前回のあらすじ
人間らしい空腹感や、なかなか釣れず焦れるウルウなどがお楽しみいただける回でした。
嘘は言っていない。
いやあ、美味しかったですねえ、お昼ご飯。
たまにはこういう、手の込んでない塩焼きみたいなのもいいものですね。
と言うか最近手の込んだものばかり食べてたような気がします。トルンペートのご飯は美味しいので文句はないんですけれど、近頃野営とか野外での食事少ないので、冒険屋として大丈夫かなと少し不安です。
都市型の冒険屋としては間違ってないんでしょうけれど、旅型の冒険屋を目指す私としてはちょっと問題です。
まあそれはそれとしてご馳走様でした。ウールソさんが大量に釣ってくれたおかげで夕餉まで持ちそうです。
「私も釣ったんだけど」
「普通の釣竿でよく釣れましたよね」
「一匹だけだけど」
「私はああいう風にじっとしてるの落ち着かないので」
「リリオ殿は毛針の方がよろしいかもしれませんなあ」
さて、そんな風にお昼ご飯を終えて小休止に入った私たちですが、トルンペートは勤勉なことで、薪が足りないかもしれないので取ってくると席を立ち、ウルウも釣りで体が強張ったから歩いてくるとそれについていきました。
じゃあ私もと立ち上がろうとすると、あんたは鍋見ときなさいと火の番を命ぜられてしまいました。うにゅう。でも美味しいご飯のためには仕方がありません。
火は強すぎず、弱すぎず、コトコトとじっくり煮込みます。水が減れば足してやり、肉の具合を竹串で刺して確かめます。
角猪の肉は、普通の猪の肉よりも大分かたいです。しかし本当にじっくり焚いてやると、これが恐ろしくとろっとろに柔らかくなってくれるのです。《黄金の林檎亭》の角猪が懐かしいですねえ。
今日のお鍋はあれほどまでに手の込んだことはしませんが、それでも美味しいお鍋になる予定です。
私がそうしてそわそわと火の番をしていると、ウールソさんがのっそりと鍋を挟んで向かい側に腰を下ろしました。
「すこし、お話してもよろしいかな」
「え? ええ、はい、構いません」
「では作麼生」
んん、聞いたことあります。
神官の使う掛け声ですね。
「説破!」
「うむ、うむ。ではお尋ねし申すが、何故にリリオ殿は冒険屋を目指されるのか。作麼生」
「ん、説破。もともとは母に憧れてでした」
「メザーガ殿の従兄妹であらせられるという」
「そう、その人です。母はもともと南部で冒険屋をやっていたそうです。それが依頼で辺境までやってきて、父との大恋愛の末に結婚したのだとか」
「その母君に憧れて」
「ええ。長い冬の間、母はよく私を抱き上げて、冒険屋だった頃のお話や、また旅の間に見聞きした様々な冒険や旅のお話を聞かせてくれました。それが幼心に染みわたっていったんでしょうねえ。今や私もすっかり冒険屋馬鹿です」
「それが他人を巻き添えにしての事であってもですかな」
「え?」
「実際、リリオ殿は仕事で仕えているトルンペート殿を巻き添えにし、道中出会っただけのウルウ殿もその旅の巻き添えにしようとしておられる。リリオ殿の旅は他人を巻き添えにしても良いというほどのものでありますかな」
作麼生、と低い声が胸に響きます。
巻き添え。
今までそのような考え方をしたことはありませんでした。
私にとって旅というものはずっと待ち望んでいたものでした。辛くて、しんどくて、もう疲れたって思うときは何度もありました。でもやめたいと思ったことはありませんでした。
私にとって冒険屋とは夢であり、憧れであり、それ以上に地に足のついた現実でした。
私にとって冒険屋を目指すことは当然の事であり、冒険屋として生きていくことは他に選ぶものなどない確たる進路だと思ってきました。
しかし私についてきてくれる二人はどうでしょう。
トルンペートはもともと私のお目付け役として付いてきてくれたものです。
私はトルンペートの事を姉として慕い、トルンペートも私を妹としてかわいがってくれます。
しかし厳然たる事実としてトルンペートはドラコバーネ家に仕える武装女中であり、それはつまり当主である父に仕えるということであります。
私の冒険屋稼業に付き合ってくれるのは、父から与えられたお目付け役の任を全うするためであり、本当はいっしょに辺境に帰って欲しいとそう思っているのかもしれません。
ウルウはどうでしょうか。
ウルウの旅の目的を、本当のところ、私は知りません。
ウルウはきっと一人でも何でもできて、一人でもこの世界を歩き回れることでしょう。
それでも私についてきてくれるのは、私がウルウの知らない世界の案内役としてちょうどよいという、ただそれだけの事です。ウルウは言いました。美しいものを見たいと。君がそうであるならば、そうであるうちはいっしょにいてもいいと。
ウルウが案内役を必要としている以上に、私が望んで旅についてきてもらっているのでした。
私の旅は、二人を巻き添えにしてもいと思えるほどのものなのでしょうか。
なんて。
答えは決まっています。
「説破! 二人がついてきてくれるのは嬉しいことです。でも私は二人に無理強いしたことはありません。二人がついてきてくれるのは二人の事情や二人の意志からであって、私なんかの巻き添えではありません。私が旅を続ける上で一緒にいてくれたらどんなにか心強いことかと思います。でも、もしも二人が望まないのであれば、私は一人でも旅を続けるでしょう」
それはきっとどこまでも寂しくて、心折れるほどにつらい別れでしょう。
けれど、それでも、だけれども、私は冒険屋になると心に決めたのでした。
だってそこには、きっと美しいものがあるのだと、そう信じられたから。
「ふむ、ふむ。成程。左様ですか」
ウールソさんはじっとわたしを見つめて、それから熊のように恐ろしい目を細めました。
「では、御父上やメザーガ殿はどうか」
「父や、メザーガですか?」
「御父上はもちろん、メザーガ殿もリリオ殿のご家族と言ってよい。この二人はどちらも、リリオ殿が冒険屋になることをよしとされていない」
「それは……そうですけれど」
「メザーガ殿は単に危険であるからこれをよしとしておられない。成程、これはリリオ殿も承服しかねるものでしょう。しかし一方で御父上はどうか」
「父が、何か?」
「聞けばリリオ殿は辺境の出。辺境と言えば臥竜山脈より沸きいずる悪竜どもを押しとどめるもののふたちの土地」
「その通りです」
それは誇らしく、気高く、名誉なことだと思います。
「御父上からすれば、リリオ殿がその辺境から旅立つということは、悪竜どもを切る刃が一本足りなくなるということではあるまいか」
「む、ん……それは」
「作麼生」
これもまた、考えていない事でした。
父の偉大さや、兄の優秀さ、また頼れる人々に任せっきりで、では自分が欠けた後はどうなるのかということを考えてはいませんでした。
私はまだまだ未熟な身です。それでも、大具足裾払の剣を一振り託された剣士が一人、護りの柵から抜け出るということはどれだけの損失でしょうか。
父は私にそのようなことは言いませんでした。
言わずとも理解してくれているとそう思っていたのでしょうか。
いえ、あるいはそれは無言の後押しだったのかもしれません。表立って応援することはできない。しかし娘の夢のためならば情けないことなど言えぬと、そういう覚悟の上での後押しだったのかもしれません。
そういった今まで考えてもいなかったことを思うに至っても、しかし不思議と私の中の覚悟はこれっぽっちも変わることがありませんでした。
一人で、あるいはトルンペートと二人で旅をしている時であったら、この武僧の問いかけに詰まり、故郷へと帰る道も考えたかもしれません。竜たちと戦う日々を選んだかもしれません。
しかし、今の私にはそれでも冒険屋として旅に出たい、もう一つの理由ができていたのでした。
「説破。それでも私は旅に出ます」
「フムン」
「だって……ウルウに格好いい所見せたいですもん」
「は、ははははは、は。成程。成程」
ウールソさんは高らかに笑って、膝を打ちました。
「成程。同じ情でも、家族の情ではこの情には勝てませんなあ」
前回のあらすじ
ウールソの怪しい質問攻め再び。
元気いっぱいに応えるリリオだったが。
薪が足りなくなりそうだからと柴刈りに出かけたら、何故だかウルウもついてきた。ぼんやりしていることが多いから何時間でもそうしてられるって勘違いしやすいけど、なんだかんだこいつ暇潰しにうろちょろしてるのよね。
いまだってあたしの柴刈りを手伝っているわけじゃなくて、山の中の変わった動植物を観察に来ましたって風情で、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ、気づいたらすぐそばに戻ってきているっていうのを繰り返してる。
あたしにはいったい何が楽しいのか全く分からないけど、まるで生まれたての赤ん坊みたいに、こいつは何にでも興味を示す。なんでも口に入れたりしないだけましだけど、危険なものでも気にせず手を出すから怖い。
「トルンペート」
「なによ」
「これ何」
「危ないからポイしなさい」
「はーい」
冗談じゃなく、こういう会話が結構頻繁にある。
つい今しがたも爆裂団栗を拾って持ってきて、危うく胆が潰れるかと思ったわ。幸いすぐに放り捨ててくれたから、遠くで炸裂してくれたけど。握りしめたままだったら指が吹っ飛んでたかもしれない……って自分で言っておきながら、こいつがそういう怪我を負うところがちょっと想像できない。
こういのは、あれよね、あたしだけ黒焦げになって、こいつはしれっとして「危ない危ない」とか言ってそう。
しばらくしてくればウルウも危険というものをある程度認識してくれたようで、何か見つけた時は触らずにあたしに聞いてくれるようになった。
あたしからすればどうしてこんなものを珍しがるんだろうというくらいあり触れたものから、山に慣れたあたしでも珍しく思うような貴重なものまで、ウルウは分け隔てなく見つけては聞きに来る。
そして一度聞いたものはしっかり覚えて、二度と聞きに来るということがない。
ちょっと面白くなって、よく似た外見の団栗を何種類か並べて当てさせてみたら、リリオでも苦労しそうなところを平気で即答して見せた。
一度見たものは忘れないって以前言っているのを聞き流したことがあったけど、もしかしたら本当なのかもしれなかった。
……となると、以前トランプ遊びで勝負した時にやたらと勝率が高かったのも、場に出た札を全部覚えてたからじゃないでしょうね。帝都から最近流れてきた遊びだから、やり方を熟知してるあたし以外は公平だって思ってたけど、ウルウに関しては別みたいね。
あー、というか、リリオだけ勝率が低かったのも、うなずけるわね。
神経衰弱はもう二度と賭けありではやらない方がいいわ、これは。秘蔵の一本取られちゃったし。
それにしても、それだけ記憶力がいいウルウがあれこれ気になって歩き回るというのは、これって不思議だ。
だってそうだろう。
山の中のものは、まあ、ウルウが箱入り娘で外に出たことがなかったと言うことなら、物珍しがって仕方がない。
でもウルウが小首を傾げるものは、むしろ街中の方が多いくらいだ。店先に並ぶ品々で首を傾げないものの方が少ないし、最近あたしにも隠す気がなくなったのか、あれこれ尋ねる内容はごくごく当たり前の事ばかりだ。
街にも降りたことのない余程のお嬢様っていうには、ウルウはどうも洗練されていない。良くてもお金持ちの市民、町民だ。そうしてそういう層にしては、ウルウの能力はずば抜けて優れ過ぎている。
「あんたってさ」
「なに」
「何者なの?」
何となく投げかけた問いかけに、ウルウはしばらく咀嚼するようにじっと考え込んでいた。
「何者なんだろう」
「あたしが聞いてんのよ」
「人間、ではないのかも」
「意外でもないかも」
「えっ」
「えっ」
別に今更ウルウが人間じゃなかったところで、意外でも何でもない。
辺境にはそれこそ人間やめてるのがごろごろいるし、近場でいえばメザーガを始めとして《一の盾》の面子は大概人間やめてる。
でもそういうことじゃなくて、種族として、人族でもなければ、あたしの知ってる隣人種でもないんじゃないかって言うのは、別に意外でも何でもない。
「じゃあなんだと思ってたのさ」
「そういう生き物だと思ってた」
「そういう生き物」
「種族:ウルウ、みたいな」
「あー」
本人も納得するところらしい。
「まあ、なんでも、亡霊らしいよ、私は」
「亡霊?」
「一度死んでるんだって。それでまあ、今の私は亡霊みたいなものなのさ」
「よくわかんない」
「私も」
でも神様がそう言っていたからと言うのには少し驚いたが、でもまあ、ウルウはちょっと神がかったところがあるというか、浮世離れしたところがあるというか、神様に愛されていそうなちょっと儚いところがある。
「早死にしないでよね」
「詩人は早死にするっていうよ」
「あんた詩人じゃないでしょ」
「でもよく笑われてる」
「……あー。あれは詩なの?」
「地元じゃポエットって扱いだったよ」
「ポエット」
「ポエット」
それはなんだか笑える響きだった。
心地よく空気もほぐれて、程よく薪も集まって、私は折角なのでいろいろと、聞いてみたかったことを尋ねてみることにした。こいつと二人きりと言うのは、なんだかんだ珍しいし。
「あのさ」
「なあに」
「なんでリリオなの?」
「なんでって……なんで?」
「なんでっていうか……正直リリオってついていきたいって思える感じじゃないと思うんだけど」
「あー」
あたしみたいに面倒を見るのが幸せみたいなそういう風に調教された生き物でもないと、あっこいつ面倒くせえ、ってなるんじゃないかと思う。
リリオ自身面倒は見る方だし、ウルウもなんだかんだ面倒見はいい方ではあるかもしれないけど、あんまり人付き合い好きそうじゃない、と言うよりはっきり苦手そうだから、べたべたしがちなリリオの相手は辛いと思うのだけれど。
「リリオと会った時の話ってしたっけ」
「えっと……熊木菟相手に矢避けの加護使わないでぼっこぼこにされたって話だっけ」
「それそれ」
あの時は単に阿呆かと思ったくらいだけど、普通に考えてリリオが熊木菟の空爪くらい避けられない訳ないのよね。余程老獪な個体ならともかく、あれって予備動作もあるし、辺境の剣士で避けられないのって恥って言うくらいだし。
「あれさ、私のこと助けてくれたんだよね」
「はあ?」
「わたしぼんやりしてて熊木菟に気付かなくってさ、そしたら、リリオに突き飛ばされて、助けてもらったんだ」
「余計なお世話じゃない?」
「私のこと知ってたらそうかもしれない」
まあ、そうか。
いまでこそ、こいつ背後から酒瓶で殴りつけても平気で避けるってことあたしたちは知ってるけど、そうと知らなければただのひょろ長い嬢ちゃんに過ぎない。
「まあ、私のこと知ってても同じことしたと思うけど」
「あー、そういうとこあるわよね」
「だからかなあ」
「なにがよ」
「なんでって話」
「なんでって……あー、なんでリリオっていう話?」
「そう、それ」
「なにそれ。白馬の王子様に助けられてドキッとしちゃったやつ?」
「目の前でさっきまで笑顔だった子が血まみれになってきりもみ回転してドキッとしちゃったやつ」
「おうふ」
「放っておいたら死ぬんじゃないかとは思ったよね」
「わかるわ」
「わかりみ」
「わかりみ?」
「わかりみが深い」
「あー……わかりみ、深いわね」
二人してなんだかしみじみと深いねー、深い深いと意味の分からない相槌を打ち合ってしまった。
「でもさ、しばらく付き合って嫌になったりしてない?」
「別にしてない」
「ほんとに?」
「……ちょっとだけ」
「やっぱり」
「距離感がさ」
「あー」
「距離感が、近い」
「あの子べたべただもんね」
「懐かれて嫌なわけじゃないんだけど」
「うん」
「慣れてないから、気持ち悪くなる」
「ごめん、それはわかんない」
「うん」
「いやー」
「なんていうかこう、生き物にあんまり触ったことないから」
「まさかの動物扱い」
「壊しそうで怖い」
「どういうことなの?」
「後たまに壊されそうで怖い」
「あの子真面目に人の骨圧し折ったことあるからね」
「そっちの方が気になるんだけど」
気付けば、いい時間になっていた。
用語解説
・爆裂団栗(Eksprodi glano)
爆裂椚(Eksprodi kverco)の殻斗果、つまりドングリ。
春から夏にかけて気温が高くなると、内部のメタ・エチルアルコールが封入された火精と反応して爆発し、種子を周囲にぶちまける。爆発自体は小規模だが、子供などが手に握ることで温度上昇、炸裂し、指などを吹き飛ばす事例がある。
また、植物でありながら火精を扱う珍しい魔木として研究もされている。
なお、この実自体は渋みが強く、流水で数日あく抜き・火精抜きをしなければ食べられない。
・トランプ遊び
近年、帝都から発信された札遊び。
四種各十三枚の五十二枚、つまりスートと呼ばれる四種類のマークと、一から一〇の数字札とジャック、クイーン、キングと称される字札の組み合わせ五十二枚、それに加えてジョーカーと称される絵札一枚ないし二枚からなる遊び札。
ポーカー、七並べ、神経衰弱などの厳密に規定された遊び方とともに発信されており、課税対象であることからも、かなり計画的につくられた遊戯ではないかと噂されている。
誰かがすでに出来上がったものを持ち込んだようでさえある。ね。
・神様に愛されていそう
我々の世界でも、神に愛されているというのは早逝すること、つまり早死にすることに対して言われる形容だ。
ただこの世界では、神に愛されるというのはしばしば半神などとして召し上げられたり、既知外の神の精神に触れて気が触れたりなど、大いにろくでもない場合が多いが。
・背後から酒瓶で殴りつけても平気で避ける
ウルウの回避能力はゲーム時代の「攻撃に対する回避判定は計算で自動的に算出される」ことからくる自動的な物であり、それが攻撃または危険と判定されれば、見えていまいと気づいてなかろうと反射的に発動する。
それはともかく、背後から酒瓶で殴りつける経験があるというのはどういうことなのか。
前回のあらすじ
マックで駄弁る女子高生のような会話を繰り広げるウルウとトルンペート。
あの口下手なウルウが……快挙です。
トルンペートとの雑談はなかなかいい収穫だった。
私とリリオ、リリオとトルンペートっていう組み合わせは結構あるんだけど、私とトルンペートの二人きりっていう組み合わせは、実のところあんまりなかったからね。それこそ、一番初めの頃の、二人で仲直りした時くらいじゃなかろうか。
別に仲が悪いってわけじゃない。
多分、単純に付き合いやすさで言ったら、私はリリオよりトルンペートとの方がやりやすいはずだ。
でも実際のところは、リリオは何かと黙り込みがちな私の面倒を見ようとするし、トルンペートはそのリリオの面倒を見るのが好きでたまらないマゾヒストだし、そうなると私は別に何もしなくても満たされてしまうのでこれと言って仲が進展しなかっただけだ。
だから今日、これと言った目的もなく、中身もない、本当に雑談のための雑談と言った会話ができたのはちょっと嬉しい。私にもちゃんと会話ができるのだという自信が持てた。心療内科の先生に話したらおめでとうと言われる快挙じゃなかろうか。
思えばあの人も今となっては懐かしいな。当時は正直薬だけくれという気分だったが、まともに会話をしていたのはあの人くらいだったように思う。
さて、山と担いだわけでもなくインベントリに薪を突っ込んで帰ってきた私たちは、早速夕飯の猪鍋の準備に取り掛かった。
正確にはリリオとトルンペートが。
私に任せると彼女たち曰くの「四角四面の味」がするらしいから、私は食べるの専門で行こう。
とはいえ、さてどうするかな。
二人がいろいろ準備しているのを見るのはそれはそれで楽しいけれど、でも人が仕事しているのに自分がぼうっとしているのは何とも手持無沙汰感がひどい。
リリオたちは私のことをワーカーホリック扱いするけれど、私からすればこの状況で平気でいられるのは人として感性がおかしいと思う。まあ育ちの違いかもしれないけど。
またどこかふらついてこようかなと思っていると、隣にどっかりと岩が座り込んだ。
違った。巨漢の武僧、ウールソだ。
つるりとそり上げた頭に、一方でごわりと豊かな顎髭。それに熊のものであるらしい獣の耳に、いかつい顔。成程、熊の名を持つだけあるなと思わせる。
「少しお話をしてもよろしいかな」
「面接の時間かな」
「はて?」
「実技試験の後に口頭面接ってのは初めての流れかな」
「ウルウ殿は慣れておられるのかな」
「職種は違っても、ね。これでも二十六だし」
今日一番驚かれた。
「ウルウ殿は長命種であられるか」
「響きから想像はつくけど、多分違うと思う」
「これは試験とは関係ありませぬが、実際のところウルウ殿は、ふむ、何と申したものかな」
「何者かって?」
「端的に申せば」
「そうだね。亡霊なのさ」
「亡霊」
「一度死んで、いまだって生きているようなものかよくわかりもしない。亡霊だよ」
「フムン」
「それこそトルンペートあたりが言ってたんじゃないかな。種族:ウルウだよ」
「成程」
さて、まあ会話は温まった、とみていいんだろうか。いまだに空気の温度はよくわからない。
「本題は何かな」
「そうですなあ。まずは何からお聞きしたものか」
ウールソはしばらく顎髭を撫でながら考え込んでいるようだった。
こうして近くで男性の顔を見る機会と言うのはあまりなかったけれど、なかなか渋い顔立ちだな。《一の盾》の中では一番年食ってそうだけど、渋みもあり、落ち着きもあり、安心感があるな。怖いけど。
「では、そうですな。なぜリリオ殿なのかお聞きしてもよろしいか」
「なぜリリオかって?」
「左様。ウルウ殿があえてリリオ殿にこだわるのはなにゆえか。作麼生」
「ふふふ」
「む?」
「いや、さっきの質問と言い、トルンペートに聞かれたばっかりだ」
「ほう」
「だから今度はもう少し突っ込んだ答えをするとするならば」
私は少し小首を傾げて、言葉をまとめた。
「説破。私がリリオに命を助けられたから、かな」
「ほほう」
私はトルンペートにも話した、リリオに助けられた時の話を繰り返した。
「助けられた、それだけでリリオ殿についていくと?」
「厳密には違うかな。助けられたんじゃない。助けられてるんだ。いまも」
「いまも?」
「私は正直な所、人間というものを信用していない」
いくらか改善されてきたとはいえ、私にとって人間というものは次の瞬間には薄汚れたエゴをさらす生き物でしかない。なぜならそういう生き物だからだ。これは根本的な性質であって、私自身にもそういうところがあり、改善のしようはない。
だから私は人間が好きじゃあない。
これはリリオであっても変わらない。リリオは素直であるからそう言った薄暗い面が見えづらいところはあるけれど、エゴの生き物であることに変わりはない。
エゴの生き物を止めるにはどうしたらいいか。解脱して仏になるか、あるいは死ぬほかない。
「でもねえ、そんな人間であっても、時々まだ生きていてもいいかなと、そう思わせてくれる綺麗なものを見せてくれる時がある」
「それがリリオ殿であると?」
「そう。だからリリオがそういうものを見せてくれる限り、私はついていくよ」
「ふむん」
ウールソはまじまじと私を眺めて、つるりと頭を撫で上げた。
「では冒険屋になりたいというわけでは、別にない」
「そう言ったことは一度もない。ただ、単にリリオについていくのに便利だからそうしているだけだよ」
「ではリリオ殿が冒険屋を止めるとしても、ついて行かれると」
「リリオがそんなことを?」
「さて」
まあ、リリオがそういうことをほのめかす程度でもいうとは思えないけれど。
というか、何となくどういうことを言ったのかわかるけど。
「どうせリリオはやめないって言ってるんでしょ」
「おわかりか」
「何なら理由も当ててあげる」
「では」
「『ウルウに格好悪い所見せられない』とかなんとか、でしょ」
「よくおわかりだ」
「そりゃね」
そりゃあそうだ。
いつもそんなことばかり言っているような気がするし、それに、なにより。
「私もリリオの格好いいところばかり見ていたいからね」
武僧ウールソは目を丸くしてまじまじと私を眺め、それから、少し離れたところの二人が顔を上げるような大きな声で笑い始めた。
「はっはっはっはっは! 成程左様か」
「何がおかしいのさ」
「いやいや、いや。すっかり惚気られてしまいましたなあ」
私は今更ながらに赤面した。
用語解説
・長命種
この世界の種族はみなその種族毎の寿命を持っているが、その中でも特に、何百年、あるいは千年といった長い時を生きる種族の事を特にいう。
前回のあらすじ
ついにウルウにも向けられたウールソの毒牙。
しかしなんと惚気返すことで撃退するウルウだった。
角猪鍋!
何と美しい響きでしょうか。
個人的に帝国美麗句百選に乗せたいくらいです。
粗にして野なれど卑にあらずと言う具合でしょうか。
以前、境の森で作った時は何しろ準備も材料も足りませんでしたから、地物の香草の類と乾燥野菜くらいしか入れるものがありませんでしたが、今日は何しろこの角猪鍋を食べるためだけに来たと言っても過言ではありません。
早速頼りのトルンペート先生をお呼びしましょう!
「結局人頼りなんじゃない……ま、いいわ。はじめていきましょ」
まず最初に、キノコの選別と処理からですね。
キノコの数はたくさんありまして、中には毒キノコと食用キノコの見た目がそっくりというものもよくあります。
こういうのを区別するには、まず齧ってみて舌が痺れたら、
「そういう蛮族式判断方法はやめなさい」
怒られました。
「毒キノコかそうじゃないかは、特徴をしっかり覚えておくことが大事ね。それで、毒キノコの可能性があるものは全部弾いちゃった方が安全よ。区別があいまいだなーってものは全部弾く。これ大事」
「つまり私なら食べるかもなって思ったものはやめた方がいいんですね」
「よくわかってるわね蛮族」
「むがー!」
とはいえ、毒キノコは本当に危険ですからね。
この私であっても二、三日動けなくなることもざらなので、気を付けなければなりません。
「ざらって言えるくらい毒キノコ食ってんのよねあんた」
「毒キノコ博士とお呼びください!」
「なんで死なないのかしら」
「博士にもわかりません……」
さて、本日採れたキノコを並べていきましょう。
まずは石茸。
いきなりいいやつ来ました。
名前の通り石のように固く良く締まったキノコなんですけれど、香りがいいんですねえ。とはいえ、香りの表現って難しいですね。甘いようでもあり、香ばしいようでもあり、新鮮な土の匂いのようでもあり。
さて、お次は、これは黒喇叭茸ですね。トルンペートの名前をとった鉄砲百合と同じ、楽器の小號が名前の由来ですね。黒くて細長い変わったキノコで、こりゅこりゅくにゅくにゅした歯ごたえで、乳酪のような香りが楽しめます。
ウルウはちょっと味見して、ヨウフウキクラゲとかいってましたっけ。
作茸はどこでもよく採れるキノコですね。白いのだったり茶色のだったり。丸っこく可愛らしいキノコですね。大きく育ったものは肉厚で食いでがありますけれど、大体すでに猪だったり熊だったりに食べられてますので、ちっちゃいので諦めましょう。
ほんとどこにでも生えててどこでも採れるキノコで、煮物にはとりあえず放り込んどけというくらい出汁が取れます。煮てよし、焼いてよし、白の若いものなら生でも食べられます。
牡蠣茸は名前の通り、牡蠣みたいな平らな形に広がるキノコなんですね。もうちょっと暖かい地方のキノコと思ってましたけど、このあたりでも採れるんですね。ふふふ。私は食べ物に関しては結構詳しいんですよ。
なんでも味や香りは特に癖もなく、なんにでも合うそうですね。
一夜茸はこれ、ちょっと難しいキノコですね。白から灰色がかった色合いをしていて、細長い卵のような形をしていますね。墨汁という名前がついているのはこのキノコの変わった特性のためで、熟した一夜茸は一晩のうちに黒っぽい墨汁みたいに溶けてしまうんです。なので採った後ほったらかしておくとえらいことになります。
あ、でもですね、難しいって言うのはそこじゃないんですよ。
このキノコですね、お肉の脂ととても合うんですけれど、その癖、お酒との相性が最悪なんですよ。最悪。一緒にお酒飲むとですね、恐ろしいほど悪酔いする挙句、一週間くらいは体に残るのでその間飲酒が危険なわけですよ。堪ったものではありません。美味しいんですけれど。
反対多数で今日はやめておきました。
ウルウだけは食べてみたいとのことで、一人分乳酪炒めを作ってあげることに。
……ちょ、ちょっとだけなら……いえいえ、ちょっとと侮ると後が……ぐぬぬ……。
気を取り直していきましょう。
ごろっと太い軸に平たい傘、これは杏鮑菇ですね。これは牡蠣茸の仲間……仲間でしたっけか。うん。仲間だった気がします。軸がごっつく大きくてですね、かなり食べ応えのあるキノコです。他は美味しいということ以外よく知りません。
正直私、食用キノコより毒キノコの方が詳しいくらいですからね。
最後は……お、こいつは変わり種が来ましたね。滑子です。これはもう見た目から凄まじいですからね。表面をぬるっとしたぬめりが覆っていて、初見だとこれどう見ても毒キノコですもん。思わず二度見してもこれは毒キノコ判定待ったなしですよ。
ところがどっこい、美味しいんですよ、これ。
小さいやつなんかね、つるつるっ、とぅるとぅるって感じの食感が面白くてですね。成長した奴なんかは今度はそれにシャキシャキとした歯応えが加わって、ま、なんです、たまらんって感じですよ。
胡桃味噌の汁にこれがとぅるんって入ってた日には、まず大地に感謝ですね。
あとは毒キノコなんで嬉々として紹介したいんですけど、食べられないのでまた今度ですね。
処理は、まあ大体、石突の硬いとことって埃を払ってやればいいです。
あ、キノコの類は水で洗っちゃだめですよ。
食感や味、風味が落ちます。でもどうしても気になるときは、濡れ布巾などで軽く拭うとよいでしょう。
あとはこれらと香草を胡桃味噌で煮込めば出来上がり、と言うところですが、何やらトルンペートが怪しげなものを取り出しました。
なんていうか……小汚い茶色をした棒みたいな。
それを……短刀で削って……鍋に入れたー!?
え、それ食べ物なんですか!?
鍋で煮立てて、え、飲んでみろって、ただの木の枝削って入れた奴じゃないですか美味ーっ!
「え、なんですかこれなんですかこれー!?」
「ふふふ、こう言う時の為に手に入れたとっておきの鹿節よ!」
鹿節!
噂には聞いていましたが、まさかたったのこれだけでこんな出汁が採れるなんてすごい木の棒です。
「鹿節だっつってんでしょ。それにしても夢の中で味見た時とはなんか違うわね。結局は夢の中ってことか……」
「え、何言ってるんですか怖っ……」
「引かない引かない」
なんだかトルンペートが妙なことを言い出し始めましたけれど、確かに鹿節の出汁たるや物凄いものがあります。普通出汁と言うと脂の匂いや癖と言った雑味も一緒に出てしまうものですが、この鹿節はとことんまで旨味だけを絞り出したような澄んだ味わいです。
これを鍋に使うというのですから、単純に旨味ばかりが足される美しい数式!
これは私的帝国美麗数式百選に加えたいくらいの完璧な数式です。
いえ、もはやこうなると足し算ではすみません。掛け算です。
鹿節の出汁×角猪の出汁×美味しいキノコたち=百万力です。
これは私的帝国力技数式百選に加えたいくらいの完璧な数式です。
こうして私たちの角猪鍋が完成したのでした。
もうちょっとだけ続くんですよ。
用語解説
・黒喇叭茸(Nigra trumpeto)
トランペットのような形をした黒いキノコ。バターで炒めると美味しい。
・乳酪(Butero)
いわゆるバター。
どうでもいいが果たしてこの世界の乳製品はちゃんと牛からとられているのだろうか。
牛と言う名前のなんか謎の生物だったりするのだろうか。謎だ。
・作茸(ŝampinjono)
いわゆるマッシュルーム。どこでも採れるキノコの中のキノコと言ってよい。
・牡蠣茸(Ostro fungo)
オイスター・マッシュルーム。いわゆるヒラタケ。以前はこれをしめじとして販売していることもあったが今はどうなんだろう。
・一夜茸(Inko ĉapo)
ヒトヨタケ。コプリーヌとも。
徐々に黒く変色しはじめ、インクのような液状に溶けてしまう。
現地語のインコ・チャーポは英名のインクキャップからとった。
・杏鮑菇(Eryngo)
いわゆるエリンギ。エリンギと言う名前はイタリアや南フランスなどを中心に生えるキノコで、エリンギウムというセリ科の植物が枯れたところに生えるからエリンギと呼ばれるようになったようです。
どうして北部のこんなクソ寒いあたりに生えているのかは謎だが、筆者が好きなキノコだからだと言わんばかりである。
・滑子(folioto)
いわゆるなめこ。天然物は言うほどぬめっていないが、雨などで湿度が上がるとどえりゃあぬめる。
前回のあらすじ
角猪鍋と謳いながらもほとんどキノコの解説で終わった。
ゴスリリは割とそういう回が多いので気長に楽しもう。
さて、そろそろ欠食児童どもの腹の音がうるさいからざっくりといろいろはしょって、角猪鍋が仕上がったわ。細かい工程が気になる子は、いつかこう、リリオの旅を冒険譚とか旅行記として出版するときにレシピでもつけるからそれを読みなさい。保証はしないけど。
さて、大きめの鍋にたっぷりと仕上がった角猪鍋だけど、これ足りるかちょっと不安になってきたわね。
なにしろ身の丈はウルウよりも頭一つは大きくて、幅と言ったら二人分はありそうなウールソさんはまずたっぷり食べることは間違いないでしょ。冒険屋ってのは他所のパーティのご飯でも基本的に遠慮なんかする生き物じゃないもの。
この前の地下水道の時だってそうだったでしょ。割と良識人だった《潜り者》だって遠慮なんか欠片もしなかったし、その冒険屋との付き合いの長い水道局の人だって微塵も遠慮せず林檎酒かっ喰らってたじゃない。仕事中なのに。
神官だし、あの実にできた人っぽい雰囲気といい、ウールソさんに限ってそんなことないって言いたい気持ちはよくわかるけど、あの人あれで自前のどんぶり持ってきてるから。リリオのよりでかいわよあれ。
そのリリオはもう、安定してるわ。あの小さな体にどれだけ入るのかってほどに、本当によく食べるのよね。食べた端から全部消化して魔力にでも変換しているって言われても信じるわ、あたし。
常に何か食べる印象があるってよく言われるリリオだけど、実際間違ってないと思うわ。多分食べてないと死ぬのよ。ネズミと一緒で。
あたしも辺境出だからさ、それはまあ食べるわよ。生粋の辺境人ほどじゃなくても、食べるわ。何しろ辺境って言うのは、生きるだけで体力使う土地だから、竜どもと戦うとかそれ以前に、自然の驚異と戦うために命を削らなきゃいけない。その削った命はご飯食べて満たさなきゃならない。何事もまずご飯なのよ。
だから美味しくて腹にたまるご飯作れる子はモテるし、逆にまずい飯作るやつは私刑にあってもおかしくない。
別にあたしがモテるって自慢じゃないわよ。モテるって言っても限度あるもの。やっぱり人間こう、ないよりはあるほうがいいっていうか、平らなより山の方がいいっていうか、要するに見る目がないやつが多いのよ。
さて、残るウルウはって言うと、まるで小鳥みたいよね。図体の割に。
いやまあ、普通に食べるのよ。ちょっと小食かなとは思うけど、それでも最近は食べ切れないってことはなくなったし、ちゃんとご飯食べられるようになってきたのよ。それでも一般人と言うか、普通の町民くらい。冒険屋ならもうちょっと食べてもいいのよ。体力勝負なんだからね。
でも最初の頃はねえ、それこそ食べるってことにあんまり興味持ってなかったから心配してたのよねえ。無理して食べ過ぎて、あとで隠れて吐いてるってこともあったし。
なんてこと言ってたら本当に鍋がすっからかんになっちゃうからあたしも食べないとね。
まず汁を一口。この汁がね、美味しいのよ。
角猪の肉からあふれ出したどっしりとした旨味を、鹿節の力強い旨味が余さず支えてくれる。支えてくれるだけじゃなくて上乗せして純粋に持ち上げてくれる。そして脂の甘味がもたらす確かな心強さ。
胡桃味噌の甘味と塩気がそこに立体的な輪郭をくれるってわけよ。
キノコってのは、煮込んじゃったらどれも似たり寄ったりのもんって思ってる人いるじゃない。まあ半分くらいは当たってるわ。食感とか似たような感じになるし。でもね、その香りはたっぷりと汁にとけこんで、そして鍋全体に膨らみを与えてくれる。胡桃味噌が大地だとすればキノコの香りは空なのよ。
理解る?
あたしには理解んないわよ。酔っ払いの戯言なんだから。
のたのたとなんやかんやあれこれ喋ってたら鍋がなくなるでしょ。
解説はあとよ。食べるのが先。
理解る?
あたしには理解る。
だから食べる。
そして食べたら解説どころじゃないの。
わかるかしら?
わかるわよね?
だから、いつだって正しいご飯の後には正しくこう続くのよ。
「ごちそうさまでした!」
それで終わり。
ね?
さて、ご飯が済んで、後片付けが済めば、あとは、そう、乙女なら身を清めないとね、というのが《三輪百合》のやり方だ。と言うより、ほとんどウルウのやり方よね。
お風呂に入れない野外活動中も、ウルウは絶対に水浴びを欠かさなかった。どうしても水浴びできない時でも、布を濡らして体を拭いていた。
夏の間はそれでよかったかもしれないけど、さすがにこれから冬になっていくんだし、川で水浴びするのも限度があるんじゃないの。
とあたしが言ったらこの女、わざわざそのためだけに倍以上値段がする温泉の水精晶を箱で購入してきやがったのよ。理解る? ああ、もう、これもいい加減面倒ね。そうよ、全然わかんない……といいたいところだけど。
「うあぁ……気持ちいいですねえ……」
「ああ……もう……駄目になるぅ……」
いやはや、さすがのあたしもダメになるわよ。
ウルウが取り出したのは、巨大な金属の筒だった。筒は両側が同じく金属の蓋で覆われていて、何かの容器みたいだった。
ウルウはこの蓋の片方を綺麗に切り取って、川原に組んだ竈の火にかけて中にたっぷりの温泉水を注いだ。
炊き出しの大鍋みたいねって思っていると、ウルウは温度を見ながら中底に木のすのこを敷いた。
それからこう言ったの。
「お風呂だ」
ってね。
それ以来あたしたちは野外活動の時だって欠かさずにお風呂に入っている。
一度に入れるのは、精々一度に一人か二人。リリオとあたしでちょっときついかなってくらい。以前リリオが無理に三人で入ろうとしたときは、三人そろってのぼせそうになったわね。
「…………」
「さすがの《一の盾》でもやらない?」
「風呂の神官でもいれば別ですが、これは、また、《三輪百合》には驚かされ通しですなあ」
うん、おかしいってことはあたしもわかってる。
わかってるし、これを常識にしちゃうと今後困りそうだってのも理解してるけど、それといま気持ちが良くてとろけそうだってのは話が別だ。
いまを……今を、生きる。それが大事よね。やっぱり。
せっかくなのでウールソさんにもお湯のおすそ分けをすることにした。
のだけれど、さすがに殿方だし、何しろ体が大きい。
「いや、拙僧は最後でよろしい。湯も溢れてしまうでしょうし男の後では嫌でしょう」
潔癖症のウルウはともかくあたしたちはそこまで言わないけど、でもまあ、先に入らせてくれるならその方がうれしい。
というわけで、燃料と時間の節約のため、第一陣はあたしとリリオ、第二陣がのぼせやすいウルウ、第三陣がウールソさんということになった。
あたしたちが入浴している間、ウールソさんは周囲の見回りを軽くしてくると場を外してくれた。なのであたしたちは互いに火の番をしながら遠慮気兼ねなく体を洗い、入浴し、さっぱりと汗を流した。
ウルウが早めにお湯から上がって、あたしが魔術で乾かしてあげて、ウルウ特製の檸檬水で髪を整えていると、ウールソさんが野営地から、たっぷりの蜂蜜を溶かした生姜湯を淹れてきてくれた。
自分が最後であるし、長湯はしないから火の面倒は気にしないでよい、とのことだったので、あたしたちはありがたくこの甘くて刺激的なお茶を楽しみながら、湯冷めしないように焚火の火にあたった。
男の人がそうなのか彼が特別そうなのかはあたしたちはみんな知らなかったけれど、確かに長湯せずウールソさんは早々と湯から上がった。
そしてざっと洗った風呂窯を担いで運んできてくれたので、あたしたちは何の気兼ねもなく就寝することができた。
まあ気兼ねなく、と言うのは明日の準備に関してはと言うことであって、実際天幕に入ってからは少し問題だった。
天幕は二張りあって、一張りはウールソさんに使ってもらって、もう一張りはあたしたち《三輪百合》の三人で使うことになっていた。
さすがにパーティ用とウルウが言うだけあって広く、大きなウルウとちっちゃなあたしたち二人なら随分広く使える大きさだった。
それでも、実際に中に入って、ウルウがこんな時でも例のふわっふわの羽毛布団を敷いて、川の字になってさあ寝ましょうとなると、落ち着かないのが出た。
一人は左端のリリオ。なんだか楽しいですねと遠足気分のこのちびっこはそわそわしてまるで寝そうな気配がない。お腹いっぱい食べてお風呂も入ってあったまって、寝る準備は万端整っているっていうのに。
で、人のことが言えない二人目が右端のあたし。もっともあたしがそわそわしてるのは主に不安からだ。そりゃ、三人で一緒に寝るっていうこの非日常感はちょっとわくわくするわ。訂正。三割くらいはわくわくするわ。でも七割くらいは怖い意味でドキドキしてる。
その原因は間に挟まれて顔色の悪いウルウ。さすがにあたしだって、寝てる間に隣で吐かれたらいやだもの。
「ウルウ、あんた大丈夫?」
「……大丈夫」
「ほんとに?」
「…………本当はあんまりだいじょばない」
あんまり、というか、かなり大丈夫じゃない顔色だ。
でも、とウルウは強がるように唇の橋をひくひくと持ち上げる。それで笑っているつもりなんだから大概だ。
「すこしは、慣れないとね。私も《三輪百合》なんだから、我儘ばかり言ってもいられない。ただ、慣れていないだけなんだ。人の体温に触れるのが」
それは多分余り正しい物言いではないのだろうけれど、でも、それでも、あたしたちはパーティとして、仲間の頑張りを無下にすることはできなかった。
「わかったわよ。無理だと思ったらすぐ言いなさいよ」
「……うん」
「では早速寝ましょう!」
寝ましょうと言いながらもウルウに抱き着くリリオ。
あからさまに顔が引きつって強張るウルウ。あ、鳥肌立ってる。
「リリオ!」
「だ、大丈夫。ただ」
「ただ?」
「ご飯一杯食べたから、押されるとアンコが出るかも」
リリオの手は、目に見えて緩んだのだった。
用語解説
・巨大な金属の筒
正確には巨大な金属の缶。ゲーム内アイテム。正式名称《ドラム缶(輸送用)》。
同じくゲーム内アイテム《ブリキバケツ》と同様、液体系のアイテムを回収、持ち運ぶためのアイテム。バケツよりもはるかに容量がある上、同量の液体系アイテムをバケツに汲んだ時と比べて重量値に明確な差異が出る、つまりお得。商人や素材狙いのプレイヤーなど、同じ素材を大量に必要とする場合に用いられた。
なお(輸送用)とあることからわかるように、《ドラム缶(戦闘用)》も別にある。
『便利なもんだぜドラム缶てのはよ。ふたを開けりゃ風呂釜にもなるし、縦に割りゃバーベキューもできる。叩いてみれば楽器にもなる。こりゃすげえぜ! え? 輸送? なにを?』
・生姜湯
生姜のすりおろしや絞り汁ををお湯やお茶に溶かしこんだもの。砂糖を加えたりする。
この日のものは、甘茶(ドルチャテオ)に生姜を摩り下ろして入れ、蜂蜜を加えたものだった。
体が温まる。
前回のあらすじ
お な べ お い ひ い !
お ふ ろ し や わ へ !
ねる。
生き物の体温に慣れていないというのは本当だった。
などと言い訳じみたことを考えたのは、夜中にふと目が覚めたからだった。
夜闇の中でも見通す目に映ったのは、両側から私に抱き着いてすやすやと眠っているちびっこどもだった。道理で重苦しいし寝苦しいわけだ。でも、鳥肌は出ていない。
私は起こさないように丁寧にこの二匹のけだものたちを体から引きはがし、そっと布団をかけ直してやった。
そうして覗き込んでみた顔の何と無防備で無警戒な事か。
私も眠っている時はこのような顔なのだろうか。いいや、きっと苦虫でもかみつぶしたようなしかめ面に違いない。
まったく、あどけない、と言うのはこういう寝顔を言うのだろうか。
起きている間は絶え間なく表情をくるくると変えるリリオの顔は、すとんと眠りに落ちてしまった今はまるで本当にどこかの貴族のお姫様のようだ。実際にそうであるらしいけれど、話に聞いただけで、私はそんなお姫様なリリオに、寝顔以外でお目にかかったことがない。
リリオがきちんと洗練されたお姫様のようにふるまう姿は、ちょっと見てみたいような、見てみたくないような、複雑な気持ちだ。笑ってしまうかもしれないし、そしてきっと、不安になるからだ。
たとえお姫様のようにふるまっても、リリオの本質はきっと変わりやしないだろう。
でもきっとだ。
それは、きっとだ。
必ずってことじゃない。
たとえそれが見かけの上の事であっても、変わるということはなんだか恐ろしく思えた。
私はおもむろにリリオの頬に手を伸ばし、その餅のように柔らかな子供の頬をつねってみた。夢の中でも何かにつままれたのか、むうむうと眉を寄せる、その子供っぽい表情に、私はほうとため息を吐く。
それは多分、安堵の為に。
反対側に向き直れば、トルンペートがおすまし顔も放り出して、すやすやと安らかに寝入っていた。
いつも勝気そうにツンと尖った眉尻も目尻も、いまは柔らかに落ち着いている。
起きている時はシニョンにまとめた髪も、いまは安全な野営地だからか解いているのだけれど、それがふわふわと波打って、なんだかこちらもお姫様のようだ。
お姫様二人に挟まれているっていうのは結構な贅沢なのかもしれないけれど、私はやっぱり少し怖くなって、眉尻をぐりぐりと押してみた。そうすると、ちょっといつもの不機嫌そうなおすまし顔の猫みたいな、ツンとした感じが鼻先に出てくる。
また、安堵。
いつもの姿が垣間見えることへの、安堵。
そうだ。
私にとって変化とはある種の恐怖だった。
生き物の体温に慣れていないというのは本当だった。
父は私と触れあうということが得意ではなかった。
いや、違う。記憶を誤魔化すな。忘れられない癖に。
そうだ。父はよく私に触れた。
頭をなで、肩を撫で、背中を撫で、抱きしめて担ぎ上げて、体温を共有してくれた。
父は愛するということがよくわかっていない人だった。
父は愛というものが理解できていない人だった。
けれど父は、とてもとても原始的な部分で、きっと爬虫類の脳みそで、私とつながりを持とうとしてくれた。
体温の共有は、決して理解し合えない私たち父娘にとって、それでも分かり合えるものだった。
私が生き物の体温を拒むようになったのは、そんな父が亡くなってからだった。
最後に遭った時、父の体はすでに大分体温の低い状態であった。
私は、ああ、そうだ。私はあの日、自分でも不思議なほどに、珍しく父の手を長く長く握っていた。
頭ではわかっていたからだ。父の死が迫っていることを。
翌日触れた手は、私の移した体温などまるでなかったかのように、冷たいものだった。
あの変化が。
あの致命的な変化が。
あの致死的な変化が。
私に変化というものへの怯えを、生き物の体温への恐れを生んだのは、今思えば確かな事のように思う。
いま握っている手の温度が、翌日には冷え切ってしまっているかもしれない。
いま話している相手の声が、翌日にはもう聞けなくなっているかもしれない。
そう思うと、私は人とのつながりを持つことにさえ病的な恐れを持つようになっていた、のかもしれない。
すべては今になって、それこそ後になって、後づけながらにこじつけてみた話だ。
父の体温など関係なく、私は生き物の生暖かさが嫌いだったのかもしれない。
単に私と言う個人が人とのつながりを保つことが面倒だったのかもしれない。
けれど、こうして穏やかに眠る二人と、それに挟まれて横たわる自分と言う光景を俯瞰してみた時、私は確かに幸福というものを感じるのだった。そしてそれを失うことへの形容しがたい恐怖を。それは言い訳のしようがない事実だった。
今日、ウールソに尋ねられた質問が反芻され、思い出された。
私はリリオの見せてくれる世界を見たいと思った。リリオの見ている世界が見たいと思った。
でもそれは本当に私が見たいものなんだろうか。
本当に私が見たいものって何なんだろう。
リリオの背中を見て歩いていても、きっと私はある程度の満足を得られるだろう。
そうして満足の中に緩やかな諦めを得て、最後には鈍い痛みと別れを得られるだろう。
胸を裂く痛みとともに別れるより、それは苦痛の少ない人生だろう。
でもそれは私の人生なのだろうか。
私は一幕の劇を観ているつもりだった。
異世界という舞台で演じられる、リリオと言う女優の演じる劇を。
でも、気づけばその劇にはトルンペートが加わり、いつの間にか私自身も、観客席から駆け上って混じりこんでしまった。
一度死んでしまった自分が、いったい何になれるというのだろうか。
一晩眠ればかき消えてしまう、夢のような存在に過ぎないというのに。
ああ、でも、劇作家はこういっていた。人は夢と同じものでできていると。
異世界が夢で包まれているのなら、私もそこにいていいのだろうか。
リリオの背中だけを見ていたい。
でもリリオの背中だけを見ていてもいいのだろうか。
自分の目で物を見なくてはならない。
でも彼女と離れたくない。彼女たちと別れたくない。
隙間風もない魔法のテントなのに、耳に届く秋の風がひどく寒く感じられた。
酷く切なく、寂しく感じられた。
わたしはゆっくりと布団に体を横たえる。
せめて夢の中でくらい、うっとうしい考えから逃れたかった。
‡ ‡
「……寝てる」
「……寝てますね」
私たちが起き出したころ、珍しいことにウルウがまだ目を覚ましていませんでした。
いつもなら誰よりも早く起き出しているというのに。
私たちはなんだか物珍しくってついついウルウの寝顔を覗き込んでしまいました。
三つ編みに編んでいた髪は緩く波打っていて、そこに沈み込む寝顔は、いつも頭巾に隠れているから分かりませんでしたけれど、驚くほど白くて艶やかです。
起きている時は不機嫌そうか、それともぼんやりとしているか、どちらにせよ余り表情を作らない顔はいま、なんだかとても幸せそうにうっすらと微笑んでいるようでした。
「こうしてると……ね?」
「そうです、ねえ」
私たちは顔を見合わせてそっと笑いました。
貴族の娘の私が言うことでも、その侍女のトルンペートが言うことでもないのかもしれませんけれど。
こうしていると、まるでお姫様みたいでした。
母が亡くなったという報せを聞いたのは、私が十歳になったある冬のことでした。
季節外れのはぐれ飛竜が、吹雪の向こうから不意に顔を出して、母を一口に食べてしまったのだと、そのように聞かされました。飛竜はそのまま飛び去ってしまい、いまもまだ見つかっていないのだと。
沈痛な顔をした侍女頭から報告を聞いたときに、私の胸に去来したのはあまりにも呆気ないなという、空虚な思いでした。言葉を飾ることもせず、取り繕うこともせず、まっすぐに、ただただ簡潔に知らされた内容に、幼い私はただ、そう、そうなのねと頷くことしかできませんでした。
母が死んだ。
そのことが、うまく噛み砕けませんでした。ただただ頭から丸のみに飲み下してしまって、後からじんわりと理解されていくような、そのような心地でした。
人が死ぬということは、辺境ではあり触れているというほどではないにしても、決して縁遠い話ではありませんでした。春に知り合ったものが、次の春には見かけなくなっていることも、少なからず経験していました。幼心にさえそうだったのですから、きっと実際にはもっとたくさんの人たちが次の春を迎えることなく、冬に負けていったのでしょう。
どうして、とか。
なぜ、とか。
そう言った言葉はでてきませんでした。
ただ、もう二度と母には会えぬのだという、その思いばかりがぐるぐるとお腹の中で巡っては消えていき、そして最後にはただぽつんと、母は死んだのだという一言だけが、小骨のように喉元に刺さっていました。
そうでした。
思えば私は母の死に涙一筋もこぼすことがありませんでした。
ただ勘違いしないでほしいのは、それが私が悲しまなかったということではなく、悲しむよりも前にただただ呆然としてしまって、涙を流す機会を逃してしまったという方が正しいように思われました。
それに何より、わたしよりも父の嘆き悲しむ姿が印象的でした。
私がうまく母の死を噛み砕けないでいる間に、死というものに慣れた父は母の死を受け入れ、同時に受け入れ切れず、噛み砕き、なお噛み砕ききれず、飲み下し、その上で臓腑を焼くように焦がれているのでした。
父は冬の氷のようにかたくなな人でした。でもそれは情が薄いからではありませんでした。胸の中の炉の灯を絶やさぬように、ぎゅっと唇を締め上げて、一人薪をくべるような人でした。
父は私たちに涙を一筋も見せませんでした。泣き言もの一つも漏らしませんでした。
それでも私たち兄妹は、父の嘆き悲しむ背中を見ていました。父は一言も、ほんの一言も、語る言葉を持ちませんでした。ただ黙りこくって、それが過ぎ去るのを待って耐えているようでした。それは私たちが見る父の初めての弱音だったのかもしれませんでした。嗚咽にならない嗚咽だったのかもしれませんでした。
珍しく良く晴れた日、私は母が消えたという空を仰いでいました。
夜空はどこまでも広く、広く、青黒く広がっていました。そしてそこには宝石をちりばめたような星々や、神々がのぞく覗き穴のようにぽっかりと白々とした月が輝いていました。
人は死ぬと星になるのだと、人族の古い言い伝えにあるそうです。或いは、空の星々こそ、冥府の神のあやす死者たちの寝床なのだとも。
もしそうだとするならば、母の星はいったいどれなのでしょうか。死んだ母は、あの星空のどこにいるのでしょうか。数えても数えきれない星々の中でそれを探すのは、とてつもない徒労のように思えました。
かあさま。
ぽつりとつぶやいた言葉に呼応するように、きらりと星が瞬きました。それはしゅるしゅると尾を引いて、鮮やかに輝きながら南の空へと飛び去っていきました。
流れ星が消える前に三度願い事を言えたら、その願いが叶う。そんなことを信じる年ではありませんでした。
しかし私は確かに、その星に運命を見たのでした。
あの星の落ちた先に、きっと私の運命があるのだと、幼心に私は確信したのでした。
いまでもそんな子供じみた運命を信じているのかと言われれば、そうだとも言えますし、そうではないとも言えます。おとぎ話を素直に信じるほど子供ではなくなりましたけれど、けれど、私は確かにこうしていま星を手にしているのですから。
私の星。星空から零れ落ちた時の歯車。
あなたはいつだって私の胸に、希望を与えてくれるのだから。
前回のあらすじ
妙な寂しさを覚えたりもしたけど私は元気です。
その日は良く晴れた日だった。
時折木枯らしが冷たく身を切るが、日差しはまだ強く、秋としてはまずまず歩きやすい天気と言えた。
夏の頃と比べればはっきりと人通りは減っていたが、それでもなおヴォーストの街はいまだ活気というものを忘れずにいるようだった。
耳を澄ませばよく乾いた空気にのって、商店の客呼びの声まで、聞こえてきそうであった。
そんな良く晴れた爽やかな秋の日に、メザーガ冒険屋事務所のささやかな執務室にむさくるしい男どもが集っていた。
応接用の長椅子に腰かけたのは土蜘蛛のガルディストと天狗のパフィスト。巨体を座らせる椅子がないので壁に背中を預けているのが獣人のウールソ。
その立場を最低限は主張するようないくらか造りの良い机にどっかりと肘をついているのが、所長のメザーガである。
知る人が見ればそれだけで身構えるような、かつては大いに名を知られた冒険屋パーティ《一の盾》の錚々たる面子が一堂に会する光景は、他所ではまず見られるものではない。
「あ、豆茶が入りましたよ」
そこに可憐な町娘風に装った、しかし実質的にはこの事務所の事務仕事の半分を預かり、メザーガの薫陶を受ける冒険屋見習いであるところのクナーボが、それぞれに豆茶の湯飲みを渡して回った。
「さて、何のことで呼ばれたかわからないってやつはいないと思うが」
酷く面倒くさそうに、メザーガは机の上の書類を指先でぱらりと捲った。
「《三輪百合》の二次試験に関してだが、ずいぶんとまあ甘い採点だな。え?」
じろり、とねめつける視線はしかし鋭さよりもかえって機嫌の悪い子供のような、そんな不貞腐れた色が見えた。この男にはそうした、年相応でない部分が大いにあった。
「まず、地下水道で対応能力を試すとか言ってたガルディスト」
「あいよ、所長さんよ」
「まず、まあ、お前さんはよくやってくれた。さすがに目端が利いてる。報告書も隙がない。連中に十分な対応能力があり、向上心も旺盛だということはわかった。それにいざというときの爆発力もな」
「確かにまだ未熟だとは思うがね。それを差し引いても成長性は確かなものだと踏んだぜ」
「そういう分析は、わかる。確かにお前さんの報告書を読む限りは実に納得がいく」
だが、とメザーガは報告書を机に叩きつけた。
「後半のスキヤキとかいうのは何だ」
「うまそうだろ」
「うまそう過ぎてこちとら夜食作る羽目になったわ! 後半丸々使って味だの歯応えだの酒との相性だの散々書きまくりやがって! 嫌がらせか!」
「半分は」
「こんのっ歯に衣着せねえーなーもー!」
「クナーボにも作り方は教えてやったろ」
「おかげで太る!」
冒険屋というものは基本、食事が資本である。つまり、飯で体を作る。
運動量が多い現役のうちはそれでいいが、メザーガのように現役を退き、もっぱら事務仕事に精を出すようになってからも、食習慣が変わらないとどうなるか。
太る。太るのだ。
いまのところは現役時代に蓄えた筋肉がもたらす基礎代謝と、クナーボに稽古をつけてやるついでに軽い運動をしているおかげで醜く肥え太るということはない。しかし、確実に摘まめるところが摘まめるようになり始めてはいるのだった。
「ぼ、ぼく、余計なお世話だったでしょうか……」
「あー……んー、ぐ、む、ま、まあうまいものはうまいから構わん。次!」
涙目のクナーボから目を逸らし、メザーガは次の報告書を手に取る。
「こいつはつい先だっての事だから記憶にも新しいが。パフィスト」
「はい」
「俺が依頼したのは『見習い冒険屋どもの適性試験』だったと思うんだが」
「その通りですね」
にこにこと変わらぬ笑顔で平然と返してくるあたり、こいつ狂人なんじゃなかろうかと常々思うメザーガであったが、しかしそういうやつですからで流すわけにもいかない。
「報告書には、甘き声の群生地に誘い込んで、精神攻撃を受けさせたとあるが」
「それが何か」
メザーガは思わず天を仰いだ。
と言ってもそこにあるのは年季の入った天井だけだが。
ああ、少し埃が見える。クナーボじゃ手が届かんからそのうち掃除してやらんとな。
そんな現実逃避も一瞬。メザーガは思考を切り替えた。
「死んだらどうするつもりだった」
「その時はその時では?」
これだ。
メザーガは溜息とともに豆茶に口をつけた。
芳醇な香りが、優しくさえ感じる。
「他所のパーティにおんなじことやってたら訴えられてもおかしくないからな、これ。いや、同じ事務所内であってもだ、褒められたやり方じゃあねえな、こいつは」
「僕らだって同じような経験積んでますし、遅かれ早かれ、ですよ。それに若い頃の方が心に柔軟性がありますから、早めの方がむしろ良かったんじゃないですかね」
ぐへえ。
思わず嫌なため息が漏れる。
これが単なる言い訳の類であれば、メザーガも拳を握ったことだろう。
二、三発殴りつけて、頭を冷やさせたことだろう。
だがパフィストと言う男は、森賢という連中は、基本的にこれなのだ。
この発言は言い訳どころか、心底いいことをしたと思っての発言なのだ。
悪意も悪気もありはしない。
親切にも試練を課してやったのだ、こいつからすれば。
「天狗どもの考え方は、何年付き合ってもわからん」
「僕としてもどうしてそんなに分かり合えないのか不思議ですよ」
「お前の方からは歩み寄ってるつもりなんだろーなー」
「ええ、歩み寄りが大事ですとも」
はっきりと嫌味とわかる口調で言ってやっても、これだ。
とはいえ、悪気も悪意もないし、普通にしている分には付き合いもいいし話も分かる、それこそ典型的な里天狗でさえあるのだ。
全く隣人関係というものは難しい。
人間関係の調整のうまいガルディストがいなければとっくのとうにこのパーティは解散していたようにさえ思われた。
「まあ、いい。もう、いい」
「そうですか?」
「そうですよー」
これ以上この森の賢者と話していてもいいことなどない。
若い頃はよくぶつかり合ったような気がするが、年をとってからのメザーガは、いい意味でも、悪い意味でも、落ち着いた、落ち着いてしまったような気がする。
大人になるということなのかもしれないし、不自由になったということなのかもしれなかった。
「さて、最後はウールソか」
「で、あるな」
「お前さんはお得意のソモサン・セッパか」
「これでも僧職の身でありますからなあ」
ウールソと言う男は、難しいところがあった。
獣の神の神官というものは誰も気性の荒いものばかりであり、その中でウールソ程自制の利いた神官というものをメザーガは他に知らなかった。
武者修行の一環として森に陣取り、旅人や冒険屋相手に誰かれ構わず喧嘩を吹っ掛けていたものだが、それでさえ相手の了解を得てからと言う実に紳士的なものだった。
旅の仲間を求めていたメザーガはその噂を聞きつけて彼の方から勝負を挑み、死闘の末にその信頼を勝ち取り、その後の長い旅路を共にする友となった。
まあ、このあたりに関する諸々は両者の間で理解が異なる部分もあるが。
「言っちゃ悪いがお前さんが一番甘々じゃないか」
「左様ですかな」
僧職を自称するだけあって、ウールソの説法はガルディストとは別の形で人の嫌な所を突く時がある。それこそパフィストの悪意ないくちばしのような鋭ささえある。
とはいえ報告書にまとめられた内容はどうにも、「深く考えていませんがこれからも頑張ります、まる」といった具合にしかメザーガには汲み取れなかった。
「まあお前さんにはお前さんに見えるもんがあったんだろうが……物になりそうか?」
「まだ若い、というのは確かですな。未熟と言える。しかし可能性というものは大いに見られるでしょうな」
と言うよりも、とウールソは顎髭を撫でつけた。
「拙僧としては、メザーガ殿、おぬしの方に、彼女らに冒険屋を続けてほしくない、そういう故があるように思われますがなあ」
「…………ま、坊主に嘘は吐けねえわな」
メザーガはがしがしと頭をかいて、そして素直にそう認めた。
実際のところ、こうしてわざわざ試験など課すのも、全てはメザーガの都合だ。正確に言うならば、娘を旅にやりたくない辺境の一貴族と、親戚をわざわざ危険な職につけたくないメザーガの都合だ。
リリオの父親であるドラコバーネ卿の思惑は知ったことではないが、メザーガとしては従兄妹の娘であるリリオを旅に出したくはないという強い気持ちがある。旅の末にあの娘が出会うであろう真実を思うと、誰が旅を後押しなどできようか。
しかしそれは大人の勝手な都合だ。
若者には若者の都合があり、若者には若者の未来がある。
かつて若者であったメザーガが、自分の都合で旅を始め、自分の都合で腰を落ち着けたように。
「だが、ま、それとこれとは別問題だ」
勝手だろうとなんだろうと、若者に若者の都合があるように、大人には大人の都合がある。
「俺は俺の都合で動く。そうしたいがために冒険屋なんざになったんだからな」
「こういうのを大人になり切れなかった子供と言うんでしょうなあ」
「ああはなりたくないものですね」
「俺もさすがにああはなりたくねえなあ」
「お前らね」
前回のあらすじ
おっさんにはおっさんの都合がある。
その日は良く晴れた日だった。
時折木枯らしが冷たく身を切るけど、日差しはまだ強く、秋としてはまずまず歩きやすい天気と言えた。
夏の頃と比べればはっきりと人通りは減っていたが、それでもなおヴォーストの街はいまだ活気というものを忘れずにいるようだった。
耳を澄ませばよく乾いた空気にのって、商店の客呼びの声まで、聞こえてきそうであった。
そんな良く晴れた爽やかな秋の日に、メザーガ冒険屋事務所のささやかな執務室に私たち《三輪百合》は集められていた。
応接用のソファに私たちは腰を下ろしていたけれど、たかだか冒険屋事務所の、執務室兼応接室においてあるようなソファにしては、なかなか座り心地が良かった。
そしてその立場を最低限は主張するようないくらか造りの良い机にどっかりと肘をついているのが、所長のメザーガだった。貫禄があるというには少々若いし、かといって若者と呼ぶにはいささかダンディすぎる。
知る人が見ればそれだけで身構えるような、かつては大いに名を知られた冒険屋パーティ《一の盾》のリーダーであったらしいけれど、正直いろんな意味で全くの余所者に過ぎない私からすると、下っ腹が出てくることに対して恐怖を覚え始めている中年としか思えない。
「あ、豆茶が入りましたよ」
そこに可憐な町娘風に装った、しかし実質的にはこの事務所の事務仕事の半分を預かっている労働基準法違反のクナーボが、それぞれに豆茶のカップを渡して回ってくれた。
「さて、今日お前たちに集まってもらった理由だが」
絶対に笑ってはいけない冒険屋事務所とかだろうか。
そんな風にのんびり構えていたのだが、どうもこの胃がねじ切れそうなほどに面倒臭そうな顔をしているおっさんはそれどころではなさそうだった。
「はっきり言って、俺はお前たちが冒険屋をやっていくことに正直反対だ」
「えー、まだそう言うの蒸し返すんですかー」
「もうそのやり取り終わった」
「あたしお昼ご飯の支度あるんですけど」
「おっまえらほんっともう、ほんと、年頃の娘たちってのはよーもー」
私はもう年ごろと言うにはちょっとトウが立っているのだけれど、それでもまあ女三人寄れば姦しいと言う。甲高い女三人の声でなじられればさすがにおじさんとしては辛いものがあるだろう。
「あのな、おっさんはな、お前らの安全を思ってだな」
「乙種魔獣を平らげる乙女に身の安全もあったもんじゃないと思う」
「いや、それそれとして乙女として心配はしてほしいんですけど」
「安全もいいですけどおちんぎん上がりません?」
「もーやだこいつらー、なに? おっさん虐めて楽しい?」
正直ちょっと楽しい。
まあでもこれ以上遊んでも時間を食うだけだ、大人しく聞こう。
「ともかくだ。俺も、リリオの親父さんも、お前たちに危険な冒険屋稼業なんて続けてほしくない。だがお前らはやりたい。そこで折衷案だ」
「せっちゅうあん?」
「いいとこどりってとこかな」
「要するにだ。お前たちは冒険したい。俺達は危険な事をしてほしくない。これを両立できればいいわけだ」
そんな無茶な、とは思うけど、まあ何となく持っていく先は読めた。
私はどうでもいいけど、リリオが反発しそうなやつ。
「つまり、お前たちはこのまま冒険屋を続ける。俺の膝元で。これなら心配症のおっさんどももいくらかは安心できる。そうだろ?」
「まあ、そう、ですねえ」
「そう、俺達も妥協してるんだ。わかってくれるだろ、リリオ」
「う、ええ、それ、は、まあ」
押されてる。こんなぐだっぐだの交渉で押されてる。
《三輪百合》の一番の弱点って、交渉得意なのがいないってことだよね。
基本脳筋なんだよ、このトリオ。私も含めて。
「そんで、俺達が妥協するのと同じくらい、お前達にも妥協してほしい」
「う、ううん、妥当な気もします」
「妥当なんだよ。な?」
「うええ……は、はい……?」
「うん。妥当だ。それでお前たちに妥協してほしいという点だけどな」
メザーガは少し冷めてきた豆茶を口にして唇を湿らせると、ことのほか明るい様子で妥協案とやらを提示してきた。
「なあに、難しいこたぁねえ! ただちょっと、旅に出るのはやめてもらおうって」
「嫌です」
「話なんだけどよぉ……まあ、わかってたとはいえ、傷つくぜ、おっさんも」
「嫌なものは嫌です」
そう、脳筋なんだよねえ、うちの面子。そもそも難しい話聞いてないんだもん。
まあ、話の流れは読めていた。
要するに、危険は危険でもまだ、《一の盾》のおひざ元であるヴォースト付近での冒険屋稼業ならまだ安心できる。だから近場での冒険で満足してもらって、旅に出るのは諦めてもらおう。とそういう話だったんだろうけれど、何しろリリオの大目的が旅に出ておふくろさんの故郷まで行くことだ。冒険が小目的でしかない以上、これは成立しないよ、もともと。
まあメザーガもわかっていたんだろうけれど、それでも恐ろしく面倒くさそうにため息を吐いている。
「なあ、リリオ。俺もそれなりに冒険屋をやってきて、それこそ酸いも甘いも体験してきた。お前さんなら乗り越えられるかもしれねえとは思うが、それでもあえて挑んでほしいとはとてもじゃねえが思わねえ。親心みてえなもんだ。心配してるんだ。わかってくれ」
「わかります。でも嫌です」
「ちょっとでいいんだ。大人になってくれ」
「私はもう成人です。ずいぶん待ちました。あと何年待てばいいんです」
「……そういうことじゃあねえんだ。諦めてくれ」
「い、や、で、す」
「…………」
メザーガは深くため息を吐いて、シガーケースから煙草を取り出し、それから思い出したように苛立たしげにそれをしまい、代わりに棒付きの飴を取り出して咥え、がりがりと齧った。
「ああああああああもうよぉおおおおお、おっさんの方が嫌だっつってんだよぉぉぉおおお」
という心の叫びが聞こえてきそうなほどの顔面芸ではあるが、あまり長いこと見ていたくなるような顔面でもない。リリオと一緒で大人しくしていれば割といい顔面だと思うのだが、南部人の血統は表情を大人しくさせるということを遺伝的に放棄しているのだろうか。
飴をすっかりかみ砕き、棒自体もこれ以上ない程に噛み潰し、ゴミ箱にぽいと放り投げてから、落ち着きを取り戻したメザーガはダンディに豆茶をすすった。
「そうか。わかった」
「わかっていただけましたか!」
「馬鹿犬は多少痛い目を見てもらわねえと躾にならねえってのがわかった」
こんなことはしたくないとか、こんなことは言いたくないとかいうやつの大半は、したくて言いたくてたまらない連中だが、少なくともメザーガは心底したくもなければ言いたくもないという大人であるようだった。何しろ面倒だからだ、と言うのが透けて見える。
「最終試験を受けてもらう。それを合格できなけりゃ、荷物をまとめて辺境に帰ってもらうぜ」
「試験って言いますけど、それって最初に来た時にうけましたよね?」
「ありゃ見習いとしての試験だ。いまのお前は冒険屋見習い。馴染むまでは見習いっつったろ」
「大分馴染んだと思うんですけど」
「それを見定める試験だ」
メザーガは改めて棒付きの飴を取り出すと、今度は噛み砕かずに、かちかちと歯で軽く噛みながら、手元の書類をぺらぺらと捲った。
「うちの古株どもの試験によりゃ、お前たちはまずまず優秀と言っていい。見習いとしちゃな」
「パフィストのクソのあれを試験扱いするのはどうかと」
「うちのクソがその節は御迷惑をおかけした」
その点に関してはメザーガもクソ扱いは同意するらしい。
「ただ、やりようはクソだが、試験難易度的にはあれ位は目安だったと思ってくれていい」
そして人格とは別に仕事はきちんと評価するのがメザーガと言う男らしい。
「クソだが」
人格はやっぱりクソ扱いらしい。
「それで、だ。見習い卒業の最終試験としては一番わかりやすいものを持ってきた」
「わかりやすいものっていうと」
「そうだ。腕っぷしを見せてもらう」
「乙種魔獣じゃダメなんですか?」
「ありゃちょっと採点甘くしたところもあるし、魔獣ってのは事前に準備しとけばそれほどの相手でもねえからな」
まあ、言うほどの難易度ではなかったかなと感じていた。でもあれは何の準備も知識もなく当たっていれば相当な被害だったはずで、段取りが大事なのはどの業界でも同じことらしい。
「段取りが冒険屋の仕事の殆どだと言っていいが、かといって仕上げが杜撰じゃ話にならねえ。地力の部分がどんだけ育っているか、そいつを見せてもらうために、うちの冒険屋連中と当たってもらう」
「フムン。まさか《一の盾》を真っ向から打ち崩せとか言わないですよね」
「さすがに手加減はしてやる。形式は一対一。実力差を埋めるためにある程度条件付けはするが、基本的には単純な殴り合いだと思ってくれていい」
リリオはそれで納得しているが、脳筋トリオの頭のいい方担当としてはもうちょっと情報を集めておきたい。トルンペートをちらりと見やれば、彼女も同じようだった。
「それで、メザーガさん。試合はどこで行うのかしら?」
「知り合いの石屋が持ってる採石場跡を訓練所として借りてる。そこを使うつもりだ」
「天候は関係なし?」
「と言いたいところだが、おっさんも年なんでな、こんな寒い秋に雨に濡れながら観戦なんぞしたくねえ。雨天中止だ」
「試合のカードは?」
「当日までの秘密、と言いてえところだが、まああんまり不利にすると可哀そうだからな、教えておいてやる」
勿体ぶるでもなく、メザーガは手元のメモ紙にさらさらと対戦表を書いて寄越してくれた。
もっとも、その気軽さとは裏腹に、中身は私たちを大いに困惑させるものだったが。
第一戦目 トルンペート・オルフォ 対 クナーボ・チャスィスト
第二戦目 ウルウ・アクンバー 対 ナージャ・ユー
第三戦目 リリオ・ドラコバーネ 対 メザーガ・ブランクハーラ
「私の苗字結局アクンバー扱いなのか……」
「そこ!?」