだよ。
私は先輩が好きだったけれど、それは私の自己満足だった。どこまでも穏やかなふわふわとした気持ちで、先輩を見ているだけでよかった。でも、無神経な高道くんは納得してくれなかった。
「それ、なんもしてないのと同じじゃない?」
私の逃げ場所を奪われて、とうとう先輩と無理矢理ふたりっきりにされてしまい、私は観念するしかなかった。
先輩が誰かと付き合い出したと聞いたとき、私は不思議と心は凪いでいた。
先輩は一刀両断で私を振ってくれたからこそ、私の恋は死んでしまったけれど、痛くて心が割れて血がダラダラ流れたけれど、それでもその痛みは化膿せずに完治した。
でも。私は自分の恋を化石にできなかった。
彼が誰のことを好きでも、私はただ見つめているだけで幸せだったのに。振られてしまったら、私の気持ちを認知されてしまったら、もう迷惑になるからそれすらも許されない。
私の恋ははじまらなくってよかったのに。終わらなければそれでよかったのに。
終わらせるタイミングくらい、私に選ばせてくれたらよかったのに。
そんな高道くんは、古都子さんを好きになったと知ったときの私の荒れ狂いようは異常だった。
──私の恋を殺しておいて、なにを言っているの?
心に一点のしみが落ちたように思えた。
──無責任なことを言って、煽って、次から次へと女の子たちの恋を殺して回って、いざ自分の番になったら触らないで、触れないで、後生大事な恋だからって
しみは広がっていった。
──踏み荒らされたくないんだったら、最初から土足で踏み込まないでよ。嫌よ。皆が皆、あなたと同じ恋の重さな訳がないじゃない。人の恋路はさんざん踏み荒らしておいて、自分の恋は嫌なの? そんなのフェアじゃないわ
彼のことはたしかに友達だったはずなのに。
──あなたなんて大嫌い。あなたのことは許さない。私の恋を殺しておいて、ひとりだけ幸せになるなんて許さない
彼のことを踏みにじりたくて、蹂躙したくてしょうがなかった。
──先輩のことが好きだった。ただ見ているだけで満足だった。私はこの恋を終わらせたくなかった。ただなにも言わなくて、ただ先輩が誰かと付き合っていても、ただ眺めているだけでよかった。はじめなければ終わらない。だから痛くない。当たって砕けたくなんてなかったのに
全部を知ったとき、彼は私に対して、誰にも見せなかったものをくれるだろうか。
──いっそのこと、中途半端に好きとか恋とか言うくらいだったら、最初から私のことが嫌いで、私のことを蹂躙したくて無茶苦茶にしたんだったらよかったのに。善意でなにもかも無茶苦茶にされたんだったら、私はあなたのことを憎みきれない
私は彼の一番「好き」にはなれない。だから。
私は彼の一番「嫌い」になりたい。
一点のしみとなって、彼の中にしがみつきたい。
<了>
古都子さんには、高道くんにちゃんと相談したほうがいいと、さも友達のように相談に乗った。多分あのSNSを見ただろう。
私はSNSのアカウントをさっさと削除しておいた。
日頃から彼は女の子との距離が近い。本人は全く悪気がないにしても、ときどきそれで勘違いする女子ができてしまう。高道くんは本気でわかっておらず「なんで?」と言っていたけれど、誰も彼の悪癖を正すことなんてできなかった。
これを彼女に見せただけ。普段和やかにアプリ交換している古都子さんがどう勘違いするのかは、私は知らない。
私は高道くんが嫌いだった。
最初は、ただの普通の友達だった。でもいつからだろう。彼を見ているともやもやとしてくるようになったのは。
なぜか彼はすぐに女の子の正解を叩き出してしまっていた。子供に見えてしまう童顔の子は大人扱いし、身長が高くて可愛くないと嘆く子には可愛い女の子扱いして。そのせいで彼と友達になった女の子は、友達から一転恋に落ちて、結果泥沼になって人間関係壊滅状態で瓦解したグループは、そこそこ見てきた。皆が皆、高道くんを奪い合って、友達同士で罵り合い、足の引っ張り合いになってしまうのだ。
彼は「自分なんにもしてないのに……」と肩を落としていたけれど、私は瓦解したグループの女の子たちを、馬鹿になんてできなかった。
だって、恋なんて馬鹿にならないとできないじゃない。その人しか見えてないって状態じゃないと、口にすることだってできない。
高道くんは、いくらなんでも無神経過ぎるよ。どうにか言葉の棘を抜いて説得しても、本人は本気でわかってない顔だった。
私が先輩を好きになったときも、高道くんは無神経なままだった。
「告白すればいいじゃん」
「ほら、当たって砕けても死にはしないから」
なにいい加減なことを言っているの。
当たって砕けたら死ぬんだよ。私の五体は満足でも、恋は死ぬんだよ。
私は先輩が好きだったけれど、それは私の自己満足だった。どこまでも穏やかなふわふわとした気持ちで、先輩を見ているだけでよかった。でも、無神経な高道くんは納得してくれなかった。
「それ、なんもしてないのと同じじゃない?」
私の逃げ場所を奪われて、とうとう先輩と無理矢理ふたりっきりにされてしまい、私は観念するしかなかった。
先輩が誰かと付き合い出したと聞いたとき、私は不思議と心は凪いでいた。
先輩は一刀両断で私を振ってくれたからこそ、私の恋は死んでしまったけれど、痛くて心が割れて血がダラダラ流れたけれど、それでもその痛みは化膿せずに完治した。
でも。私は自分の恋を化石にできなかった。
彼が誰のことを好きでも、私はただ見つめているだけで幸せだったのに。振られてしまったら、私の気持ちを認知されてしまったら、もう迷惑になるからそれすらも許されない。
私の恋ははじまらなくってよかったのに。終わらなければそれでよかったのに。
終わらせるタイミングくらい、私に選ばせてくれたらよかったのに。
そんな高道くんは、古都子さんを好きになったと知ったときの私の荒れ狂いようは異常だった。
──私の恋を殺しておいて、なにを言っているの?
心に一点のしみが落ちたように思えた。
──無責任なことを言って、煽って、次から次へと女の子たちの恋を殺して回って、いざ自分の番になったら触らないで、触れないで、後生大事な恋だからって
しみは広がっていった。
──踏み荒らされたくないんだったら、最初から土足で踏み込まないでよ。嫌よ。皆が皆、あなたと同じ恋の重さな訳がないじゃない。人の恋路はさんざん踏み荒らしておいて、自分の恋は嫌なの? そんなのフェアじゃないわ
彼のことはたしかに友達だったはずなのに。
──あなたなんて大嫌い。あなたのことは許さない。私の恋を殺しておいて、ひとりだけ幸せになるなんて許さない
彼のことを踏みにじりたくて、蹂躙したくてしょうがなかった。
──先輩のことが好きだった。ただ見ているだけで満足だった。私はこの恋を終わらせたくなかった。ただなにも言わなくて、ただ先輩が誰かと付き合っていても、ただ眺めているだけでよかった。はじめなければ終わらない。だから痛くない。当たって砕けたくなんてなかったのに
全部を知ったとき、彼は私に対して、誰にも見せなかったものをくれるだろうか。
──いっそのこと、中途半端に好きとか恋とか言うくらいだったら、最初から私のことが嫌いで、私のことを蹂躙したくて無茶苦茶にしたんだったらよかったのに。善意でなにもかも無茶苦茶にされたんだったら、私はあなたのことを憎みきれない
私は彼の一番「好き」にはなれない。だから。
私は彼の一番「嫌い」になりたい。
一点のしみとなって、彼の中にしがみつきたい。
<了>