私を満たして

「な、んでここに、、、、、。
えっ。どういうこと、、?
だって休みって先生が、、。え?」

「あはは、パニクってるな。」

「だ、だって、。」

パニクるだろう。今日は来ないって思ってたし、もしかして私のせいかな、とか、、。
それに、あんなこと言っちゃったし、、。
お、思い出してきたら恥ずかしくなってきた。

「顔真っ赤だぞ。どうしたんだ?
もしかして、さっき自分が言ってた事でも思い出したか?」

そう言って、意地悪に笑った。
カァーッ。なんてこと言うのっ!
さらに真っ赤になった私は、高野くんを睨んだ。
高野くんはこんなことを言うような人だっただろうか。
そ、そんなことより、聞かれてしまったからにはどう誤魔化せばいいのか。
そんな私の心を読んだかのように高野くんは言った。

「誤魔化すなよ。」

真剣で、有無を言わせない力があった。
思わず私は返事をしてしまった。

「わ、分かった。」

「ん。それでいい。」

「っ!」

なんだかいつもより優しく甘い声に驚き、動揺してしまった。
だが、ここで揺らいでどうするんだ。
何を言われようが、揺らいではならない。

「なあ、俺はお前が好きだよ。
この世界で誰よりも、お前を愛してる。」

「、、、。」

うん、私も。心のなかで呟いた。

「だから、お前がお前を満たしてくれる人を探しているなら、俺がなる。なってみせる。
お前を必ず満たしてみせる。
俺しかいらないと思えるくらいに愛でお前を酔わせてやる。
どんなやつより、お前を愛してるから。
だから、お前も俺を満たしてくれないか?」

いたいくらいに伝わってくる。
ものすごいたくさんの愛が。
溺れてしまいそうなくらい、重い愛。
でも、、、。

「私には無理だよっ!
高野くんを、君を、満たせないっ!
救ってあげられないっ。
私じゃその深い悲しみや闇を受け止めてあげれない。包みこんであげられない。
無理なんだよ。私じゃ到底、、、。」

「お前は、そこまで分かってたのか。
やっぱりお前しかいないな。こんな極上の女は。
知ってるか?
俺は、お前が俺の側に一生いてくれるだけで満たされるんだ。
俺の話を聞いてくれるだけで、どんどん心が満たされていくんだ。
それだけ、愛してるんだ。」

「ほ、本当に?そんなことで、いいの?」

「俺にとっては、一番重大なことだ。」

そっか。そうなんだ。
高野くんのお陰で分かったかもしれない。
私は欲していたんだ。
誰かの愛を。温もりを。
愛おしい人が、そばに居てくれるだけでいいんだ。
だったら私も、、、。

「そばに居たいっ!高野くんのそばにっ!
高野くんが好きだから、愛してるからっ!」

世界の誰よりも、君を欲してる。

「ああ、俺もだ。
だけど、俺の愛は重いから途中でリタイアなんて事は許さないからな。」

「あたりまえじゃんっ。
そ、それに、私の愛だって十分重いから覚悟しといてね!」

「それは、楽しみだ。」

ふふっ。心がぽかぽかする。
空いていた穴が塞がっていく。

「愛してるよ。頑摩。」

「っ!ああ、俺も愛してる。満(みちる)。」

満、私の名前。大嫌いだった、私の名前。
でも今は、とっても自慢の名前になった。


愛を貰うのは、とても簡単で難しい。
私はそれを手に入れた。
きっとこれほど幸せな事はないだろう。
でも、私は欲深い。
もっともっと欲しいんだ。

だからね、頑摩。
私をもっと満たして。
そうしたら、私も君を満たすから。




音楽室で響いた音色は、幸せで、欲にまみれた愛の旋律だった。