湊と夏海は薫の家を出た。

 夏帆とはいつでも会えるようにしてくれた。

 旦那さんに正直に話すと言っていた。

 女性というのは男以上に多感だ。

 複雑な感情が絡み合って動けなくなってしまう事だってある。

 湊は己の思いやりのなさを反省しながら、
我が家に帰って来た。

 夏海はドアを開け、夏帆のいない部屋を見渡しながら、溜息をついた。

「こんな怖い女、別れたくなったでしょ?」

 夏海が、顔を見せないように後を向く。

「バカ‥」

 そう言って、湊は後ろから夏海をそっと抱きしめた。

「ミーくん‥?」

「俺は成功と控えにお前を捨てたんだ。
謝るのは俺の方だ。
ごめん‥」

 夏海は肩を震わせていた。

「後悔しているのはお前だけじゃない。
お前と引き替えに得た日々より、お前と過ごした日々の方が何倍も幸せだった。
今更、気付いた。
遅すぎたかも知れないけど。」

 夏海の啜り泣く声が聞こえた。

「あの時の約束、まだ覚えてるなら聞いて欲しい。
結婚してください、
俺と。」

「忘れるわけないじゃない」

 夏海はハンカチで目を覆っていたが

「全然止まんないよ」

と唇を震わせて号泣した。

 湊は夏海を自分の方に向かせキスをした。

 夏海は湊の首に腕を絡ませて、湊の気持ちに答えた。

ーーーーー

 次の日の朝、

 ベットから起き上がった湊が、ふと言った。

「夏帆が居なくなって寂しくなったな。」

「じゃあ、夏帆の兄弟を作ればいいのよ」

 そう言うと再び湊の首に腕を絡ませてベットに引き込んだ。

「変わったな。夏海」

 湊が苦笑すると、

夏海は、湊の目をジッと見つめて、

「母は強いのよ!」

と言って笑った。





(おわり)