社長に呼ばれ社長室に入る。
社長から映画が封切りされ上々の滑り出しと聞かされ、ホッとした。
社長室から出ると事務所の先輩俳優の田崎五郎が声をかけてきた。
田崎は50代のベテラン俳優で、今でも恋愛ドラマで主人公の女性の相手役に選ばれるほどの、若々しい端正な顔立ちをした俳優だ。
しかし田崎の評価は顔立ちより、演技力の高さに定評がある。
ちょっとした表情、仕草に全ての感情が表現されており、それでいて男から見ても色気のあるのである。
檜山は田崎のような俳優を目指しており、尊敬すべき大先輩である。
「お前、彼女と別れて落ち込んでるそうじゃないか。
俺がこれからいい店に連れて行ってやるから、ついて来い!」
湊は田崎に誘われ、田崎自慢のポルシェに乗った。
「どうだ。凄いだろう、この車‥‥」
田崎の車の蘊蓄を聞きながら、窓からビルの壁面に掲げている『君といた夏』の宣伝用パネルを見上げていた。
パネルにはデカデカと、湊の悲しげな姿が写っていた。
「ああ、ここだ。あったよ」
と田崎が看板を指差した。
看板には
「高級クラブ『ラバーズ』」
と書いてあった。
「田崎さん、ここって‥」
「女と別れた時は、また恋愛すればいい」
檜山はこういう店に来るのは、初めてだった。
興味が無かった訳では無いが、お金を出して女性と話すだけのサービスに特別、魅力を感じていなかったからだ。
タブレットから気に入った女性を数人選び料金を先払いして個室で接待を受けるのが、この店のシステムだった。
タブレットの写真には美しく色気のある女性が並んでいる。
一人だけ雰囲気が違う女性がいた。
美人だが垢抜けていない素朴な感じの女性だ。
こういったお店には似つかわしくない感じがした。
「明美‥」
彼女の名前だ。
「どうだ?決まったか?」
田崎は待ちくたびれたと言わんばかりにアクビをした。
「あ、はい!」
湊はその女性を選択した。
「お客さま。その子は本日初仕事なので、どうか優しくお願い致します」
店長はニヤニヤしながら、そっと耳打ちをした。
明美が部屋に入って来た。
写真のイメージ通り美人だが何処か垢抜けない感じがした。
「よ、よろしくお願いします」
明美が深々と頭を下げた。
緊張が隠せないようで、手が震えている。
新鮮な感じがして、悪い気はしない。
「じゃあ、料金は払ってあるから後はよろしく。楽しめよ。」
笑いながらそう言うと田崎は贔屓の女性と個室に入って行った。
まあ、プロだから演技もあり得るなと思いながら、湊も彼女と個室に入って行った。
お酒とつまみをオーダーし、明美にも勧める。
明美はお酒は初めてらしく飲んだ途端咳き込んだ。
「だ、大丈夫です。私強いので」
どこが?と思いながら湊は笑ってしまった。
話をしてみると、どうやら湊の事を知らないようだ。
しばらくすると明美も笑顔を見せるようになった。
その柔らかい笑顔に、芸能界の女性とは全く違う居心地の良さを感じていた。
懐かしさのような、ホッとするような、自由だった頃を思い起こさせる。
服の趣味も合い、共通点が多く、話が弾んだ。
いつしか湊は飲み過ぎて記憶が飛んでしまっていた。
社長から映画が封切りされ上々の滑り出しと聞かされ、ホッとした。
社長室から出ると事務所の先輩俳優の田崎五郎が声をかけてきた。
田崎は50代のベテラン俳優で、今でも恋愛ドラマで主人公の女性の相手役に選ばれるほどの、若々しい端正な顔立ちをした俳優だ。
しかし田崎の評価は顔立ちより、演技力の高さに定評がある。
ちょっとした表情、仕草に全ての感情が表現されており、それでいて男から見ても色気のあるのである。
檜山は田崎のような俳優を目指しており、尊敬すべき大先輩である。
「お前、彼女と別れて落ち込んでるそうじゃないか。
俺がこれからいい店に連れて行ってやるから、ついて来い!」
湊は田崎に誘われ、田崎自慢のポルシェに乗った。
「どうだ。凄いだろう、この車‥‥」
田崎の車の蘊蓄を聞きながら、窓からビルの壁面に掲げている『君といた夏』の宣伝用パネルを見上げていた。
パネルにはデカデカと、湊の悲しげな姿が写っていた。
「ああ、ここだ。あったよ」
と田崎が看板を指差した。
看板には
「高級クラブ『ラバーズ』」
と書いてあった。
「田崎さん、ここって‥」
「女と別れた時は、また恋愛すればいい」
檜山はこういう店に来るのは、初めてだった。
興味が無かった訳では無いが、お金を出して女性と話すだけのサービスに特別、魅力を感じていなかったからだ。
タブレットから気に入った女性を数人選び料金を先払いして個室で接待を受けるのが、この店のシステムだった。
タブレットの写真には美しく色気のある女性が並んでいる。
一人だけ雰囲気が違う女性がいた。
美人だが垢抜けていない素朴な感じの女性だ。
こういったお店には似つかわしくない感じがした。
「明美‥」
彼女の名前だ。
「どうだ?決まったか?」
田崎は待ちくたびれたと言わんばかりにアクビをした。
「あ、はい!」
湊はその女性を選択した。
「お客さま。その子は本日初仕事なので、どうか優しくお願い致します」
店長はニヤニヤしながら、そっと耳打ちをした。
明美が部屋に入って来た。
写真のイメージ通り美人だが何処か垢抜けない感じがした。
「よ、よろしくお願いします」
明美が深々と頭を下げた。
緊張が隠せないようで、手が震えている。
新鮮な感じがして、悪い気はしない。
「じゃあ、料金は払ってあるから後はよろしく。楽しめよ。」
笑いながらそう言うと田崎は贔屓の女性と個室に入って行った。
まあ、プロだから演技もあり得るなと思いながら、湊も彼女と個室に入って行った。
お酒とつまみをオーダーし、明美にも勧める。
明美はお酒は初めてらしく飲んだ途端咳き込んだ。
「だ、大丈夫です。私強いので」
どこが?と思いながら湊は笑ってしまった。
話をしてみると、どうやら湊の事を知らないようだ。
しばらくすると明美も笑顔を見せるようになった。
その柔らかい笑顔に、芸能界の女性とは全く違う居心地の良さを感じていた。
懐かしさのような、ホッとするような、自由だった頃を思い起こさせる。
服の趣味も合い、共通点が多く、話が弾んだ。
いつしか湊は飲み過ぎて記憶が飛んでしまっていた。