娘の名前は「夏帆(かほ)」と名付けられた。

 最初は面倒臭そうに見ているだけの湊だったが、1ヶ月もすると夏帆の面倒をみるようになった。

 おむつも替えたし、明美が家事をしている間は湊が夏帆を抱きあやした。

「明美、お風呂は俺が入れるから」

 そう言ってお風呂は湊の担当になった。

 湊が家にいるときはできるだけ夏帆のお世話をした。

 夏帆を大事に育てた。

 こういう生活も悪くない。

 湊が成功によって失った何かがここにある気がした。

 三ヶ月くらい経つと夏帆が可愛い笑顔を見せてくれるようになった。

 明美も話しかけるたびにニコニコする夏帆にキスをした。

 明美との生活でわかったことがあった。

 明美は料理がうまい。

 それによく尽くしてくれる。

 芸能界の女の子はたいていやってもらうことが当たり前と思っている子が多く(港の偏見であるが)このように尽くしてくれる人が一人もいなかった。

 あ、昔一人いたか。

 誰か思い出せないが。

 成り行きでこうなったが、
湊は三人で暮らす日々が愛おしく思えてくるようになっていた。

 その頃から、家の近くをウロウロしている人物を頻繁に見るようになった。

 帽子にパーカーのトレーナー、ジーンズ姿で、湊を見るとその場から立ち去って行く。

 社長からもそういった男が家の周りをウロウロしている事を聞いていたので、注意していたのだ。

 記者が気がついてかぎ回っているのかも知れない。

 湊は後をつけられないように用心して帰る事にし、明美にも気をつけるように言った。