私を満たして

登校して授業を受けて放課後になったら音楽室。
そこで高野くんと二人、音楽で会話する。
二人ともすっきりしたら下校する。
これが日常になった。
特にお互い声を発することはないが、私にとって静かで落ち着くひとときだった。


今日も放課後になり、音楽室へ。
少しすると、高野くんが来た。
でも何だか今日は雰囲気が違った。
真剣で、緊張している顔つきだった。
それを見た途端、とてつもなく嫌な予感がした。
だけど、私はそれに気付かないふりをした。
でもどうしても、ひしひしと伝わってくるそれに耐えられなくなってきた。
嫌だ、嫌だ。ここに居たくない。
ついに席を立ち、退室しようとした、、が、
高野くんに腕を捕まれてしまった。
そして目で訴えてくる。逃がすものかと。

「どうしたの、高野くん。」

なるべく動揺を隠しながら聞いた。

「お前に、伝えたい事があるんだ。」

なんだろう。首を傾げると高野くんは言った。


「お前が、好きだ。
入学当初からずっと好きだった。
俺と、付き合ってください。」

「!!」

正直驚いた。
だって高野くんはポーカーフェイスだし、何を考えているのか分からなかったから。

でも、ごめんね。
「私は高野くんが大嫌い。
そのポーカーフェイスも、人当たりの良さも、優れた頭脳も、全部全部大嫌い。」

「っ!」

嫌い、嫌い、大嫌い。
そのかっこいい容姿も、驚いた時に眉が少し寄る癖も、面白い時にうっすら上がる口角も、全部全部大嫌いで、

大好きだ。大好きなんだ。
どんどん私を好きにさせる君は妬ましい。
認めたくないのに、無意識のうちに目で追ってしまうのだから仕方ない。
だからこそ、、、、、。

「高野くん、私はいつも心が空っぽなの。
それが苦しくて苦しくて堪らないの。
だからね、私は私を満たしてくれる人を探してるんだ。

高野くんは、私を満たせる?」

その告白は受け入れられない。

「、、、、、。」

高野くんは呆気にとられたような顔をして、口をパクパクさせていた。
そりゃそうだ。

「返事はいらない。
じゃあね、さよなら高野くん。」

そう言って、私は音楽室を出た。



私を好きになってくれてありがとう。
私も好きだよ。

でもね、私じゃ君は救えない。救えないんだよっ。