それから三週間経ち、そんな事も忘れかけた頃だった。

　映画の打ち合わせをするため、スタッフと会議室でミーティングをしていた。

　白熱するミーティングの最中、湊の携帯から着信音が聞こえた。

　SNSの着信音だ。

　湊は鞄から携帯を取り出した。

　メール内容が画面に写し出される。

　明美「お話があります」

　思わず机の下に携帯を隠す。

　なんで？なんの用だ？

　そう言えばSNSのアドレス交換したんだっけ。

　続けてメール着信音が鳴った。

　机の下で携帯を傾け、チラリと画面を見る。

　明美「私、妊娠したみたい。」

　湊は、ゴトゴトッと携帯を落とした。

　あまりに大きな音なので、スタッフの動きが止まる。

「どうかしたんですか？」

　湊は俳優としての技量を全力で使った。

「社長に呼び出しくらって。
すみません。ちょっと行って来ます。
一時間、良いですか？」

　そう言うと、スタッフも

「じゃあ、休憩にしようか」

と立ち上がった。

　すみません、と頭を下げると急足で出て行った。

　移動中、メールで待ち合わせ場所を決めて明美と会う約束をした。

　近くの個室のある料理屋である。

　打ち合わせをする時によく使っている。

　直ぐに明美がやって来た。

　明美は個室に入るや否無表情のまま、
鞄から妊娠検査薬を取り出し、
湊の目の前にかざした。

　判定窓にはっきりと赤紫色の縦ラインが浮かんでいた。

　湊はゴクリと唾を飲み込んだ。

「間違えって言う事もあるだろう？」

　明美は湊の言葉を遮るように、
妊娠検査薬を三つ机の上に並べた。

「三回測ったから！」

　三つの赤紫色の縦ラインが湊に引導を渡すようにこちらをジッと見つめていた。

　しばらく黙っていたが、

「ちょっと待てよ。
まるで記憶がなくて。
今、そう言うの困るから。
ドラマの撮影も始まっているし」

「困るって言われても、
そういう事だから！」

　明美はそう言うと
妊娠検査薬乗った机をバンッと叩いた。

　そうして目を剥いて言った。

「おろさないから。」

　明美の眉間の皺が強い決意を表していた。

「どうして欲しいんだ？
養育費か？」

「そういうんじゃないでしょ！
男の責任の取り方って！」

「結婚‥か？」

　頷く明美。

　冗談じゃない。

　今、結婚なんて。

　第一こんなよく分からない女と結婚なんて出来るか。

「そういう話は事務所を通してくれないかな」

　そう言って名刺を渡して帰って来た。

　また事務所が上手にもみ消してくれるだろうと軽く考えていた。