「すまん。君の言葉には応えられない。他を当たってくれ」

 端正な顔の先輩への告白は、一刀両断で終わってしまった。
 高道は階下からそれを眺め、「あちゃあ……」と額に手を当てた。
 先輩は一瞥することもなく、そのままさっさと瞳を置いて階段を降りていってしまった。
 ひとり踊り場に取り残された瞳は、呆然と立ち尽くしていたのを、高道は走り寄っていった。

「元気出せって。先輩もいきなりそう言われたからそう答えただけだって」
「……一刀両断だったね。本当に剣道部の主将みたいだった」

 瞳は固まって身動きすら取れなかったというのに、ようやく口が滑らかに動いた。そこには悲しくて泣いているとか、呆然とうわごとのような言葉を述べているとかではなく、ただ笑顔でそう言ってのけた。
 それに高道は肩を竦める。

「そこってもうちょっとこう……泣かない?」
「泣いたら先輩、私のこと好きになってくれるの? それはないよ。だって、脈全然なかったじゃない」
「いやいやいや、一回や二回で諦めんなよ」
「……私は、高道くんみたいにはなれないよ?」

 そう瞳は頑なに言い切った。
 どうにも高道は、瞳からしてみれば「女の敵」に見えているらしい。誰からも言い寄られ、誰の返事も受け付けない。
 ただ女子のことを親身になって話を聞き、女子のことを肯定していたら勝手に好きになられてしまう。それで告白されても、親身になって話を聞いていただけで、恋愛的な意味では全く好きじゃ無かったから断ったら、今度は逆に「タラシ」「女の敵」「ふしだら」と言われるようになってしまった。これではただの風評被害だ。
 瞳は現在、初めての告白で打ちひしがれているまっただ中だ。その中で、しょっちゅう告白されては、それをちぎっては投げちぎっては投げしている人物が慰めたところで嫌みにしか感じられないのだが、残念ながら高道は年不相応に女子の面倒を見ている割には、年相応に鈍感だった。

「先輩にもう一度アタックするか、他に行けばいいじゃん。俺とかさあ」
「ええ……」

 瞳は半眼になって高道を睨んだ。どう見ても「女の敵がなにを言っているんだ」と言いたげな顔だった。
 高道は笑顔を浮かべる。

「俺に行くのが嫌なんだったら、先輩のこともうちょっと諦めるの待てよ」
「……うん」

 瞳はなにか言いたげな顔をしたが、今度こそ黙ってしまった。
 高道はこの女友達がなにを考えているのかがわからない。いや、女子の考えていることのほとんどは得体が知れなくてよくわからなかった。
 どうも触れてはいけない部分には察して感じて触れないように接しないといけないらしい。この世の女子の取扱説明書が存在するとしたら、きっとどんな分厚い辞書よりも硬くて重く、上中下巻で刊行しないと間に合わないだろう。
 そう思うことにした。