湊が家に帰ると、明美が玄関で出迎えた。

 恥ずかしそうに、赤いドレスのスカートをヒラヒラさせながら、

「どう?可愛いでしょ?
ネットで買ったのよ。
今週の日曜日、二人でデートに行くでしょ?
だから買ってみたんだ♪」

と嬉しそうに言った。

 何でそんな目立つ服にするかな。
と思いながら、明美の嬉しそうな顔を見て悪い気はしなかった。

「うん、似合う、明美は綺麗だよ。」

 そう言えば、社長が気を利かせて「たまには二人でデートに行きなさい。夏帆ちゃんの面倒は私が見るから」と言っていた事を思い出した。

「そう言えば、湊に荷物届いてるよ」

 明美は湊の言葉に恥ずかしそうな顔をしながら、足元の段ボールを指差した。

 平べったい大きな段ボールが置いてあった。

「ああ、そうだ。明美に見てほしいものがあるんだ」

 段ボールを開け、部品を取り出すと、素早く組み立てベビーカーが完成した。

「これで夏帆と買い物に行こうと思って」

「でも、、外に出て誰かに見られたら‥」

「大丈夫、大丈夫。1時間くらいで帰って来る」

 明美の心配をよそに、湊は夏帆をベビーカーに乗せ、近所のスーパーに出掛けた。

 ベビーカーで娘と散歩に出てみたかったのだ。

 スーパーはまだ夕飯の支度には早いのか客がほとんどいなかった。

 これなら心配はいらないな。

 買い物の途中で、トイレに行きたくなったのでベビーカーをトイレの入り口に止め、用を足しに行った。

 完全に油断していた。

 僅か5分間の事だった。

 湊が戻って来るとあるはずのベビーカーが無くなっていた。

 夏帆がいない!!

 湊は青ざめた。

 近くにいた二人組の女性に聞いてみた。

 5分前に、帽子にパーカー姿の男がベビーカーを押して去って行ったが、その後何処に行ったかはお喋りに夢中になって見ていないと言う。

 湊は青ざめた顔で辺りを探し回った。

 スーパーの店内、店の周りの何処を探しても見つからない。

 心配した店員が店内アナウンスをしても何の情報も得られなかった。

 何で目を離してしまったんだろう。

 営利誘拐か、嫌がらせか、ストーカーの仕業か。

 店員は「警察を呼びましょうか?」と言ったが、夏帆の存在は秘密なので、警察に届けるのを躊躇った。

 とりあえずその前に、明美に連絡をしなければと、ポケットに手を入れた。

 ‥‥携帯が無い!

 何処を探しても無かった。

 踏んだり蹴ったりだ。

 湊はしゃがんで頭を抱えた。

 と、突然、あ!っと叫んで立ち上がった。

 思いついた!!

 夏帆も携帯も見つける方法を。

 買い物中に、携帯をベビーカーの中に置いた事を思い出したのだ。

 携帯のGPS機能を使ってパソコンで携帯の位置を特定出来る。

 湊は家に戻った。

 玄関で明美を呼んだが返事はなかった。

 出掛けているのか?

 直ぐ戻ると言ったのに。

 自分の部屋からノートパソコンを持ち出し、家を出た。

 直ぐに場所が特定され、その家の前まで来た。