「バンドってさ、多分こうやって解散してくんだな」
その言葉は突然落とされたものだったが、大きく驚くことはなかった。なんとなく察していた部分があった。むしろ、やっと言葉にしてくれたか、という気持ちのほうが強かった。感謝とも違う。けれど少し、心が軽くなった気もしていた。
「解散するバンドがよく言う“方向性の違いにより”ってやつ。俺、その気持ちいますげーわかるよ」
「……ああ、うん」
付き合って3年になる私と君。ここ何か月か喧嘩が絶えなかった。些細なことが引っかかって苛立ちが募る。一緒にいるうちに発生した慣れのせいか、だんだんとお互い言葉を選ばなくなっていた。
『お前いつもわがまますぎ』
『あんたって思ってること全然言わないよね』
思いやりにかける言葉ばかりが飛び交って、どちらかが大きくため息をついた時が、その日の喧嘩の終わりの合図だった。数時間も経てばお互いいつも通り話していることもあったが、長引いて3日話さないことも、1週間顔を合わせないこともあった。
私も君も、もうそれを珍しいことと思わなくなってしまっていた。
私たちは心を許し合っていた。楽しいも悲しいも、嬉しいも苦しいも、そのほかにもたくさん同じ感情を共有していた。
だからこそ、甘えていたのかもしれない。
初めて喧嘩をしたとき。付き合ってまだ日が浅かったこともあり、私は嫌われたくなくてたくさん言葉を選んで発言していた。本当はもっとぶつけたい不満もあったけれど、そのまま君に伝えたら嫌われてしまうかもしれないからと声を呑み込むようにしていた。
一緒にいたいから。好きだから。
なるべく傷つけないように、慎重に。
そんな私に、君は言ったのだ。
『俺は、時間がどんなにかかってもお前の白いとこも黒いとこも全部わかってたいし受け入れてたいって思う。だからお前もさ、俺のこと簡単に諦めなんなよ。寂しいだろ』
君がそう言ったから。そのおかげで私は自分自身をさらけ出すことができた。ありのままの私で、君と笑うことができていた。
たのしかった。とても、しあわせだったのだ。