「ねえ。橘さん」

「なに?」

「ワガママ聞いてくれる?」

「うん。なんでも聞くよ!」  

 私がそう答えると、藤堂君は少し躊躇してから意を決したような表情で言う。

「あの、明日、お弁当つくってほしいんだ」

「そんなことでいいの?」

「え?! そんなこと?! ものすごく贅沢だと思うんだけど」

 藤堂君はそう言うと真面目な顔でこちらを見てくる。
 子どもみたいでかわいいなあ。

「それに、僕らみたいな任務があるとさ、手作り弁当どころか人がつくった料理なんかなかなか食べられないんだよ」

 ん? いますごく自然な流れで一瞬わからなかったけど中二病発言だね。
 まあいいや。聞かなかったことにしよう。

「じゃあね、藤堂君の好物ばっかりのお弁当にするよ。なにがいい?」

「から揚げ食べたいなあ」

「うん。から揚げね」

「あっ。オムライスもいいな。でもオムライスってお弁当にできない?」

「大丈夫!」

 私はそう言ってどんと胸を叩いた。藤堂君のためならなんだって作るんだから。
 好物を真剣に考える藤堂君の横顔は、楽しそうなのになぜかすごく寂しそうな、悲しそうな表情に見えた。
 すると藤堂君がスマホを取り出して、画面を確認してから立ち上がる。

「ごめん。引き止めちゃったね。そろそろ帰ろうか」

 もう少し一緒にいたい。
 そんなワガママを言えるような雰囲気じゃなかったのは、藤堂君がどこか緊張したような顔をしていたから。